奇想詩『射精殺人狂時代』

奇想詩『射精殺人狂時代』

“カル=エルの精液は、機関銃の弾丸の射出速度でとびだすはずだ”
(ラリイ・ニーヴン『スーパーマンの子孫存続に関する考察』)

これはある男の数奇な運命に関する覚書である


男にはこの世ならざる強靭な力が備わっていた


空を飛び 目から光線を出し


怪力で大地を揺るがすことができた


男はその力で世界を幾度も救った


男にはひとつだけ欠点があった


男は重度のセックス依存症であった


人命を救助してからセックス


宇宙怪獣を倒してからセックス


小惑星の衝突を防いでからセックス


男は世界を救いながらあらゆる女性とセックスをした


男の射精の威力はショットガンのように強力であった


男はセックスをするたびに


相手を心ならずも殺してしまった


昼は世界を救い 夜は射精で人を殺す


というジレンマの中で男は苦しんだ


神はこの哀れな男に救いの手を差し伸べた


男は射精をしても死なない女性と出会った


男はそこではじめて性の悦びを味わった


男はそこではじめて女を愛した


やがて女は身ごもった


しかし胎児は流産した


女は悲しみで気が狂った


女は胎児の小さな死体を瓶に入れて保管した


世間が流産のことで騒いだ


報道陣が自宅の前に詰め寄せた


女は群がる報道陣に胎児瓶を見せつけた


女は精神を病み苦しみぬいた末に自ら命を絶った


胎児瓶は政府機関に接収された


男だけが残った


男は世界を救わなくなった


男はセックスに溺れた


多くの女の命が男の射精によって奪われた


男はつぶやいた


「一人殺せば犯罪者 百万殺せば英雄さ」

奇想詩『射精殺人狂時代』

〈あとがき〉
僕はこの作品を“射精詩”と呼んでいます。
作中の「胎児瓶の女」のイメージは女優のジーン・セバーグです。

奇想詩『射精殺人狂時代』

  • 自由詩
  • 掌編
  • 成人向け
更新日
登録日
2022-12-11

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