僕と叔父さんそして・・・。 「前半」
ご存知寅さんの二次作品第51作。
諏訪満男は、静岡駅で及川泉と待ち合わせをしている。
満男は時計を見ながら、「十一時か。もうじき、電車が来るな」。
名古屋からひかりでやって来る泉と満男は、以前から東京との中間点である静岡で会ってみようかと話し合っていたから。
駅のアナウンスが、ひかり号の到着を伝えている。
電車は、ゆっくりとホームに停車する。ドアが開いて、泉が、手を振りながら降りて来た。満男が笑顔で泉に近寄ると、「お疲れ。バッグは僕が持つよ。静岡はこの辺りでは大きな街だから、いろいろと見たりして楽しめると思うよ」
泉は満男と並んで階段を降りながら、「満男さんは静岡に詳しいの?どんな所があるのかな?楽しみだな」
満男が改札口を出た所で泉に、「帰りの電車の席、取っておこうか?九時には乗れると思う。楽でいいから」
二人は緑の窓口に向かい、切符を買おうとする。今日は祭りがあるからという事で、席はまずまず埋まっているようだ。前に並んでいる女性が窓口の職員と話をしている。東京行きの九時の電車の予約を取っている。
満男は女性の顔をチラッと見て呟いた。「凄い美人だな」
泉が、「何か言った?」。
満男は被りをふると、「いや、何でも無い・・切符取れるかな?」と、それを聞いていた女性が、「あなた達は何処まで?東京、九時?それならまだ空いているようよ」と、満面の笑みを湛えて。
結局、二人の席は、偶然だが、女性と近くの席になった、その辺りはまだ空きがあるとか。
二人が駅前に出ると、満男が、地図を拡げながら、「目の前にあるのが松坂屋デパート、繁華街にはもう一つ三越伊勢丹があるし、東京にある店は殆ど此処にはあるよ。さてと、泉ちゃんは、どんな所から見て行きたいかな?」
泉は、地図を覗き込みながら、「観光名所として、東海大学海洋科学博物館・日本平動物園・徳川家康を祀ってある久能山東照宮・浅間神社、いろいろありそうね。満男さん、バスで回るの?」
満男が地図上の名所を指差しながら、「これだけ廻るには、レンタカーを借りなきゃ。そう思って、駅レンタカーを予約しておいたんだ」
二人は静岡駅の脇にあるレンタカー会社で、車を借りた。勿論運転は満男が。
満男は車を発進させながら、「ちょっと早めだけれど、昼食を取ってからゆっくり回ろうか」
泉が笑みを浮かべて、「そうね。先ずは腹ごしらえしなきゃね。静岡で何か美味しい物があるところ、満男さん知ってる?静岡と言えば、お茶・山葵や静岡おでんにシラス、それから・・」
満男の運転する車は、駅前の大きな道を真っ直ぐ走りながら、「鰻なんて美味しいよ。緑ちゃん鰻なんて好きかな?」
「うん、大好き。いいね、それにしよう」
二人の乗った車は、右手に家康のいた駿府城の外堀・県庁、左手に市役所・中央警察署を見ながら進んで行く。満男は、浅間神社の赤鳥居を過ぎた所で鰻屋の駐車場に車を止めた。中川という鰻専門店(鰻しかない)の暖簾をくぐる。
鰻屋にはメニューと言えるようなものは必要無い、何といっても鰻で勝負だから。満男は出されたお茶を飲みながら、「静岡にもお客さんがいるから、何回か来た事があるんだ。浜松も鰻は有名だけれど、この店の鰻は最高だよ。でも、もうじき店を閉めるらしいんだ、ねえ、おじさん?」
「ええ、私一代で終わりなんですよ、うちは嫁に行った娘しかいないから、後を継いでくれる人がいないんで」
やがて、大きな鰻をのせた上鰻丼が二つ。この店の場合は、タレガ違う。日本全国何処に行っても鰻はあるが、これ程の味の鰻はお目に掛れない。これで、一つ1,750円だから、安い。
満男は、早速鰻をいただき乍ら、「静岡市という街は、静岡県の中でも工業都市の浜松と並んで、人口70万余りの大きな商業都市なんだ。日本で雪が降らない所って、泉ちゃん知ってる?」と、泉が被りをふる。「沖縄と静岡市だけだよ、北に南アルプスがあるから雪はそこで落とされて、一滴も雪は降らないんだ。徳川家康が隠居したのも分かるような気がする」。泉が、美味しそうに鰻を食べながら、「家康が関が原で勝った後、江戸に徳川(江戸)幕府を築いたんだったよね?それから、15代将軍徳川慶喜の大政奉還までの265年の間幕府は続いたんだったかな?さっき車で通る時に信号機の下に、追手町と書かれていたけれど、東京の大手町と何か関係があるのかな?」。
満男がお新香をポリポリと食べながら、「うん、他にも江戸城と同じような地名があるけれど、同じ家康の城下町だからね。緑ちゃん、少し休んだら、出かけようか?いいかな?」と、お茶を飲み干す。
二人は鰻屋を出た後、歩いて5分の浅間神社にお参りをする。二人が訪れたこの時期は、丁度、年に一度の浅間神社のお祭りだ。
五日間にわたる大きなお祭りだから、凡そ百メートル以上に延びる浅間通りや、神社敷地には、たこ焼き、焼きそば、綿菓子、おもちゃなどありとあらゆる出店が並んでいる。二人はじゃれ合う様に笑いながら、それらの出店を覗きながら境内に向かって歩いて行く。
突然、「浅野匠頭じゃないが腹切ったつもりだ!ね!どう? こんないいものが2000円!はい、ダメか! 1500円だ1500円!誰も持ってかない? よーし!1000円!!今日は貧乏人の行列だ!よーし!500円だ!持ってけ泥棒!・・あれ?お前、誰だっけ・・?」
満男は驚いて、「あれ?伯父さん・・俺だよ、満男だよ!こんなところで何してんだよ?」
「何だよ、満男か!泉ちゃんも!」
寅は、「おい、ポンシュウ、ちょっと店、頼む。満男、ちょっとこっち・・」
満男と泉と寅は浅間通りの脇道に入る。
満男が笑いながら、「俺、びっくりしたよ。叔父さんに会うなんて・・」
と、寅が二人を覗き込むように、「お前達こそ、こんなところで何してんだよ?」。
泉が、笑顔で寅に、「こんにちは」と挨拶をする。満男はそんな泉と寅を交互に見ながら、「今日は名古屋と東京の中間の此処で、一緒に彼方此方廻るつもりなんだ。伯父さんこんなとこで商売してんだ。ああ、そう言えば、母さんが、伯父さんがリリーさんと一緒に住んでいた鹿児島県奄美群島加計呂麻島からいなくなって、最後にテレビに神戸大震災の被災地を見つめているシーンが映った後、音沙汰が無いってのは、心配してたよ!」
寅が小さい目を大きくして、「さくらが?そういや、ここんところ帰って無いからな・・おいちゃん、おばちゃん、皆、元気か?」
満男は、すっかり安堵の表情で、「元気だけど・・伯父さん、一緒に帰らないか?」
寅は、首を傾げ、考えて、「う~ん、今日で祭りは終わりだから・・帰るか?しかし、夜になるぞ。お前達これからどうするんだ?」
満男が神社の鳥居を指差して、「浅間神社にお参りしてから、水族館や動物園・・え~と・・」
泉が笑いながら、「満男さん、そんなに廻るんだから、あたし達も夜になるんじゃない?確か九時だったね?」
満男が頷いて、「そうだよ、日本平の夜景を見て、レンタカーを返して九時の電車に乗る。叔父さん、駅で待ち合わせして一緒に・・」
寅はギクッとして、「駅って、新幹線じゃないだろうな?俺はあれ苦手なんだよな」と、目をしばたたかせる。
満男が口を尖らせて、「大丈夫だよ、俺も泉ちゃんもついているし。ああ、そうだ、来る時に駅にすっごい美人がいてさ、少し話したんだけど、俺達と偶然同じ電車で東京に帰るって言って、指定席の予約をしていたからひょっとしたら・・」
寅は尻込みをする様に、路地から浅間通りに出るが、人とぶつかりそうになる。
寅は、相手の顔を見て足が止まる。後を追って通りに出た満男と緑も、足が止まる。
噂の女性が、「あら?あなた達、駅でお会いした・・浅間さんにお参りかしら?こちらはお知り合い?」
満男がほんの少し間をあけて頷くと、「え・・伯父なんです・・ね?」と、寅の顔を見る。寅の視線は一点に集中している、黙して。
満男がそんな寅に、「ねえ、一緒に・・」
寅は澄ましたまま、か細い声で、「そうね、久し振りだから・・帰ろうね・・」
女性は、そんな寅の表情を見て、口に手をあてると、思わず笑いだす。
「じゃあ、伯父さん、静岡駅に、みどりの窓口っていうのがあるから、其処で待ち合わせしようよ。八時半には来てよ!忘れないで!」
寅は美女の背を見ながら、夢遊病患者の様に、「・・まどぐち・・」
満男が泉の顔を見て、「大丈夫かな?伯父さん?」と言うと、泉は、笑顔を返した。
満男と泉は寅と別れて、浅間神社に。女性も神社の人込みの中に紛れて行った。
背後から寅の声が聞こえる。「ポンシュウ。俺、八時頃には引き上げるから、後は頼む。満男の奴、一緒じゃ無いと帰れないってうるさいから。ったく、子供と同じだよ」
二人は、境内に並んでいる出店以外にも、お化け屋敷やオートバイサーカスを見て廻る。
お化け屋敷の中は、当然ながら真っ暗、泉ちゃんが次から次へと姿を現すお化けに反応して甲高い悲鳴をあげながら、満男にしがみつく。満男は笑いながら、腕に泉の手応えを感じるから、満更でもない。二人が、出口から出ようとした時、執念深いお化けが最後のサービスをと飛び出す、今度は満男が、「何だ、まだいたのかよ!」と泉にしがみつく。
オートバイサーカスは、大きな樽の様な中の壁をオートバイが遠心力を利用して走り回る。オートバイが観客が覗いている壁の一番上に近付くと、観客は身を仰け反るようにしながら歓声をあげて喜ぶ。泉も、仰け反りながら、「これって、外に飛び出しちゃったら怖いよね。ああ、また・・」
怪しげな見世物小屋は、表に集客用に蛇女が座っていて、男がマイクで、「この、憐れな女の子は・・」とお決まりの台詞を。満男が笑いながら、「こういうの、前に見た事あるよ。中に入っても大して面白く無いんだよな」
満男が的が並ぶ店を指差して、「泉ちゃん、射的やろうよ。俺、こういうの得意なんだ、絶対取ってあげるから」と言いながら、銃の先にコルクの弾を詰めて、的を狙う。しかし、何発撃っても、的は普通に当たったくらいでは落ちてくれない。満男は舌打ちをすると、「あれ?当たっているんだよな、おかしいよ」
店のおばちゃんが、「お嬢ちゃんもやってみるかい?」と、泉が、「やってみようかな」と、代わって銃で的を狙う。おばちゃんが、「お嬢ちゃん、この辺りを狙って撃ってみて」と、サービスをする。泉が狙った的は、見事に落下する。泉が手を打って、「やった、凄いでしょ」と、おばちゃんから景品を貰い満男に見せる。満男は納得がいかない顔をしながら、「何だよ、泉ちゃんの方が上手いなんて、まあ、いいけどね」。
境内は、人で溢れている。二人は「伝 左甚五郎作 叶え馬」という木製の白馬に向かって、並んでお願いをする。御利益はあるのかな。
玉砂利を踏む音が響く中、二人は、本殿に詣で、人垣で一番前には行けないから、遠くから賽銭箱を目掛けてコインを投げる。手を打っては頭を下げる。泉が 満男の服の袖を引っ張って、「ねえ、あの絵馬に願いを書いてみようよ」と、 絵馬を手に取ると、スラスラと筆を動かす。満男がそれを覗き込んで、「何て書いたの?ああ、いいね」と顔を綻ばせる。二人の願いは、一生仲良く元気で。
二人は、並んでいる出店を一通り見ると、人混みを掻き分け乍ら、浅間さんを後にして車まで戻る。さあ、これからが満男の腕の見せ所。
満男が一方通行の内堀のカーブにあわせてハンドルを切りながら、「これが、駿府城跡。江戸城に較べると随分小さいお城だけどね。この中は駿府公園という公園になっていて、一部近年建てられた城門なんかもあるんだよ」
車は、国道一号線を抜け、線路の下をくぐると、鐘紡通りに入る。真っ直ぐ進んで「日本平」と書かれた標識のある交差点を右折する。満男がその手前で、「これをまっすぐ行けば草薙という地名があって、『大昔、ヤマトタケルがヤマタノオロチを退治した』という所があるんだ。今日は右折して日本平動物園に行くから」と、車を動物園の駐車場に止め、上野動物園とあまり変わらない広さの園内を見て回る。パンダやコアラの様な特別のモノは見られないが、昆虫・鳥類・猛獣から海獣その他何でも、結構綺麗な動物園だ。二人は順路に従って園内を一巡する。
満男がちょっと関係無い話を始める。「静岡というのは、日本でも中くらいの標準的な町だから、昔は、煙草の新製品を全国発売する前に、先ず、此処で発売してみて反応を見たりしたんだ。本当に平均的なところだから、店などは無いものは無いけれど、逆に言えば、これといった特徴が無いんだよね。だから、映画などの舞台として使われたことはないんだ」
二人を乗せた車は、日本平パーキングウエイを軽快に登って行く。満男がアクセルを踏み込みながら、「この道は元は有料道路、飛ばしやすいがカーブもあるので、僕の様なバイク族にとっては格好のローリング場所になっている、危ないけどね」と言っていると、前を走っていたバイクが対向車線を走って来たバイクに片手を挙げて合図をしている。日本平の頂上に着いた。車を駐車場に止めた満男が、「泉ちゃん、ロープーウエイに乗ろう。家康を祀ってある久能山まで簡単に行けるんだ」と、泉と並んで、乗り場に向かう。ロープーウエイから辺りの山や谷を見ながら、あっという間に久能山に到着。泉がゴンドラを降りながら、「結構高い所を通って来たね、ちょっと、スリルがあった。あれ?海が見える、太平洋が拡がっている」。久能山の東照宮は日光の東照宮の親戚だ、何れも家康を祀っている。満男が小さな神社を見ながら、「家康の遺命によってこの地に埋葬されたらしいんだ。大きさは日光とは比較にならない程小さいけど。家康は、常に西の方角を気にしていたと言われているんだけど、まあ、京の都があったせいもあるんだろうけど、幕末に幕府が無くなる原因となった薩摩・長州・土佐は全部西だったから、勘は当たったのかもしれないな」と言い、泉の頷く顔を見る。
二人は、ロープウエイ乗り場に向かうと、泉が、「この後は水族館かな?立派な水族館だって地図の観光案内にも書いてあったね」日本平を清水側に下ると、 羽衣の松で有名な美保に着く。東海大学海洋科学博物館は大きい、近頃は何処の町にも水族館はあるが、此処は海洋学部を持つ東海大学の研究も生かされているし、恐竜博物館などもあり、まあ、楽しめる。うみの博物館では、満男が、「日本で一番深い駿河湾には、随分多くの生きものがいるんだね、面白い」と言いながら、泉と一緒に館内を歩いては、互いに顔を見合わせる。
二人は、満足顔で車に乗る。辺りはすっかり夕暮れ時。満男が運転しながら、「さあ、これからがとっておきの・・泉ちゃん」と、ニヤリと笑う。車は、来た道を戻り、日本平パークウェイを登って行く。再び、日本平の頂上に着くと、日本平ホテルに車を止める。満男が泉の背を押すようにしてエレベーターで6階に。
ドアが開くと、目の前に、スカイテラスからの絶景が拡がっている。夕暮れ時から夜に変るあたりが二種類の景色が見れて最高だ。日本一の富士山をバックにして、眼下に拡がる清水港や街一体に陽が落ちていく。やがて、十万ドルの夜景が現れる。「わあ、綺麗!」思わず泉が呟きながら満男の顔を見る。
満男は自慢げに、「ねえ、いいでしょ。この景色、何度見ても飽きないよ。お母さん達にも見せたいくらいだ。東京の高層からの夜景と違って、自然が造った壮大な景色だからね」と言いながら、スマホを取り出す。
先ずは、夜景を撮影し、次は、「泉ちゃん、其処に立って」と、泉の背後に夜景が来るようにと、名カメラマンに変わる。それを見ていた男性が、「君も一緒に写してあげるよ。はい、二人並んで、いい顔して」。二人共、今度は最高のモデルになる。
七時も過ぎた頃、満男の運転する車はパークウェイを静岡に向かって一気に下って行く。満男が車の時計を見ながら、「泉ちゃん、もう少し時間があるから、寿司でも食べて行かない?御免ね、休み無しで引っ張り回しちゃって、お腹空いたでしょう?」と、泉が頷いて、「うん、お寿司、いいね。静岡は新鮮なお魚が食べられるから楽しみ」。満男が、レンタカーを返すと二人は駅近くの寿司屋に入って行く。
時刻は八時半になろうとしている。店を出た二人は、待ち合わせ場所である、みどりの窓口に向かって行く。
と、満男が人混みの中で、「あれ?あれ、伯父さんだ。何してんだろう?」と、一点を指差し、泉に話し掛ける。
「あの~、『もぐら』の窓口って何処でしょうか?」必死で辺り構わず聞いて回る寅の声が聞こえる。満男が走って寅に近寄り、泉は笑い転げている。満男は、「さあ?もぐらの・・?分かんねいな。この辺りにはもぐらは出ないけど・・」と真面目に話を聞いてくれている男性に、「すみません」と頭を下げながら、寅に、「伯父さん、こっちだよ。みどりの窓口は」と、寅の背中を押して、泉も一緒に、窓口に入って行く。
切符は取れた、やはり、二人と・・いや・・三人と比較的近くの席になった。 静岡に止まる電車は、ひかりの指定席かこだまの自由席が比較的空いている。
さて、車内では、寅さんの独り舞台。「おい、満男。俺の席はどこだよ?」と、言いながらも、美女に話し掛けやすいようにと、席はあっても無いも同然。 通路に立ったまま女性に次から次へと喋りかける。女性が弁護士だという事も話題になっているが、襟の金属バッチを見れば知っている人なら分る筈。
女性の隣の席の年配の男性が気を利かしてくれて、笑顔で「何か話があるようだね。若い者はいいね。弁護士さんに何か相談かね?良かったら僕が君の席に移ってあげようか?何処だって座れれば同じだよ。僕は判事をやっているから、また偶然会う事もあるかも知れないな。袖すれ合うも何かの縁と言う言葉もあるからね」と、席を変わってくれた。
満男が寅の代わりに判事にお礼を言った時は、寅は話に夢中で。寅が女性に、「本当に、甥の・・満男と言うんですが、お世話になりまして。まだ、ガキなんで、一緒に帰ろうって言うんで。あの、静岡には何かご用事があって?」
満男達二人の出番は無い。
女性は笑みを浮かべながら、「ええ、裁判所に用事があって、丁度お祭りだったんで、ついでにお祭りを見ながら、神社にお参りをと思いまして」。
寅は驚いたように、「裁判所?するってーと、遠山の金さんなんか・・『諸肌なんか脱いじゃって、おうおう!この背中に咲いた桜吹雪、散らせるモンなら散らしてみろい!』なんて、先生もやられるんですか?見上げたもんだよ屋根屋のふんどし、たいしたもんだよ蛙の小便なんちゃって」。
弁護士高野ゆかりは、身体をくねらせながら大笑い。
満男と泉は、寅達二人のテンポのいい?会話に、「何か違うんじゃない」と思いながらも、「まあ、いいだろう」と、一緒に楽しんでいる。満男が、周りを見回すと、派手なアクションに大きな声で話し続ける寅に、お客さん達も今日は多めに見てくれているようだったが・・。
通路の後部から、車掌がやって来た。「切符を拝見・・」素直に切符を見せる客達。
一人だけ例外が・・。寅は車掌にお尻を向けたまま、「今、忙しいんだよ!」と、力んだ弾みに車掌目掛けてガスが、「何?切符?あれ?」と腹巻の中に手を入れて探し出す。
車掌は、噴射されて、片手で扇ぎながら片手で鼻を摘まむ。
寅は車掌の顔を見て、「出物腫れ物所嫌わず って言うだろ、な!」
満男が立ち上がって、「伯父さん、俺が伯父さんの分も持ってるから」と言って、車掌に三人分の切符を見せる。
車掌は其れを見て、「これ、一つ席が違うなあ?お客さん?こっちの席・・」と先程の判事が座っている席を指差す。
満男が車掌に、席を変わって貰った話をする。
寅は、そんな事は関係無しに、車掌の顔を一旦見た後、ゆかりを指差して、「この方を何方と心得る?弁護士の先生だよ!」車掌は、「それとこれとは関係無いが・・」とは思いながらも、「席はそういう事ならいいか」と呟く。
寅が車掌の肩を叩いて、「そうよ、仕事ってのはね、何しても楽なものってのはないんだよ、うん。ご苦労さん」。
車掌は良く分からないが、励まされて、車掌室の方に戻って行く。
寅は、ゆかりに自分の家が柴又だとか、家族の話などをし、ゆかりは事務所は上野だが、住まいは金町で帝釈天には最近は行っていないから、今度行った時に寄ってみるという所まで、話はトントン拍子で進んでいる。
寅が、「ええ、是非・・」と話し掛けた時、車内のアナウンスが、「間もなく終点東京です。中央線・・今日も新幹線をご利用くださいまして有難う御座いました。Ladies and ・・ 」。
ゆかりとは其処で別れた。
東京駅から柴又までは1時間程、四人は、「只今!」と深夜でも灯りが灯っている家に入る。満男が静岡から寅や泉も一緒に帰る旨の電話を入れてあったから、家族は勢揃い。
さくらが、「お兄ちゃんお帰り。泉ちゃんもようこそ。二階に布団用意してあるからね、ゆっくりしてって」。
博も、「兄さんお疲れ様」、寅が、「おいちゃん、おばちゃんも相変わらず元気そうで・・」。
静岡の話はまた明日の晩に話す事にした。
翌朝、寅が二階から降りてくるなり、「腹減った、昨日から碌なもの食べて無いからな、おばちゃん頼むよ」。
泉は、今日は店の手伝いをしたり、さくらと一緒に出掛けたり。明日は土曜だから満男も休みで、二人で都心を彼方此方ショッピングなどをする予定だ。
満男のプロポーズは鹿児島県奄美大島加計呂麻島の海岸で事実上済んでいる。 後は、結婚式を何時どうするかだが、これは、また次回お時間がありましたら。
寅は朝食を食べ終えると、上着を引っ掛けて出掛ける。神田の本屋に向かっている。
寅は、宝良堂と言う本屋に入るなり店主に、「今、一番売れっ子の書いた本はあるの」と聞いている。
実は、寅は昨日の新幹線の中で、ゆかりから本は本当に楽しいものだから読んでみろと言われて、その気になっている。
店主は頷くと、「お客さん、あんた売れっ子と言えば、ずっと売れっ子の凄い人がいるんだよ」。
寅が疑り深そうな顔をして、「ずっと売れっ子?そんな人いるのかい?また、旨いこと言って詰まらないもの買わせようってんじゃないの?」
店主は手を払うように振ると、「夏雅又北っていってな、かなり前に書いた本がまた、ブームになって、今は知る人はいない大先生で、買いに来る人が後を絶たないよ。純文学だからね。つまり、今は若者でも文学的に価値のある表現は出来ない。だから、電子書籍など、簡単にストーリーさえ面白ければ、それには文章の味わいが伴っていない。出版社が、ただ、儲かればいいといい、考え方だからね」。
寅はふーんと感心しながら大きな声で、「夏が又来た?変なおじさんだね」と、狭い店の通路で動いた途端、草履の上から痛いと言う程、下駄で足を踏まれた。
弾みで小さな書店の棚に手を掛けたから、棚が倒れてきて本が雪崩のように飛び出し、寅の頭にも。寅が顔をしかめ踏まれた足をさすりながら、「痛っ、何だよう、おじさん」と年配の男性に詰め寄る。
店主が散乱した本に困った顔をしながら、ハット気付いたように、「ああ、先生でしたか。よくいらっしゃいました。今日はまた何の用で?」。
先生と呼ばれた男性は、「いやね、其処の出版社まで来たからついでに此処に寄ったら、私の名が聞こえたから」。
それより寅の顔を窺うと、「痛そうだな、悪かったな。ついうっかりして。そうだ、どうだね、お詫びに、茶でも飲まんかね?」と、寅に話し掛ける。
寅は先生とは、又来ただろうと思って、「あんた、有名な物書きなんだって?そうだな・・茶でもと来たか、行くか」二人はごちゃごちゃになった本屋を後にして歩き出す。
後ろでは、店主が、「何しに来たんだろうな?こんなになっちゃって」。
二人は並んで歩きながら、寅が、「おじさんも又来たって変わった名前だな。そんなに夏が好きかい?」。
おじさんは顎髭に手をやると、「いや、そうじゃ無いんだ、字は、「又北」北なんだな、まあそんな事はどうでもいいが」。
二人は、近くの喫茶店に入る。
店の店員達は又北が何者かを知っているし、常連客なので、何時もの席に案内する。
店員がコーヒーを持って来て、「先生、今度の作品読まして頂きました。私の好みなんですが、やはり純文学はいいですね。デビュー作の『吾輩は・・こ・・』から、全て読ませて頂いて来ましたが、今回の新作『あんたも辛いか』もいいですね」。
店員は邪魔にならないようにとすぐに引き下がったが、寅がその話を聞きかじって、「吾輩・は・たこ?おじさん、たこならうちの裏の工場にもいるんだけどね、これが・・」と、話し始めたが。
店内にいた女学生二人が、慌てて二人の席に駆け寄ると、「夏雅先生ですね。ファンです、サインをお願いします」と自分の持っているスマホや本とマジックを、夏雅に押し付けるようにしながら、頭を下げる。
夏雅は躊躇しながらもスラスラとサインを。
寅は目の前で何が起きているのか分からず、「近頃の女学生は年寄り好みになったのかね?」。
夏雅は微笑みながら寅の話を聞いている。
寅は女学生が持っていた本の表紙をチラッと見ていたらしく、「・・枕っておじさんの・・ああ、先生だったな。腕枕って・・先生も隅に置けないね、何処かの芸者か何かと・・」と細い目を一層細め口を歪まして笑う。
夏雅は飄々として寅の話を聞いている。
寅は、自分の名は車寅次郎、柴又に帝釈天の参道に家があり名物団子屋をやっている事、家族の事、帝釈天の話などをまるでその場にいるかの様に連発する。 夏雅がほうっと頷きながら、「帝釈天か、何年も行って無いな、今度行ってみるか。団子は美味しいんだろう、くるま屋だったね」と、寅の話も満更では無いようだ。
一時間以上いただろうか、二人は店を出るとゆっくりと並んで歩きながらメトロの駅に向かう。
すれ違う人達が振り返って行く。
駅で、二人は其々のホームへと別れた。
寅はメトロ丸の内線に乗る、降りた駅は霞が関。階段を上がれば、すぐに地方裁判所。
1階ロビーの守衛ボックスに備えつけてある「開廷表」で、その日に審理される事件の時間や法廷番号等を確認しないと、その日開かれている法廷・裁判は分からない。
寅は辺り構わず、「あのさあ、高野ゆかり先生は何処にいるか知らないか?弁護士の先生」。
誰も知らんぷりをして、寅は膨れ面で呟く。「あんな綺麗な先生も知らないのか?」
寅は、金バッチを付けた男がいるから、近付くが、勘で、これは違うと気付く。
何とはなしに、開廷している法廷の前の廊下に出る。
寅は、ドアを開けて、中を彼方此方珍し気に見廻す。
傍聴席に座り、寅は、質問をしたかったのだろう、手を挙げた。しかし、もう法廷は終わりだ。皆、ぞろぞろと出て行く。
一段高い所の黒い法服を着た三人の内、真ん中に座っていた男性が寅に気付いたようで、笑いながら寅に手を挙げる。
書記官たちは何事?何処の大先生?と驚いている。寅は、何処かで見た事がある顔だと思って近付くと裁判官は、「その恰好じゃ、すぐに分かるよ。昨日のお友達かい?一回言ってみたかったな。判決!会えそうでござるぞ、『これにて一件落着!』」と、金さんのポーズをとる。
寅は気が付いてみれば昼は何も食べていない、人に聞いたら、地下に食堂があると言う。
地下の食堂で食券を買おうとした時、郵便局から、何とゆかりが出て来る。
ゆかりが一目で寅に気付き、「あら、寅さん?どうしてこんな所にいらっしゃるの?あれ?お食事、私も食べようかな」。寅は「お傍がいい」と思って、蕎麦にした、ゆかりも。
寅は蕎麦をすすりながら、「いや、俺さ、こういうとこ来たこと無いから、一度来たいとは思っていたんだけどね。しかし、遠山の金さん名判決だったな」
ゆかりが水を飲みながら、「どうかされたの?」
寅が水を一杯飲むと、「昨日のおじさんに会ったんだけど、遠山の金さんやってるらしいんだよ。ぴったんこなんだよな。先生も弁護士やって長いんでしょう?」
ゆかりが考え事をするように、「弁護士の仕事は長くやっているからいいんですけれどね・・」。
寅は、何故か、ゆかりが家族の話でもするのかと思って、少しうつむき加減で、「俺なんかずっとこんなんだからいいけど、先生ともなれば、御亭主や子供さん達もいるだろうし、家庭と裁判の両天秤、だから、その天秤のバッチしてるんでしょ?」。
ゆかりは苦笑いをしながら、「ええ、主人は亡くなったけれど、母と二人よ」
それを聞いた寅さん、「そうか、御主人にご不幸があったんだ」と、複雑な表情をする。
寅は、暗い裁判所の地下から出たくなって、「先生、この後事務所にでも帰るの?忙しいだろうからな」。
ゆかりは頷きかけて、「でも、まだ時間はあるし、寅さん、お茶でも飲む?」。
寅は今日はよくコーシーを飲む日だなと思いながらも、「いいの?この先に『俺の門』ってのがあるから、其処辺りできっちゃ店でも行ってみようか」と、マイケルのように軽くステップを踏む。
かくして、二人は虎ノ門の外堀通りにある喫茶店に入る。
寅がテーブルに並んだコーヒーカップのスプーンをいじくりながら、「先生の仕事はいろんな人から相談受けるんだろ?でさあ、法律?てなものは掟みたいなものでしょ?『約束は破っても人を悲しませることがない、破っても注意されるだけで済むことだ。でも、掟は破ると人が悲しむ。だから命をかけて守らなきゃならないものなんだよね。約束と掟、これを上手に使い分けることが大事なんだな』」。
ゆかりが頷きながら、「約束も大事だけど、まあ、皆さんが、寅さんみたいな人だったら、いいんだけど」。
寅がそんなものかと思いながらも、「先生みたいな、インテリというのは、自分で考えすぎますからね。そのうち、俺は何を考えていたんだろうって、わかんなくなってくるんです。つまり、テレビの配線がガチャガチャに込みいっているとすると、その点俺なんか線が一本だけですから、空っぽといいましょうか」。
ゆかりがまた笑う。
大きな声で話す寅と、ゆかりの話を、聞く気が無い店内の客も思わず聞いて笑っている。
遂に、寅は、空になったコップの水を注ぎにきたウエイトレスを捕まえて、「眉と眉の間の『いんどう』お嬢ちゃんあなた、ここがすばらしく輝いているね。いい愛情に恵まれておるかもしれない」。
謂われたウエイトレスは有難いやら照れ臭いやら何だか良く分からない。店内は、またもや寅のワンマンショーの舞台と化した。
寅はハッとして、「あれ、俺、何しに来たんだっけ?そうだ、先生、そういう訳だから(どういう?)・・柴又に来たら、うちに寄って、ゆっくりお話ししましょう。気兼ねがいらない者ばかり揃っているから、うん」。
ゆかりと別れた寅は、鼻歌を歌いながら柴又に戻る。
「お帰り」おいちゃん・おばちゃん・さくら・博・泉が出迎える。間も無く、満男も帰って来る。
泉は、今日は午前中手伝いをした後、さくらと一緒に新しい生活にどんな物が必要か見に行った。明日は満男と一緒に不動産屋に行ったり、ショッピングをしたり遊んだりするつもりだ。
おばちゃんとさくらに泉も手伝って、食卓を飾る夕食をいただきながら、昨日の静岡の話が始まる。
泉が先ず、「静岡っていいところ。食べ物は美味しいし、いろんなものが見れて良かった」。
満男が頷きながら、「やっぱり、俺の案内が良かったかな。でも、伯父さんに会うとは思わなかったな。祭りは何処もそんなに変わらないかも知れないけれど、泉ちゃん、あそこ最高だったでしょう」。
さくらがお茶を注ぎながら、「お兄ちゃんに会えてよかったわね。何?最高って?何処かの場所が良かったとか、ヒントは?無いの?」。
博が箸を動かしながら、「静岡と言えば、富士山じゃないかな、でも、ちょっと離れているけど」。
竜造が食卓を眺めて、「静岡と言えば、昔からお茶に蜜柑や・・」
常が寅のご飯のお代わりをしながら、「嫌だよ、この人は、食べ物しか浮かばないのかね」
寅がお新香を摘まみながら、「俺も、祭りしか行った事ねえからな。もぐらか?」。
満男が笑いながら、「叔父さんたら、みどりの窓口が分からなくて、人にもぐらの窓口なんて聞いてんだから、笑っちゃうよ。答えは、お父さんが近かったけど、これ」と言って、スマホを取り出し、食卓の上に。
皆が覗き込んだスマホの写真には、夕暮れ時の富士山や清水港や街が。
さくらが一声、「夕方のなんとも言えない色彩、いいわね、富士山は立派だし、下に拡がる街も」。
博が継ぎ足すように、「やはり、富士山は日本一だからな。薄暮に映えるってわけだな」
竜造が、「食いもんじゃ無かったか」。
常が竜造に、「何時までも食意地が張ってんだね」
泉が満男のスマホを持ってあげると、「次は、また美しいものが見れます。はい」。
泉が画面を変えると、十万ドルの夜景が現れた。「おー!」誰が言うでも無く、小さな歓声というかどよめきが。
博もさくらも、持っていた箸の動きを止めて、「夜景に見入られるようだな」。
更に泉が写真を変えながら、「満男さんが、私を取ってくれていたら、何処かのおじさんが二人を取ってくれたの」と、人物と夜景が見事にマッチした写真を。
満男が写真を見直すように、「これ、本当に皆に見せてあげたいと思ったんだ。今回の一番の収穫かも知れないな」。
黙っていた寅が、「お前達、俺が商売している時に、こんないいとこ行ってたんだ。俺も行きたかったかも・・」。
満男がスマホは泉に預けたままで、「それでさあ、新幹線の中で・・伯父さんたら、何時もの癖が出ちゃってさあ」。
博が笑いながら、「大体、想像つきそうだけどな」。
さくらも笑いながら、「あたしも、何となくわかるわ。ずばり、美女が・・」
寅が口を尖らせて、「俺は、何も・・」。
満男が弁護をするように、「僕は、尊敬する叔父さんの事は黙秘します」。
裏庭の木戸を開けてタコ社長が、「寅さんお帰り、久し振りだね。お?何か盛り上がってるね。泉ちゃんも来てるんだ、こりゃ、何かいい事あったんじゃないの?俺さあ、今日、税務署に行ったんだけどね・・」。
寅が食卓の向こうから、「たこ!そんな話はどうでもいいんだよ、お前は引っ込んでろつうの」。
常が睨みつけるように、「あんたも、何時も同じ事ばっかり言ってないで、今、凄い景色を見ているんだからさあ」。
社長は皆が脱いだ履物を踏みつけて話題の写真を見ようと居間に上がろうとする。
寅がそれを見て、「ああ~、おい!俺の草履踏みつけるんじゃねえよ、汚ねえ足で」。
社長が、泉の持っているスマホを見ながら、皆に一コマ遅れて、「お~!こりゃ絶景だね。何処これ?香港並みの十万ドルの夜景だ」
寅が手を叩くと、「草履で思いだした。そういやさ、今日、神田で物書きの大先生に会ってさ、夏が来たっていうおかしな名前なんだけどね。これが・・」。
さくらが話に割って入ると、「ひょっとして夏雅・・あの有名な?」
博が付け足すように、「兄さん、夏雅又北って言ったら、今知らない人はいない程の日本一の作家ですよ。会ったんですか?凄いじゃないですか」
寅が話を続ける、「それがね、俺にお茶でも飲もうなんて言うから、付き合ってあげたんだけどね、ほら、俺も気を使う方だからさ。爺さんなんだけど、女学生なんかにモテちゃって、(女学生の顔真似をしながら声色を変えて)『先生、サイン下さい』、なんちゃってさ」。
社長がぷっと吹き出すように、「寅さんも俺もモテたいななんて、思ったんじゃないの?ふ!」。
寅が脇にあったスリッパでタコ社長の頭を引っ叩く。「うるせえ、たこ!お前は卑しい人間だな、物書きってものは・・何だっけ?博?」。
博が笑いながら、「作家とは、芸術と言って、画家が絵を描き、音楽家が楽器を弾くように、人間が持つ才能の中でも文学と言う魔法を操る素晴らしい人たちなんですよ。特に、夏雅又北程になると、百年に一人出るかという、まあ、正しく天才と言っていいんじゃないですか」。
食卓を囲んで皆が、「そうだよね」と頷く。一瞬、穏やかな、そして皆が芸術家になったような不思議なムードが・・。
僕と叔父さんそして・・・。 「前半」
出演者の多くの方が亡くなられているので、ご冥福をお祈りします。