わたしの頬を伝うのは…
わたしは詩人だが、いまだ詩を書けたことがありません。
わたしの頬を伝うのは けっして涙ではないのです
それは熱くもありません 肉の領域の過剰ではあるよう(?)
それ炎ゆり揺れ 心とうごくものじゃないのです
それは澄んだ光の液状の 零れるものではないのです
わたしの頬を伝うのは けっして涙ではないのです
涙に浄化──されてたまるかと想うのです
いたみの嘔吐──わたしはそれをしてはいけない
いたみとは、肉に呑み薬袋へ容れるもの 水晶磨く研磨剤です
わたしの頬を伝うのが 嗚 涙なんかであってたまるか!
涙なぞという名辞をつけるな! ──わたし、詩人でありますから
わたしの頬を伝うのは 毀れる悦びの剥がれた蕾でありました…
わたしの頬を伝うのは 花ひらく前棄てる乾いた冷たい破片です
わたしの墜落した領域に 落つる涙を絶えず湖と溜めねばいけない
それ不在に侍らせすべてを照らせ──涙とは、唯詩を云うでしかありません
わたしの頬を伝うのは…
泣きじゃくるように書く。
書くように泣きじゃくることを断固拒む。
いわく、平静と激情の逆転と逆行の結びつかぬ結びつきの不可視の涙としての歌。
そんな歌をうたいたい。