Casa

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住まい探しの・・。


 天野なつみはそろそろ結婚をと考えているのだが住まいが決まらない。
 今の住いから離れていても良い物件なら問題は無い。其れで幾つかの異なる路線の駅周辺で物件を探している。
 東京では大抵の路線が都心を周回している山手線の主要駅に到着する。
 其れだから知らない駅から乗ったとしても、電車はどの道何れかの主要駅に着く。
 通勤には全く支障が無いから、寧ろ景色が違う方が気分転換になって良いのではと。
 今日も結婚相手の今井幸雄とカフェのtableを挟みアパート探しを。
 幸雄がスマホのネット検索で次から次へと候補先の物件を探し出してはなつみが見易いようにと画面の向きを変える。
「此れなんかどうかな?月五万円台なんて安くない?間取りはこれ?」
 と、なつみに問いかけるのだが、
「洗濯機が外っていうのがね?」。
「集合住宅は周囲の部屋といろいろありそうだから?」
「其の写真で見る限りあまり綺麗に見えなくない?」
「駅からバスっていうのも不便ね?」
 と、どれも此れも彼女のお気に召さないようで時間ばかりが過ぎていく。
「其れじゃ中古マンションはどう?分割支払いなら賃貸と変わらないと思うけれど?」
 二時間ばかり経っても話は纏まらない。幸雄も困り果てている。
 最後に幸雄が探しあてた物件は。
「格安の上交通の便は良い。買い物にも便利で手続きにしてもそれ程手間がかかりそうもない。間取りは希望通りだし専有面積も広い。しかも防犯対策は完璧のようだし・・」 
 此れで駄目なら今日はやめにしようと思い、なつみにスマフォを渡し図面や写真を見て貰った。
 幸雄は半ば諦めという心境であるから、店を出ようとスーツの上着を着たままスマホが戻って来るのを待っている。
 だが、なかなか戻って来ない・・?
 彼女の表情を遠慮がちに窺っている幸雄・・。と、目の前の瞳が大きくなり。
「此れいいんじゃない?ええ、いいわよ」
 すっかり一人合点(がてん)をしているなつみを見ていたのだが・・実は自分は良く見て無かったからと、今度は幸雄がスマホを返して貰い確認を・・。
 幸雄には何処がそんなに良いの?と思えたのだが・・彼女に調子を合わせるように頷きながら。
「そうだね。いいんじゃない?君がいいなら・・いいよ・・きっとぉ」
 と、語尾を下げる程で。実は少しお疲れだったのだが・・。
 二人は其の足で仲介の不動産屋に向かう。というのも良い物件は他の客に先を越されてしまうに違いないと思ったから。
 不動産屋は幸いM駅のすぐ近く。
 二人は物件が幾つも貼られている格子模様のドアの手前に立つ。自動ドアは小さな音をたて開いた。
 店の主人らしき人物が出て来、愛想良さそうに挨拶をした後カウンターの手前の椅子を指し示すと、
「どうぞ・・」。
 二人並んで腰を掛けるや否や。
「此の物件なんですけれど・・まだ決まってませんか?」。
 幸雄がスマホの画面を店主に見せながら尋ねる。
 頭のてっぺんの髪が薄くなっている店主は、ファイルを納めてある棚にずらっと並んでいるファイルから一つを取り出し、笑顔でカウンターの内側に腰を掛けながらファイルをカウンターに・・。
 幸雄が其のファイルと店主を交互に見ながら、
「まだ、空いてましたか?」
 と、カウンターの上のファイルを凝視したまま話し掛ける。
 店の奥から店主の妻女らしき中年の女性がお茶を三人分丸盆に載せ出て来た。
 どうやら客が来店すれば、店内に備え付けてあった監視カメラが来客を捉え妻女が其れに気付く、というような仕組みになっているようだ。
 幸雄が、店の壁に掛けられている宅地建物取引業者である事の許可証が納められた額を何気なく見るが、まだ登録年度が新しいからと、幸雄の腕を肘(ひじ)でこずき、
「あれ、まだ最近なのかしら?」
 と、幸雄が視線を額に移す。
「うん、そう言えばその様だな」
 と納得しながら店主に話し掛けた。
「ご主人、此方のお店はまだ開店して間もないんですか?」
 と、許可証に目を遣りながら尋ねた。
 店主はカウンターの上でファイルを滑らす様に二人の正面に回転させ、
「いやあ、開店したのはかなり古いんですけれどね。法人にしたので此の店は新しい表示になっているという訳でして。此の建物はそもそも回転寿司だったのを今時流行(はや)らないからと店を閉めたので、安く手に入れる事ができたと。此のカウンターも昔は寿司皿が流れていた様ですよ?ああ、其れはそうと・・」
 と店主は物件の説明をしだす。
 確かにネットで見た通りの説明で嘘偽りでは無さそうだし家賃も決して高くは無い。
 二人は顔を見合わせると笑みを浮かべながら頷く。
「此れ、早速見に行ってもいいですか?」
 店主は喜色満面で掌をすり合わせると一つ返事で鍵を渡してくれた。
 幸雄が少し驚いた様に、
「あれ?ご主人、案内してくれないんですか?勝手に見ちゃっていいんですか?」
 と尋ねれば店主は少しも笑顔を絶やさず、
「案内?いいですよ。其れから敷金は無し礼金は一か月ですから宜しくお願いします。ああ、その内お子さんも出来るでしょうから、まあ多少騒いだって近隣から苦情が来る事なんてありませんから、ええ・・」



 二人を車に乗せた店主は物件を目指し・・とはいっても僅か五分もしないうちに目的地に到着。
 二人は周りを見回して驚いた。
「確かに駅からは近いし、スーパーはすぐ傍に何軒かあるし、いろいろな店も・・こりゃ便利なんてものじゃ無いな」
 と幸男が話せばなつみも頷き辺りに目を遣る。
 店主が案内するままに二人は後からついて行った。
 大きな建物だ。しかも新しそうだから・・此れで家賃が・・?と、少し奇妙な気もする。
 大きな建物の中は天井も高くホールの用になっているが、その上の二階に部屋が幾つかあると言う。
 確かにネットで見た通りで交通の便は良い・・駅まで歩いても十分も掛からないだろうし、買い物にも便利な事は先程見た通り。
 ホールを通り抜けるのだが・・広い。至る所に監視カメラが設けてあり人の姿も沢山見え、AIの様な姿が見えるが・・人類そっくり。
 其のAIは二人が前を通ると愛想良く頭を下げる。
 店主が謂うには今年の法律改正で、
「公務員は無駄という事で、議員と同様皆別の職種に転向になり、より優秀なAIが其れにとって代わり市役所や地方公共団体の仕事全般を任される様になったから、随分便利になりましたね。住民の苦情も無くなりサービスは向上するわ、手続きは改正前の十分の一の時間で処理されますから」。
 幸雄が、
「市役所って?此処・・市役所何ですか?それで、防犯は万全、手続き関係は迅速便利、と、確かにネット記載の通りだが・・」
 となつみの顔を見ればなつみは頷く。
「でも、人が多過ぎ賑やかなど通り越しているようね。後は部屋の中よね・・どうなのかしら?」
 店主の先導でエレベーターに乗るが二階だからすぐだ。
 三人がエレベーターを降りると広い廊下が待っていた。
 その廊下に各部屋があるのだが店主が鍵を開け中を覗くと部屋の広い事・・。
 一応部屋の間仕切りはあるが、使いこなせるかという程広い。
 店主が再び喜色満面で謂う。
「どうですか?敷金は役所だからいらないし家賃は格安と・・」
 幸雄が部屋の中に入りいろいろな設備が備わっているかを点検したが、一応何でも揃っている様だ。
 水道の故障でも電気だろうがガスだろうが、下が役所なのだからその点スピーディーな対応が出来るようだ。
 二人はいよいよ決めるかどうか考えていたが、ネットにうたってある事は全てクリアーしている。
 結局、契約をするに至った。
 店主が謂っていた、
「子供が出来て、少しくらい騒いでも大丈夫」
 と言う理由も分かった。

 



 市役所の右隣は大きな消防本部、左側は中央警察署と一日中サイレンや騒音が凄い事と、何とか公報のスピーカーが、
「何処何処の老人がいなくなりました、お気づきの方は警察まで」
 など、一日に何回か市内全域に聞こえる様にと大きなスピーカーから通知を。
 慣れればいいやと思った二人は契約書に印鑑を押印した。

 


 契約書の日付は、「祥公元年7月7日」。




 幸雄は、だだっ広い部屋の巨大な風呂桶に浸かりながら溜息を漏らす。
「俺が生まれたのが令和の次の次の開正元年だったから、世の中も変わるわけだよな」
「・・貴方?・・タオル、此処に置いておきますから・・食事にしましょうね・・?」




「君、弱い事を言ってはいけない。僕も弱い男だが、弱いなりに死ぬまでやるのである。夏目漱石」



「成すことは必ずしも困難ではない。
が、欲することは常に困難である。
少なくとも成すに足ることを欲するのは。芥川龍之介」



「金は食っていけさえすればいい程度にとり、喜びを自分の仕事の中に求めるようにすべきだ。志賀直哉」



 「Monotonous by europe123」
 https://youtu.be/dugG3yVnaSU

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新婚の二人の差がした部屋は・・。

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結局、素晴らしい部屋も、案外、奇妙なものなのかも知れない。 現代から・・将来というものが・・あるとすれば・・結構な事・・。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-12-30

Copyrighted
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