菫の降る一季節
紫がかる黎明には菫色のドレスを着た少女たちが星さながら満ちる、
乙女たちは硝子製のバレエシューズの爪先を、蒼穹に水音と浸しはじめる、
星々の散るような硬質な銀の沓音を立て舞踊る少女たち、指は光に縺れ、
僕等とは足先さかしまで愛し合う──ルネ・ヴィヴィアンをご存知?
菫の少女たちのオマージュはとおく遥かで棚引き夢へ翔んで、
僕等に愛しえない愛を愛し 愛に愛され幻影の王国に燦爛としている、
その制服は縫われた菫の花であり、愛の証は菫の花冠、国歌は菫の詩、
此処は魂零す音楽のままに愛を愛せる領域 ルネはまるで王国を築いた。
まっさらに紫の花弁に剥かれた一季節の空、幻影王国を刹那照らすだけ、
菫色の少女等 影絵とし美しくうごき、真実とし愛にうごく、幽かに。
この王国の制服は乙女にしか似合わない、少女へ闘う瑕負う勇気。
この王国の花冠は祝福のそれのみでない、少女性のdandyism、戒律、革命。
扨て 神殿・紫がかる霧の雲から、王国を君臨する女王が現れた──月。
僕にとりこれ等オマージュは菫たちの降る一季節に過ぎぬ、城はや去りぬ。
*
僕は王国を想い眼をとぢて眼窩の風景画を菫の花々でいっぱいにする、
してわが身菫の神経的苦痛に溺れたゆたい、降りそそぐ楚々に創を負う。
菫の降る一季節