邦題 芸術も理解できない青い惑星だが、レプリカは大事に残しておくよ・・。

邦題 芸術も理解できない青い惑星だが、レプリカは大事に残しておくよ・・。

前作課題「コピア」を下地にした作品。


 Ez egy kék bolygó, ami nem is ért a művészethez, de a replikákat megtartom.
 「そろそろ帰るか」



 午後は出掛けて直帰が多いから、久し振りに定時を過ぎてもデスクに向かっている。
 期末の纏めが控えているから整理をしておかないと出掛ける暇が無くなってしまう。
 誰もいなくなった・・とは言っても同じFloorの営業は数人い残りがいる。
 手っ取り早く済ますには、株主のレベルを一人を除き三段階ぐらいに分け、事業の進捗状況を分かり易く纏める。
 手際よく進めていくとどうにか目途がついてくる。此れならあと三十分もすれば帰れるとようやく肩の荷が下りたような気がした。
 一年に一度のこの作業を如何に上手く纏めるかにより株主の評価が決まって来る。
 日常の業務など三宅澄夫にとっては何の造作も無い事、役員の中でも却って目だち過ぎる程。
 其れで、期末の総まとめが最後の駄目押しのようなもの。
 役員の中には要領の悪い者もいる、というより地位に甘んじ過ぎ、プライドが高いだけでまるで見張り役。
 常にトップの地位にいる事でプレッシャーを感じる事もあるが、終わってみればまたトップ。
 プレッシャーを言葉で現わせば「足をすくわれる思い」という事になるのだが。
 同僚役員からは、「また三味線を弾いている」と陰口を叩かれる事になるが其れを気に留めるつもりは無い。
 十年も常勝という事は記録的な事に値するのだが、其の心中は他の者には理解できないだろう。
 常に実力と危惧は裏表の関係にあるが、危うくなった時にどういう手を打つかが個人差に繋がる。
 株主との面談なども敢えて電話や文書で各株主の要望するところを踏まえ必要に応じ訪問の対象とする。
 当然ながら結果は事前に手中に収めたも同然。他の連中は相手の顔色を窺いながら話を持って行く。
 顔色に応じての交渉となれば、予めの対処方も・求められる数字も・読めなくなる。
 作業も一段落し帰る事になるが。営業の社員はまだ何人か残っている。
 澄夫の頭上の蛍光灯の灯りが消える。




 帰宅をするには地下鉄から私鉄に乗り継げば最寄りの駅まで小一時間で着く。
 と、其処で嫌な事を思い出した。他愛もない事だがコピー機のスイッチを消し忘れた様な気がする。
 気になれば余計に、戻らなければいけないと。其処でふと頭に浮かんだのは。
 確か先程残っていた営業の中に気心の知れている若者がいた。
 地下鉄の乗り換えホームからスイッチの件を彼に電話しホッとして風を巻き込むように侵入して来た電車に。
 久し振りに遅くなり車内は空いていたが、座席に座ろうとした瞬間。
「やはりコピー機のswitchが付きっぱなしになっている」
 其の光景が浮かぶ。
 慌てて閉まりかけたドアをすり抜けホームに逆戻り。
 再び今降りたばかりの電車に乗りこみ会社へ向かう。 こんな事なら最初から戻っていれば良かったと呟くうちに社のテナントが姿を現した。
 その下に立ち九階の窓を見上げるが、やはり誰もいない様で真っ暗な窓ガラスに月の灯りが映っている。
 入口の顔認証に身体を近づければ、Elevatorが降りて来ドアが開く。
 腕時計に目を遣るとじきに管理する警備会社が巡回に来る時間。
 九階でエレベーターのドアが開くと、微かな緑色の灯りが見える。
 人類の気配はしなく、何だ奴ら返ったのか・・と。
 事務所に入るなり・・やはり・・警備員達の姿が背後から。
「・・ああ、お疲れ様です。今日はこんな遅くまで大変でしたね?」
 愛想の良い声も異常が無いかを簡単に確認するだけ。表の道路から警備員の乗った車が走り去って行く音が。
 コピー機のswitchを切る。
「・・やはりあいつ切り忘れたのか?」
 若者だけに早く帰りたかったのかも知れない・・など考えながら事務所と廊下の仕切りのドアを閉めElevatorに向かう。
 その前にもう一度仕切りのガラスを確認するが・・ガラス越しに切った筈の緑の灯りが付いている。
「・・故障か?」
 コピー機には今は他の機能も備わっている。
 少し驚いたが、近付いた機械から音がしだした。ファックスの流れるぎこちなさそうな音・・。
 今度はスイッチではなく、其の流れてきたファックスの文書に視線を移す。
「・・しまった・・」
 一番の株主との約束を忘れていた事に気が付いた。
 文書を読みながら・・もう一つ忘れていた事に気が付く。
 一年に一度・・いや、あの株主は偶に顔を合わすだけで・・こんな事も・・しかし、言い訳は通用しない。
 飛び抜けた存在の株主だけに・・。
 文書には大した事など書いてはいない。只、すぐに信号が送られてきた。



「約束は守ってって・・?」
「ああ・・悪かったつい・・」
「鍵は持っているわよね?」
「勿論・・申し訳ない」
 役員室の金庫を開ける・・。
 金庫にしまっておいた風変わりな鍵は、約束であり絶対になくせないもの。
 鍵とはいっても普通の鍵ではなく・・先ず滅多にお目に掛れないもの。



 
 今からでも遅くは無いかと尋ねたが、構わないと。
 既にコピー機の灯りは消えている。足早に建物を後にする。
 何せ約束を忘れていたんだからと、気が焦る。帰るつもりだったのだから・・間が抜けていた。
 電車に乗っても落ち着かないのは・・仕方がない・・。



 待ち合わせの高層ビルに着き、エレベーターで最上階まで・・更に屋上に・・。
 彼女は、屋上のテラスにもたれている。
「仕事の調子はどう?」
「ああ、お陰さんで・・何せ格別の株主で・・」
「何でも・・見えるってあまりいい事じゃないわね?人類も憐れよね・・でも、其れ迄は私が面倒みるわ」
 澄夫は、彼女が何者かは勿論承知の上。彼女が自分のマニュアルを手渡してくれながら・・二人の頭脳同士で交信をする。
 業績を維持して来れたのも、彼女のお陰だ。
 何せ、青い惑星での大手会社の資本は出先が特定されているし、企業の買収などはお手のもの。
 それどころか・・人類では想像もつかない程・・凡そ百五十億年進化している「巨大な創造された球体」が其の本拠地であり、仮称・連盟とでも呼ぶしかない組織に加盟している「創造惑星」は、仮称「異次元空間」や三次元宇宙に数多と存在する。
 人類は青い惑星の消滅まで一億年としても・・とても生き残る事は無理だろう。
 尤も、宇宙の如何なる進化した生命体でも人類と同じ様に死には限りがあり、その点だけはあらゆる生命体の宿命と言える。
 だが、進化した「創造惑星」などは、その為に青い惑星のように自然に出来上がったものではなく、自らがあらゆる危惧を考慮し創られた物。
 青い惑星の構造のようにマグマも断層や海も大気も・・当然二酸化炭素などというものは当然存在しない。
 従い、地震も津波もハリケーンも起きる事は無く、一番脅威であり、青い惑星の生命の歴史上何度か全滅をしている原因なども想定の上。
 球体の周囲は適度な弾力性があり、強度は巨大な惑星が衝突したところで全く問題は無く跳ね返す事が可能な構造。
 他の進化が送れた生命体とは交流する事は無いのは、危険であるからで、其れで、光を通さない。
 其れで、人るにNASAなどが幾ら最新型の望遠鏡を使用し、仮に宇宙の果てまで見えたにしても、全く連盟の「創造想像」は見る事が出来ない。
 現実には、人類の宇宙物理・その他を擁しても、光の速度を超えられないうちは、此処の科学上は138億年までしか見る事が出来ないと。
 其れに、宇宙空間を自在に移動する事は生存中は不可能。
 実は、宇宙は常に拡がりつつあるが、其れもほんの僅かな宇宙区間と言え、其の構造上まず説明が出来ないという言葉で締めくくるしか無いし、人類には必要のない知識と言える。
 ただ、夢に見たいというのであれば、ほんの僅かではあるが・・壮大な宇宙空間を漫画にでもしなければ理解不可能。
 人類の考えの中には「不老不死」などと言う欲望が存在するようだが、其れは勝手だが・・其れでは誠に悲惨な最後になるだろう。
 其れに一億年とは青い惑星の消滅までの人類の科学上の仮説である。
 人類の科学・医学・薬学などは半分以上が仮説と言える。
 宇宙空間には多種多様のvirusが存在し毎秒此の惑星に降り注いでいるが、其のうちの僅かな種が現在人類の間で騒がれている種だが・・今後続々と新手のvirusや得体の知れない病が流行る事があるだろう。
 澄夫の予言では・・そう先の事ではなく人類に何かが齎される事と断言できる。



「大事なマニュアルでしょ?大切な・・。人類に見せたら拙いんじゃない・・」
「其れはそうだ・・とんでもない事になる」
 宇宙では生命体が幾ら進化していようが頭脳は遥かに優れているが、宇宙空間を自在に移動するには、彼等が創造した「生命体に酷似しているモノ」の存在が不可欠になる。
 だが、彼女も、澄夫も遥か彼方から訪れた純粋な生命体に他ならないという事だけは事実である。
 結論から言えば、人類は人類である事から変わる事は無理であるし、まだ、青い惑星の四つ足動物から少しばかり進化した生命体であるが、其れで充分幸せだと思う。おそらく、人類も同じ様な事を希望すると思う。



 二人は頭脳間で愛情のやり取りをするが、その愛情はとても人類にはそぐわないものであるから、余計な事は何も知らない方が良い。
 宇宙空間でも死滅した惑星は幾らもあるが、二人の郷里で人類でさえも価値を感じているものに「芸術」があり、其処に立ち寄った際に、此処で言う「レプリカ」を作る事はあるが、現物は其の惑星のものであると、持ち出すような事も無い。
「そろそろ帰還する事にしたいのだが・・?」
「大丈夫・・そんなに先になる事は無いでしょう・・人類に欲望・差別・東西の隔て・汚職・災害・その他四つ足動物時代から変わっていないものがある限り・・」
「・・ああ、其れはそうだ、人類の為にもそっとしておいてあげるべきだと言える。少なくとも私の人類としての経験から言えば・・でも、案外映画は面白い。そういうものは芸術と共に、郷里でも楽しめる事と思うよ」
 二人の今暫しの離ればなれの状況も・・そんなに遠くは無い先に解消されるだろう・・。
 其れ迄は暫しの辛抱と言える・・。
「・・私は何時も、此の惑星の黄昏の風景が好きでね・・何か芸術心をくすぐるものが感じられてね・・」
 遥か彼方の巨大な創造惑星のようなものを見せられないが・・此の惑星から見る人類の良いところや・・衛星の優しい光・・煌めく宝石箱をひっくり返した様な星々の煌めきを見ながら・・故郷を思い出す・・其れが二人の愛情の繋がりと言えるように・・と・・。



「色を見るものは形を見ず、形を見るものは質を見ず。あ夏目漱石」


「古人は神の前に懺悔した。
今人は社会の前に懺悔している。芥川龍之介」


「彼は悲しい時、苦しい時に必ず『あの客』を想(おも)った。それは想うだけで或(ある)慰めになった。志賀直哉」



「Atmosphere by europe123」
 https://youtu.be/ItfFsmBmeOE

邦題 芸術も理解できない青い惑星だが、レプリカは大事に残しておくよ・・。

結局は、希望は何時の日にか叶うのだが、人類については理解しない方が良いと思う二人。

邦題 芸術も理解できない青い惑星だが、レプリカは大事に残しておくよ・・。

広大な宇宙空間を見せられないのが残念という思いはある。 人類は進化しないまま終焉を迎えるのだろうが・・頭脳に比較し身体の方が進化し過ぎたのが原因だと思われる・・。

  • 小説
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-12-23

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