Tipsters and prophecies of the un 邦題 予想屋と見えないものの予言
遥か以前に書いていた作品をArrange。
Tipsters and prophecies of the unseen
Типстеры и пророчества невидимого
邦題 予想屋と見えないものの予言
東京競馬場正門前駅で下りると、何軒か俗に予想屋と呼ばれる連中が店を出していた時代があった。
競艇場などでは今でもいるのかも知れない。
其の予想屋を競馬場に行く大勢の人達が覗いていく。
浜中もその中の一人で、友人の川田と一緒に寄ってみた。
二人は勿論競馬新聞で自分なりの予想をするのだが、毎年トータルでは儲かっていない。
其れにここのところスランプ気味で的中しておらず、其れで予想屋の予想が気になる。
予想屋というのは、500円を支払うと紙切れをくれるが、そこに三点ばかり的中馬券の予想が書かれている。
勿論、当たるかどうかはわからないが、それでも買い求める人達はいる。
競馬場に来る時は大抵の競馬ファンはこの前を通るのだが、どうせ当たる訳が無いと思っいてもつい・・。
大体、予想屋の予想がよく当たるのであれば、人に教える様な商売などやらなくとも自分の予想が的中した馬券で左団扇(ひだりうちわ)の生活を送っているのではと考えるのが人類の常。
しかし、来る途中浜中が電車の中で川田から聞いた話によれば、3軒目の野球帽を被った男の予想がここのところ当たりに当たっているという。
川田が浜中の背中を押しだすように。
「この予想屋だよ」
500円ならいいかと思った二人は半分ずつ出し合って買ってみた。
二人連れだって正門まで歩きながら、紙切れを開いてみる。
10レースと11レースの馬券の予想がそれぞれ3点ほど書かれている。
10レースは惜しくも1着3着。
ワイド馬券であれば取っている事になる。
メインの11レースは見事に的中。
「ほらな、当たるだろう?」
「うん、まあわからないけれど、そうならいいよな」
「しかし、あの男もきっと当てるだけのデータがあるんだろう?」
「それはあるだろう。幾らなんでも人様に予想するにはそれなりの根拠が無いと商売にならない訳だし」
二人は競馬場の帰り道、一杯飲み屋でビールの乾杯をしながら予想屋の話ばかり。
予想屋に感心するあまり、どうやってデータを集めているのかあれこれ推測をする。
「ひょっとしたら、騎手や厩舎(きゅうしゃ~馬の所有者は厩舎に馬の世話をして貰い、出来が良い状態でレースに出させるのが目的。)なんかに知り合いがいるとか?」
「それだけじゃあ、厩舎には管理している馬が何頭もいるんだから。それに厩舎だって自分とこの馬が来るかどうかなんて分からなくても一生懸命コンディションをしなければならない仕事だという事だけでしょ?騎手だって騎乗するだけで全てが分かる訳ではないだろうし、落馬する事だってあるんだから?」
「それもそうだな」
「それじゃあ競馬新聞の評論家のデータをパソコンに入れているとか?」
「評論家なんてのは人気馬を挙げてオッズ(レースの人気の数値。)を作っているようなものだからな、その通りに来れば評論家稼業だけでは済まず大金持ちになれるんじゃじゃないの?」
「じゃあさ、馬やレースなどの過去の全てのデータをパソコンに入れているとか?」
「あのね、昔テレビゲームでそういうのがあって、競馬エイトとかいうゲームだったかな?俺なんかえらい時間を掛けデータを入れてみたけれど、全然そのとおりに来なかった」
「コンピューターと言えば、中央競馬会のスーパーコンピーターってのは凄い性能らしいな?」
「そりゃあ値段も凄い高価だし、計算能力っていうのかスピードも凄いらしいよ?」
「それで予想をすれば当たるかもな?」
「コンピューターは計算するだけで自ら予想する事は出来無い。其れに中央競馬会てのはね、黙っていても3割くらい所場代が入ってくるし、競馬さえ成り立てば儲かるという商売だからな、どの馬が勝とうと関係無く兎に角多くの客が馬券を大量に買ってくれればいいだけで、予想なんて必要無いってことさ?」
「そりゃそうだな。すると何だろうね予想屋のデータってのは?政府の考えなど足元にも及ばない程の物凄い機密?」
翌週も浜中と川田は友人の武も連れ出して競馬場に来ていた。
当然、その前に野球帽の予想屋の所によって紙切れを購入している。
その日の10レースと11レースが見事に的中した。
「こりゃ、もう神がかりとしか言いようがないな」
「神がかりじゃなくて神様本人としか言いようがない」
武が・・。
「騎手でも天才って言われている奴がいるよな?」
「それが・・何だってんだよ?」
(一時、騎手の武豊が勝利数が多く、天才などと呼ばれていた時期があったが、其の事をコミカルに表現していもの。)
「関係なかった・・御免」
「明日も競馬があるから、また予想屋のお世話になるかな?」
「たまには自分で予想しないきゃ?」
「やってますよ!これ見て?」
「本当だ。凄いな此れ?」
川田が浜中の持っている競馬新聞を取り上げて武に見せた。
「わっ、凄い、蛍光ペンでデータを塗り潰して、これじゃあ本人じゃないと殆どわからないよ」
「これくらいやってもね・・滅多に当たらないんだからな」
翌日、野球帽の予想屋はレース前に自宅で貴重なデータ分析をしていた。
予想屋は新聞は前の日に買ってきても前の日には予想をしない。
競馬のある当日の朝起きてから予想をする。
彼の予想は何といっても間際のほうが当たる。
新聞と一緒にタロットカードとラジオも前に置いてある。
「えーと、最近よく当たるから自分でも怖くなるよ、前はこんなには当たらなかったのに、このカードのお陰かな?プラス俺の勘?」
実は、そのタロットカードと出会ったのは或る日の事。
いつものように競馬の予想の仕事を終え、もう辺りは暗くなっていたが、競馬場の近くに在る自宅に帰る途中、馬霊塔の前を通った時。
臙脂(えんじ)の小さな絨毯(じゅうたん)を敷いてその上に座っている老人がいる。
予想屋が何だろうと思ってその前で立ち止まると老人はこう言った。
「あんた、予想屋さんだろう?これが何だか分かるかい?」
老人が手にしているのはよくわからないカード。
「何で俺が予想屋だってわかったんだ?」
「私にはこのタロットカードがあるから何でもわかるんだ」
「タ・・ロ・・ットて何だ?トランプ?」
「だから、このカードのことだよ、あんたこれが必要じゃないかね?」
「何で俺がそんな物必要なんだ?」
「だから、カードがそう教えてる、この『太陽』というカードはインスピレーション・成就という意味だ、予想が当たるという・・あんたは予想を当てたいんだろう?」
「それは俺の仕事だからな、そんな物があるのなら喉から手が出るほど欲しいよ」
「それなら持って行きなさい、このカードには絵とは別に数字の意味もあるから、数字で予想をする事ができるだろう」
「持って行けって・・高いんだろう?」
「お金の事かい?そんなものいらん」
「ただでくれるっていうのか?」
「ああ、そうだ、但し・・」
「但し・・何?」
「これは予想のために使うのには構わないが・・自分の為に儲けようなどと欲を出してはいかん。お前さんの仕事であるお客さんの予想の為だけに使うんだ・・それを守れるかな?それと・・お前さんには入院中の妻がいるようだが・・医者からは何と言われている?」
「そりゃ、予想屋だから・・な。ああ、女房の事か?もう手の施しようもないそうで・・」
そう言った時の予想屋の表情は・・今までとは違う悲しみを浮かべている・・。
「そうか・・?少しは人の気持ちが分かるようだな・・それなら・・」
ということで手に入れたものが今、彼の目の前に有る。
「菊花賞は、タロットで『皇帝』が出たから4だ4番はキタサンブラックか」
更に新聞を眺める。
「俺の勘でも、菊花賞の『キ』に騎手が北村だから『キ』・『キ』とくればタサンブラックで良さそうだ」
次のカードを捲る・・。
「カ-ドは『力』数字は11だ、11番はリアルスティールだ、スティールは確か英語で鉄・・鉄板馬券か、固そうだな」
レースでは、本当に5番人気の「キタサンブラック」が、2着には2番人気の「リアルスティール」がきた。
「エリザベス女王杯は、『吊るされた男』だから12番マリアライト。次のカードが『月』ということは18、18番はヌーヴォレコルト」
その朝、ラジオからは竹内まりやの歌が流れていた。
「うん、俺の勘でもまりあが閃いたから1着はマリアライトで間違い無いだろう」
レースでは今度も6番人気のマリアライトがきた。
続く「ジャパンカップでは、カードは『悪魔』15番。ショウナンパンドラが15番」
ラジオは丁度湘南地方の天気予報を報じている。
「ショウナンは2頭いるが、カードどおりパンドラを信じよう、何かパンドラの箱っていうやつがあったな」
パンドラとはギリシャ神話で、全能の神ゼウスがパンドラ(全ての神からの贈り物という)と名付けた女性に絶対に開けてはならないという条件付きで箱を渡す。
開けてはならないと言われれば余計に開けたくなるのが人類の制御出来ない頭脳の構造。
話では、果たしてパンドラは箱を開けてしまった、この世に存在する全ての災いが飛び出してきてしまう。慌てたパンドラはすぐ箱を閉めたのだが・・。
しかし、箱の中から「開けてください」という声がする。それは「希望」の声だった、箱を開けて「希望」を出してあげた。最後に希望というものがこの世に生まれたということになる。
ゼウスはこの世に災いも希望も存在させる為に、人類なら間違い無く開けることを承知で仕組んだとも言われている。
話は逸れてしまったが、兎に角予想屋はショウナンパンドラを迷わず選択した。
次のカードは『恋人』で6、6番はラストインパクト。
レースでは、一着に4番人気のショウナンパンドラが、2着には7番人気のラストインパクトがきたことは言うまでもない。
そんな事を繰り返しているうちに予想屋は考える。
「しかし・・人に予想ばかりしているのも脳が無いというもの。これ程当たるのなら俺が自分で馬券を買えば大儲けという事になる。そうすれば・・予想屋なんてしけた事をやっていなくても・・考えてみれば馬鹿らしい・・」
予想屋の脳裏からあの老人の言葉などとうの昔に何処かに消えていた。
此処のところ見舞いにも行っていない妻の顔などを浮かべる程の余裕などある訳が無い。
其れも、人類の本当の姿の一面と言えなくもない。金さえあれば、女など何とでもなる。そう思うのだろう。
予想屋だけに限った事ではなく、浜中達も同じ様に考えた。いや・・人類なら誰しも同じ事を考えるだろう。
パンドラにしても浦島太郎にしてもしかり、やってはいけないと言われたら・・余計に、政府だろうが統一教会だろうが・・欲に糸目は付けられなくなるもの。
其れが人類のあらゆる欲望というものにけじめのつけられない業の深さ。
過去の事を思い出したり、そんな事を考えていたので時間が掛かってしまった。
今日の予想をしないと・・予想屋はカードを捲(めく)った。
カードは『皇帝』。4だ・・。
「しまった、急がないとレースに間に合わない」
「ああ・・もう時間が無い!二着は・・?浮かばない。其れなら4番の単勝(一着の馬を購入する為の馬券の種類を言う。)で大勝負しかない!」
予想屋は全財産を掻き集め・・大慌てで家を飛び出す。
鈍い音がした。
浜中達は今日も予想屋の来るのを待っている。
「遅いな~全く。今日はどうしたんだろう?間に合わなくなってしまったら大変・・」
そんなに遠くない所から救急車のサイレンの音が聞こえてくる。
予想屋は事の次第に気が付いても・・「予想は当たりだったのか?」其れだけが唯一の関心であり・・。
予想屋は次第に遠のいていく意識の中で頭に浮べた。
『皇帝』の属性である数字は4。し・・とも・・死とも読む。
因みに『皇帝』というカードとしては死・死神という意味もあるようである。
トラックのナンバーは「□□44し0004」
正に・・大当たりだ。
救急車に乗っているが、電気ショックを試すくらいがせいぜい・・。
話は此れでお終いなのだが・・。
人類の運命は案外・・先が読めないもので・・其方の予想は見事に的中したが・・。
入れ替わりに・・我々は彼に見捨てられた様な妻が憐れと見るのは・・人類に比較したとすれば、広大な宇宙の相対的人類時間二百憶年以上無限大に・・遥かに進んだ文明であるから・・此方は何とかできる・・。
「・・医者の私もよく分からないが、恰も奇跡が起きた様だ。貴女の病は去って行った。何か理由でもあるのだろうか?」
「・・さあ、私は患者ですから分かりませんが・・おかしな夢を見まして、其れが・・誰かが亡くなったような気が・・突然私はこんな事に・・不思議なものですね?まさか・・人類しかこの宇宙には存在しないのに・・何かに助けられた様な・・?」
彼女は退院した日に訃報を聞いたようだが・・病院からの帰り道。
何か見えないものが存在する・・そんな気がしたようだ・・。
「事実は小説より・・奇なり・・」。
「阿呆はいつも彼以外のものを阿呆であると信じている。芥川龍之介」
「オリジナル・original by europe123」
https://youtu.be/WOd05LXYI2g
Tipsters and prophecies of the un 邦題 予想屋と見えないものの予言
予想屋と予言者の違い・・。