邦題 JAL便名・・の行方

邦題 JAL便名・・の行方

洋二の学生生活と社会人としての生活。

 安田明子を送りに新幹線のホームまで来ている。
 緒方洋二と彼女は洋二が大学を卒業後、東京の会社に入ってから知り合った。
 洋二は信販会社、明子は地方の高校を出て上京し近くにあるデパートの商事部に勤めている。
 卒業時は丁度不況の時期でTV会社など大手の殆どが募集をかけなかったから、会社探しに苦労をした。
 其れでも、一応は決まり勤め始めてからは、社の女性達とも飲みに行ったりした。
 デパートは交代で休みが取れ、仕事で出掛けるついでに落ち合ってという事もあった。




 信販会社の前に訪問した先はケンタッキーフライドチキンの本社だった。
 テナントの中に入っている其の会社の前で待っているからと珍しく休みが取れた文子が言うので、一緒に付き合ってくれカフェで待っていてくれた。
 面接の順番を待つ間も彼女の事を思い浮かべたりしたが、其れとは違い其の会社の事で気になる事があった。
 集団面接で五人が同時に横並びで椅子に座り、面接官もその前の横長のtableに五人並び座っていて、各人が交互に質問をしてきた。
 面接が終わり挨拶をし一階まで降りる。Elevatorが開くのを待っていた彼女の笑顔が見えた。
「カフェで待っていてくれて良かったのに?何か悪いな?こんなところ迄付き合わせたのでは?」
 時間があるというので、電車で二つほど行った新宿駅で降り、再び駅の近くのカフェに入ることにした。
 座るなり彼女が、
「面接はどうだったの?確か三菱商事の資本が入っているとか?」。
 テーブルを挟み正面に向かい合い、珈琲を啜りながら洋二が、
「うん、そうだね。資本は大手で潰れる事は無いだろうし、面接官が僕にばかり質問してきたから、他の連中には可哀想だったが、感触は良かったと思う」。
 彼女が更に状況を聞きながら、
「学歴も関係あったのかも知れないわね?でも、それだけではない何かが気に入って貰えたのかも?」。
 カップを皿に置くと洋二が、
「こんな事に気が付き、其れを話したら、途端に質問が僕に集中しだしたんだ。あの会社はフライドチキンなど商品の数が少なく、逆に言えば、値段が高いチキンでも美味しいから売れる様で、特にクリスマスの時期などは順番を待つ客が表まで並ぶそうだね?」。
 彼女は、頷きながら、
「そうよ。人気があるから、特に女性や子供には。私も友人も買う事があるんだ。でも高い事は事実よね、まあ、美味しい分仕方ないでしょう?其れで、何と?貴方に集中したと言うのは?」
 洋二は再び珈琲を皿に戻すと、
「うん、商品の程度は上等だけれど、品数が少ない点が?今後どんなものを追加していけばより収益を増やせるか?どんなものが良いか?其れを考えると、楽しみがあると思います、と言ったんだが。きっと、
【うちはこれ一本の商売ですから・・】
 みたいなことを言うのかと思ったんだが、そうではなく、新製品の開発には意欲があるという姿勢を見せたような気もした。先方の商売の方針は分からないが、面接官には何らかのインパクトを与えたような気がする。というのも、五人のうち質問が自分だけに集中したという事は、おそらく採用になる可能性は無い事は無いと思うが?」。
 彼女は一瞬笑みを浮かべ、
「其れ、良かったじゃない?若し、採用になったらどうするの?」
 其れからが、少し気になったという事に関係がある。
「実は・・こういう店頭販売がメインという会社は、当然ながら先ずは、実際に店頭で販売を経験させるところからが、始まりだと思うんだ。其れで、学生時代にデパートでアルバイトをやった時に気が付いた事があるんだ。其れはね、朝から晩までいらっしゃいませで、品物を渡してから、有難う御座います。それの繰り返し。僕はそのパターン、あまり向いていないと思った。本部で開発などをやる前は、現場経験は常識だからね。其れが・・やはり、詰まらないと」
 文子は洋二の表情から、其れが正直な彼の考えだと思う。というのも同じ大学で学んだ仲だから気持ちは。
 其の晩、矢張り電話があり、
「採用と言う事にさせて頂きますので・・」。
 洋二は、やはり、辞退をする事にしようと考えていたから、申し訳ありませんが・・と断った。
 採用の連絡というものは殆ど面接日の晩に来、不採用は何日か後に文書でその旨の通知が来るのが常識。
 何か、其れで良かったという気持ちと、この後他の会社で適職が見つかるのか?と思う不安な気持ちが交錯していた。




 其れから幸い二社目の面接で信販会社の採用が決まった。
 それ以前はワンマン社長だったりした事も有り辞退をした。
 採用後、短い研修があった後本社勤務となった。其の時感じたのは、矢張り法学や政治学を先行したのだから、其の専門職の方が良いと思った事だ。
 文子にも喜んで貰え、二人で祝杯を上げた。此れで、二人共社会人として取り敢えずは、一安心という事になる。




 忙しい文子とはなかなか会える日も少ない。
 其れで、彼女では無く明子と共によく遊びに行く事が多くなった。
 遊園地や水族館・博物館などで、随分楽しい時を過ごせた。
 明子が子供のようだなど思ったりもしたが、楽しければそれで良いという気持ち。
 其れは彼女も同じだったような気がする。そんな気持ちが彼女のストレートな表情から伝わってくる。
 都内だけでなく、関東一円のいろいろなところに行ったが、何処に行っても二人なら楽しいような気がしたのは事実だった。
 


 
 一方、campusのミスコンテストでグランプリに輝き女優になった岡田文子。
 其れで、学生時代には専ら文子。その当時、キャンパスには業界人が少なくなく、中村雅俊など。
 キャンパスの学友達には二人の事はあまり知られていない。
 というのも、成りたての女優業は忙しく、講義に出て来れる事も毎回では無い。
 其れでは、卒業までの単位が足りなくなる。他の大学では四年の卒業時までに合計の単位を取得すれば卒業。
 ところが、二人の大学は一年時から毎年の単位が足りなければ進級できないという厳しい伝統大学だ。
 おまけに、其れを二回繰り返せば退学処分となる。其れだから洋二は講義に出ると、彼女の分まで二人分のノートをとっていた。
 其れだから、時々しか会えなくても彼女とは何時も笑顔で話をする事が出来た。
 更に洋二は彼女と交際する前に二年上の女性とも交際をしていた。
 其の女性は個人病院といっても大きな総合病院の院長が父であり大金持ちの娘という事になる。
 二人の女性の事情が違った事は、却って良かったのかも知れない。
 高校から一緒に入学した学友が或る日、
「お前、彼女と結婚すれば逆玉の輿じゃないか?」
 その言葉は兎も角、本人同士が気が合わなければ纏まりようもない。
 其れに、キャンパスを歩いている時には女性二人が顔を合わす事もあった。
 学友にとっては単に女性だろうが、洋二には友人という思いしかなかった。
 文子とはなかなか会えない事もあったが、ノートだけは家まで持って行き家人に渡した事もある。
 問題は、友人として・・とはいっても二人同時にという事は難しい。
 一年程した頃、お金持ちの女性との縁は切れた。可哀想だったが、洋二としてはあまりにも行動が違い過ぎた。
 彼女が付き合っている友人も破格の家柄であり、英会話なども早口過ぎ、外国人から、早口で分からないと言われたくらいだった。
 洋二の育った家庭や親族は教員が多く、その環境で育った洋二にとり、金銭や名声は眼中になかった。
 其れだから、男性の学友達の家柄は父親が会社経営というケースが多く良く皮肉を言われた事は覚えている。
「洋二君のお父さんは学校の先生だってね?」
 そういう時の相手の表情は、
「intelligentsiaぶって先生など・・」
 という・・何故か学友達の親には、一人を除き同じ態度を見せられた。
 洋二も何回か思う。
「俺は金に苦労している貧乏学生の癖に、金持ちが嫌いだとは馬鹿なのか?」
 偶に会う文子にも同じ様な名声という文字がちらついているように思えたくらい、洋二は孤独だった。
 やがて、二人も無事卒業をし其々の仕事に就く時が来た。
 ただ、一般の会社員と女優ではまるきし行動パターンが異なる。
 其れでも偶には連絡が来る事があった。
 洋二は、別に自らの事を女性にモテると思った事は無い。
 だから、会社で同期の女子社員と飲みに行く事も有り、大抵の女性は誘えば一緒に飲みに行ってくれた。
 若い時には誰でもそうだと思った。では、飲みに行ったからといい特別親しくなるという事は無いから、相手の女性がどう思っていたのかは分からない。
 単なる青春の通過点と言うに過ぎず、洋二だけでなく同期の男性もそれぞれ同じ様なものだったのかも知れない。
 そんな会社勤めの中でも一人、同じ大学を出た先輩は洋二と気が合った。
 最初は気難しいように思えた先輩だったが、どういう訳か洋二と飲みに行きいろいろな話をした。
 その先輩にも悩みがあり、女性だったが・・。先輩と女性は何度か喧嘩をした事も有り、そんな時には大丈夫なのか此れから先どうなってしまうのか、など考えた事もあった。
 其れでも、すったもんだの挙句、先輩は無事・・結局交際していた女性と後(のち)に結婚をした。
 先輩から其の女性と結婚をする事になったから、結婚式に来てくれないかと言われたのだが、生憎(あいにく)どうしてもいけない用事ができ断った事を未だに残念に思う事がある。




 洋二は社の女性とは単なる飲み友達だったが、明子の事は次第に、其のままで良いのかと思うようになった。
 会えば楽しいし、気軽に会える。だが、事(こと)結婚となればまだ良く分からない様な気もした。
 要は、気持ちの整理が出来ていないと思うのだが、過去の二人の事を思い出し、此方がもう少しその事を積極的に考えればと?
 女優の文子から偶に連絡が入る事はあった。しかし、彼女についての業界での噂のようなものは聞いていたから、彼女なりに自由にやっているのだろうと思う。
 以前ほど会う機会も少なくなっていた。
 少し互いの距離のようなものを感じ出し、もう、あれ程若くはないんだなど思ったりもする。
 一方、明子も次第に忙しくなると共に、彼女の自由奔放さが花を咲かせる時がきたようだった。
 洋二も転職をし法務職で指導をする立場になった時、何か忘れ物をしているような気もしたが、それが何なのかはよく分からない。
 年をとるのは仕方がない。
 ましてや女性なら、男性以上にそういうものを感じるだろう。明子と二人で飲む事があった。
 以前と同じなのだが、喉迄出かかり・・其処からが出て来ない。
 一言(ひとこと)言えば何とかなったのかも知れないが、どうしたんだろうと思う。
 女優の文子からは相変わらず偶に連絡が来るが、そろそろ相手が決まって当然だ。
 そして、明子と飲んだ或る日の事。
 少し驚いた。
「結婚をしようかと思っているんだけれど・・その前に洋二さんに言っておきたいと思い・・」
「其れは良かったね。親の勧め?そう?何も僕の事など気を使う必要はない。自由に考えて・・」
 と言いながら、何か自分の考えが纏まりそうも無いような気もした。



 其の頃、洋二に海外勤務の話が出ており、すぐに辞令が出た。
 明子に電話口で其の事を話す。
 縁が無かったのかも知れない、そうも思った。
 彼女が郷里の親に結婚の話を告げに行くという事で、新幹線のホームまで一緒に行った。
「彼とは仕事か何かで?考えてみれば、僕が見送るというのも何かおかしな気がするね?じゃあ、元気で・・」




 海外の話は文子にも一応連絡をしておいた。
 文子には、マスコミの報道が、業界に相手がいるような事を騒いでいる。
「え?海外europe?会えなくなるわね。うん?私?ああ、マスコミ。まだ分からないわよ。お嬢さんという年でもないから、そうなんじゃない?気を付けて?」



 de Gaulleに着いた時は、此の国の事は忘れようと思った。白人の女性には着物は似合わない。
 確かに薄い鶯色のコートが似合う美しいParisienne(パリジェンヌ)を街で見かける事はある。
 しかし、大抵白人や黒人の男性と一緒の事が多く黄色人種との組み合わせなど見た事も無いが、あ、一組だけ見た事を思い出した。
 珍しいが、女性はこの国の。
 そんな時、現地での仕事に変更があり一年で帰国する事になった。
 邦人企業の都合で信販会社も撤退する事になった。
 



 スマフォの連絡先を眺めてみた。
 上から下までズラリ個人や会社の名前が並んでいる。
 其のうちの二つの名前。
 関係無いとは思いながら、JAL便のメールを送った、どうしてそんな事をしたのかは分からない。
 どうせ・・縁が無くなった二人・・。




 de Gaulleの2番ゲートから羽田までは直行便で約12時間だ。





 やがて、夜間の滑走路に何色もの光が点滅を繰り返しているのが見えて来る。
 やや振動があったが、ブレーキ音を立て着陸する。ベルトを外しC/Cに見送られゲートに向かう。
 




 ゲートを抜けた時、着物姿の女性の姿が見える。
 勿論見覚えがある。
 誰・・?
 まさか・・?
 


 
 




 眩しくて目を開けていられない程に・・一斉に報道陣のフラッシュが炊かれた・・。
「・・お帰りなさい・・」 
</span>


「by europe123」
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邦題 JAL便名・・の行方

モテる訳ではない洋二に波乱万丈の・・。

邦題 JAL便名・・の行方

Parisから送った二人分のメールはJAL便名。 且つての連絡先を眺め・・其れしか無かった。 どうせ、誰も来る訳は無い。 羽田空港にJAL便が到着した。 羽田の美しい夜景を眺めながらゲートを出る。 着物姿の女性が立っていた。

  • 小説
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-12-11

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