邦題 無くなった文学物に時代劇役者とプロデュース不在にて候・・。

邦題 無くなった文学物に時代劇役者とプロデュース不在にて候・・。

秘書として入社した女性。

 En l'absence d'acteurs et de producteurs de théâtre d'époque dans la littérature perdue...邦題 無くなった文学物に時代劇役者とプロデュース不在にて候・・。


 先日秘書室に入った専務秘書は美人で評判が高い。
 専務は法務部の担当だから、歓迎会をやる段階になり、秘書室と役員でやろうという話もあったようだが、結局法務部全員も含めてという事になった。
 新しい秘書は小川美智子と言い、年齢は三十程度だと思うが年輩ばかりよりは若いものもいた方が賑やかで良いと秘書室長が気を利かしたのかも知れない。
 確かに秘書室長からして尾上雄二と同じ年頃で役員は50代以上なのだから、敬老会では詰まらないだろう。
 部員の中には彼女と同じ年齢くらいの者もいればより若い連中が多い。
 こういう時には女性同士で気が合えば良いから、そういう点でもなかなか良いのではと思う。
 と思ったが秘書となると普段おしゃべり好きな女性達も気軽にお近付きとはいかないようだ。
 まあ、実務というより役員の世話をする様なもので法務の様に忙しい訳でも無いから、中々共通の話題が見つからないのかも知れない。
 近頃は管理職が酌をして廻るのが常識になっているから、雄二がその役をする事になった。
 廻って来るだけなのでなんて事は無いのだが、主賓の女性のところで少し会話を交えながら、
「飲み物は何が宜しいのか」
 と聞いてみるが、
「ビールでも結構です」
 というから今時の女性にしては珍しいなと・・。
 酌をしながらついでに自分も飲みたいと思ったのだが、彼女が雄二のグラスを手にすると、
「私が代わりにお受け致します・・」
 というから結局、雄二は手が省けた様なもの・・。
 役員は酒だし、部員はサワーなどばかりで・・と思っていると、
「綾子さんから伺っておりますから・・」
 ・・少し驚いた。
 雄二の学生時代の学友で大女優の綾子と同じ業界にいたという事だ。
 女優をやっていたのでは、道理で綺麗な訳だ・・。
「お名前は・・美智子さん?皇室にも正田美智子さんていらっしゃるのは御存じ?」
 とは言っても今の世代には、昭和天皇の皇太子の妻だという事は分からないだろう。
 正田家という民間から初めて皇室に入った女性と随分騒がれたものだ。
 皇太子は軽井沢のテニスコートでぞっこん惚れこんでしまい、あの人が欲しい、と言ったのだとの当時の評。
 皇室では皇后やらからいじめなどもあったとの記事を思い出すが其れも無理なかろう。
 彼女にしても良家の子女だと・・秘書室長が補足したのも頷けるほど垢ぬけている。
 余談だが、昔の皇室では男女の交わりの仕方などを絵本で見せたりしながら説明をしたとも言われている。
 そういう事は雄二が関知しない事で、人類ではなくなった現在は女性の肩から下は芸術美の対象外と。
 そんな事を考える事自体興覚めだと・・彼女がクスッと・・何か思い出し笑いをした・・。
 他の者達には聞こえない程小さな声で・・。
「綾子さんも言ってましたよ・・?何か不思議なパワーのようなものをお持ちで・・複数の女性と同時にお友達になれるとか・・其れで綾子さんが尾上さんと同居の女性ともお友達とか・・?」
 三田綾子と若井夕子は同郷であるから人類の常識で理解するのは無理というもの。
 二人の顔を思い出しながら、竹を割ったような性格の綾子ならそれくらい冗談混じりに話したのだろう。
 それはそうと、他にも酌をして回らなければならないと思いだしたが、聊か面倒になった。
 役員そっちのけで、部員には、悪いが皆手酌で?・・と・・。
 部員達からすれば、そんな雄二の振舞には慣れているから、気にもしない。
 雄二の勘では、美智子は再び業界に戻りそうな気がする。
 流行病(はやりやまい)で業界も収録に手間取っているというから、大部屋の役者も暇を持て余すだろうが、彼女ならきっと元のさやに納まると・・それくらいに美人だからなど。
 



 彼女は綾子と同様時代物が好きだというから、さぞかし着物姿がお似合いだろうと思う。
 役員は彼女に酌を注ぎに来たり、秘書室長が相手をしている。
 銀行から出向で来た連中だから、銀行時代の経験や知識しか分からないだろうが、女性論はどうなのか。
 飲み会は終わりを告げ、各自グループや個人に別れ帰っていく。
 駅までの帰り道、彼女が前を歩いている、声を掛けてみた。
「カフェでも・・寄って行く?」
 五時半から二時間程で宴は終わったが、彼女には其の後の予定があるのかも知れない。
 そう思ったのだが、彼女の家は成城学園のようで、其の日は帰宅するまでに余裕があるという。
「飲み直しですか・・?」
 と。
 それも綾子の受け売りかも知れないなど思うが。
 まあ、其れにあやかり、
「若し、良かったら・・少しだけと思っていたんだが」
 と。
 その場で話は纏まり、有楽町の高級ホテルに寄る事にした。
 彼女が帰るにしても此処ならそう不便は無いだろうし、二軒目なら眺めが良い方が雰囲気が異なりと思う。
 此処ならカクテルもあるしフルーツもある。此処でも雄二はビールにした。
 以前は Löwenbräuと言うGermany製のまろやかなテイストものがあったのだが、今は Heinekenと言うHolland製のものしか置いて無いようだ。
 フルーツ盛りは案外高いが、業界人で良家の子女ならそれくらいは。
 都会の夜景を見ながら飲むビールは美味しい。仕事は?と尋ねればコピーを頼まれたり、パソコンを打ったりと単調だが楽だという。
 何時か元に戻るよと言えば、其れも考えていますと。雄二が大映の女優は素晴らしかったと言えば、流石に業界人、昭和の大女優達をご存知のよう。
 時代物ではどんなものが好き?
「そうですね、古くは忍びの物とか、眠狂四郎・柳生一族の陰謀・鬼の爪・雨あがる、など・・」と。
「僕は、野村萬斎の安倍晴明の演技は好きなんだが、台本も今一つ落ち着かない?彼を更に活かせるのなら、プロデュースの腕が良くないと?」
「何か、物書きでもいらっしゃるとか?」
「ああ、明治の文豪等が好きで、何時もは漱石やら志賀直哉などなんだが、此処のところ見た泉鏡花の「歌行燈」に凝ってしまい、雷蔵に山本富士子・・に能の舞などに、舞台となっているのが遊郭で金で買われる女性の悲喜こもごもには何か可哀想になったりしてね、でも、Lastの落としどころと役者の演技・技量が上手くマッチした作品と言える。知らないだろう?」
「・・業界で知らないものはいないでしょう?尤も今のタレントさんは知りようもないでしょうけれど・・。恋愛の文学版というところ・・何となく私も尾上さんのおっしゃりたい事は分かります。一応は役者ですから・・最高峰を求めるのは当然ですよね?」
本当は映画になるくらいの長い奴を書いてみたいんだが、時間が無くてね」
「其ういえば、時代劇役者がいなくなりましたね?」
「そうなんだな。宇野重吉などは何をやらせても上手いが、大河が始まった当時二作目の赤穂浪士などは脇役でも充分楽しめた演技、やはり、ストーリーだけでなく役者も良くないと面白く無いね」
「なかなか女優が主役と言うものは少なくて・・」
「昔は大映の女優は皆演技が上手かったし、綺麗だったね、君もそんなになれるんじゃないかな?」
「何か、女性はあまりお好みでないとか?」
「いや・・そういうんでは無いんだが・・女優の着物姿は好きなんだな。今の身請けが無い芸者も良いけれど・・今僕の住いは花街の近くにあるんだよ。着物姿の女性ばかりで」
「真白いうなじや背中などに芸術美を感じるとか?」
「まあ、変わり者に過ぎないけれど、綾子がそう言ったんだ?まあ、事実だから仕方ない・・家の近くに画家や写真家がいてね、芸者の師匠である夕子という女性がmodelを頼まれ片手間にやっている。君ならきっとモデルになってくれなど言われそうだな?」
 結局仕事や会社の話はせずに終わる。
「まあ・・暫く慣れるまでは大変だろうが・・君なら大丈夫だよ。でも、女優の方がやはり似合っていると思う」
 其の日は其処でお開き。
 彼女とは丸ノ内線の改札で別れた。
 



 帰りの電車の中で、彼女、何時まで勤めるのかななど思う。
 演技力もありそうで、役員の秘書などにしておくには勿体ないとも。
 駅から途中の茶店に寄ってから帰った。主人が。
「おや・・今日は遅いわね?」
「うん、歓迎会があってね・・それが元女優だというから話がはずみ・・」
「また・・麗人とみると、どうしてもそうなるのね?」
「其れは男性なら皆そうなんじゃない?でも、綾子の同業だから・・ああ、そう言えば今度花街に・・此処に呼んであげようかなと思ってね?」
「いいんじゃない。芸者もいるし、着物姿の勢揃いで・・さぞかし誰かさん好みね?夕子さん待っているわよ・・早く帰ってあげたら?」




「只今・・」
「お帰り・・食事は済ませたの?」
「いや、何か軽く食べるものあるかな?」
「何?・・よそよそしいわね?いい事でもあったのかしら?」
「綾子の知人の女優が社に秘書で入り歓迎会を・・」
「女優ならさぞかし美人なんでしょう?」
「うんまあ、君に較べれば・・ま、美女は美女だが」
「あらあら・・ご馳走様・・いいわよ何か作るから・・」



 その後、綾子から連絡があり、
「其方に行こうかと思っているから・・そうだ、美智子さんの秘書どうだった?」
「うん、其れは素晴らしいが、矢張り女優の方がいいんじゃないかな?」
「ええ、其のうち・・時代劇に復帰する時が来るかもね?彼女も一緒に連れて行くわ・・着物姿の彼女は又いいわよ?」
「・・でも、着物姿が目に浮かぶようだね?うなじに・・」
「また・・見たいなんて言いそうね?」
「・・いや、それは・・今は社員だから・・」
 そこで二人の会話はおさまったのだが、やはり彼女は秘書もいいが、やはり女優の方がお似合いだ。



 夕子の食事の味が格別なのは同じ星から来たから。
 其の日は熟睡した癖に、おかしな夢を見た。
 夜中に見た夢は、粋な着物姿の女性が、首を傾げ膝を崩している裾から素足が・・いうおかしな・・あまり見過ぎなのか?
 横に寝ている夕子を見るが、熟睡しているようだ。




 何時か花街で賑やかに話をするのが楽しみのような気もするが・・。
 芸者達に夕子や女優・・少し贅沢過ぎるシネマ(France語)の様だ・・と・・。
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(此れにendingの演奏を付けたいのだが・・ブログで無いと無理かな?)
「by europe123」
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邦題 無くなった文学物に時代劇役者とプロデュース不在にて候・・。

実は女優とかで・・。

邦題 無くなった文学物に時代劇役者とプロデュース不在にて候・・。

やはり、気が合ったのだが・・且つての映画は素晴らしいと・・。

  • 小説
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-12-09

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