雪山
旅人は雪山にいた。
現実味のない純白の景色から荒々しい岩肌が顔を出し、見上げると冷たく澄んだ青空が広がっている。
風はなく、1人分の足音だけが小さく響いていた。
膝まで沈む深い雪に足をとられながら一歩一歩すすんでいく。足の指はとっくに感覚がなくなって、ときおり感じる鈍い痛みでまだくっついていると分かった。
偶然見つけたまだ新しい足跡とソリの轍を辿ってずいぶん歩いたが、一向に痕跡の主は姿を現さない。
足跡の先にある尾根には太陽がかかり始め、寒さは一層強まってきた。日が暮れるまであまり時間がないようだ。
雪山