邦題 尾上雄二の或る案件後半。

邦題 尾上雄二の或る案件後半。

前作後半。


 其の契約者には妻の兄にあたる保証人がいたのだが、彼女と相方が保証人宅を訪問し、事の次第を話した。
 幸い、其の保証人は契約者とは似ても似つかぬ誠実な男性であったので、即座に全額の支払いを承諾した。
 所謂、早期完済であり、銀行の様な貸金業であれば契約時の全額から幾らかの利息金額が引かれて請求される事になる。
 だが、信販会社のクレジット契約では、貸金の様な金利ではなく手数料という科目にあたるものを差し引く事になるのだが、金利に比較すれば大した値引きにはならない。
 何れにしても、彼女は此れで解決とばかりに喜び、請求額の金額の計算を社の担当部署に依頼し其れをそっくり保証人に請求した。
 その直後、請求金額が間違っている事に気が付いたのは雄二だった。
 そうなると今度は此方の過ちであるから、折角一つ返事で承諾をしてくれた保証人に合わせる顔が無くなるとの彼女の気持ちも理解できる。
 彼女は再び保証人宅を訪れ、自らの間違いの旨伝え、幾らか高くなってしまった金額を交渉しなくてはならない。
 あの契約者なら此の不手際に乗じ因縁めいた事をするかも知れないと、考えてしまってもおかしくは無い。
 其れが例え疑心暗鬼であろうとも・・。雄二は彼女の頭脳の中に浮かんでいる事柄がすぐに理解できたから、彼女が申し出る前に彼女に同行する旨話した。
 二人は、予めappointをとってあったのだが、夜間で無いと在宅で無いという先方の指定する時間に保証人宅を再度訪問した。
 通常は雄二の仕事ではなく課長なりが同行するのであるが・・。彼女を夜間の時間帯に行かせること自体非常識と言える。
 保証人宅には灯りが灯(とも)っていたが、玄関の手前で立ち止まった彼女は雄二に、
「此処で待っていてください。私が取り敢えず中に入りますから・・?」。
 此れには雄二も恐れ入ったが、やはり拙いと思い、彼女の後に続き玄関の扉を開けた。
 名刺を差し出し挨拶をする間に、彼女は保証人に全てを話していた。彼女は泣き出しそうな顔をしていたのだが、保証人は誠実な人だった。
「貴女が悪いんじゃなくて、会社が悪いんだから・・」
 そういう保証人にはintelligentsiaが窺えた。今度は雄二の責任となるから、
「誠に申し訳なく・・」
と、頭を下げた・・。




 帰りは、雄二は彼女と雑談をしながら・・二人、車内の人となったのだが、既に彼女に感傷は窺えなかった。
「・・以前の事で・・契約者のマンションを訪れたのですが不在で、暫く辺りで時間を潰してから再度訪問した時、契約者の女性から、【学会に行っていたから・・】と聞いた際、学者か医者?と思ったのですが、後から創価学会であったのに気が付いた」という話をしだした・・。
 雄二が彼女の気丈(きじょう)さに驚かされた一件だった・・。
 其れからは、彼女を説得し審査の方を見て貰う事にした・・。
 目の前の彼女は、今は想い出として割り切っているようだ。審査に廻っても相変わらず腕は少しも劣っておらず・・今度は昇格をし、新人の指導をしている。
 雄二は何度と無く暴力団相手の案件で危険な目に遭っているが、鉄砲玉と俗に言う下っ端に拳銃で撃たれた事もある。 
 警察はあくまでも民事不介入であるから、何かが発生しない限りは動かない。そのくせ、雄二が銀行から数千万を全額引き出した時、所轄の警察官が五人来た事があった。詐欺に引っ掛かると危ないので・・と。
 雄二は連中に、階級と名前を言うように問うたが、無言なので警視庁に電話をし、
「・・警察署から五人警察官が来ているが、私は弁護士で・・追い払ってくれないか?」
 と、電話代わって下さいというからiPhoneを渡したところ、分かりました、とすぐに五人が帰った事もあった。
  通常は、警察は司法関係者は特別扱いをし、表まで送って来る警察官もいる。身辺警護も、何も国会議員だけでなく弁護士も要請は出来るが・・。
 



 其の日は、役員室に電話をし、都内直帰として貰った。
 花街に向かい何時もの夕餉を楽しむつもりだ。三田綾子・若井夕子・常盤峰子・アトリエの二人・漱石・芸者達と勢揃いだ。
 共和制(シリーズ中でこのような言葉を使用しているのだが、此の国とは異なる三次元空間が存在しているから。その点については何れシリーズ作品で説明する事になる。)を瓢箪池まで拡げる事にしている。人類には分からない事だから、次第に広げていく事も問題は無いだろう。
 そう言えば、最近、USSRの記事が目立っているが、此の国の自民のお粗末には関心は無いのだろうかと思う。
 其処で、丁度0母船の「第三の彼」から信号が送られてきた。雄二も冗談半分でおかしな質問をしてみた。
 勿論、女性軍三人も聞いている。
「・・USSRは世界中を敵に回し、まだ頑張っているようだが・・其方の案配は如何?」
 と、面白い回答が戻って来た。
「USAの近くに停泊し、世界中の情報を観察しているが、先ず、Chinaは単独では台湾の生け捕りなど無理だ。あの、ペロシが台湾を訪れた際に、攻撃をし人質にとる事ができるくらいなら・・?だが、実力が無いだろう・・」
「・・そんな事を言えば、顰蹙(ひんしゅく)を買うよ・・。若し、核兵器を使用するとしたUSSRの立場ならどうする?」
「核兵器?・・我々は生命体に危害を加える事は出来ないし・・旧式の兵器などには縁が無いが・・小国やNATOなどは飛び越えて、USAを先ずは消去する方法が理論的には一番手っ取り早い。人類にはチェスとか将棋というものがあるだろう?ゲームなら、盤上からUSAを削除する。尤も我々で無ければ不可能だが・・」
「他の空間にでもそっくりUSAを移動させるという事かな?」
「実際には争いには加わっていないが、事実上、陰で小国を動かし、世界中から後押しをされるように主導権を握っているモノから、削除した方が早い。共和党政権に変われば、攻撃的になるだろうし・・世界中が大混乱するだろうが、ロシアンルーレット?あの、一か八かよりは確実だね・・」
「随分大胆だな?だが、貴方の言う事は理論では正しいだろうから・・青い惑星では無理だろうが?まあ、確かにUSAに頼っている国ばかりだから・・此の国もがっかりするだろう?USSRも此処まで来れば・・その手は欲しいだろうが・・?で、何方がゲームなら勝つ?」
「其れは、先に攻撃した方が圧倒的に有利だろうな・・核弾頭も数の上では優っているようだし・・。ただね・・。USSRの元首だって本心から其れを望む事はしないよ。世界に僅かに存在しているだけでは寂しいじゃないか。人類は集団で生活する生命体だから、此の惑星の寿命が一億年と見ているようだが、其れ迄は集団でいたいだろう。ただ、其れより早く青い惑星を含め太陽系は消滅するだろうが・・其れは彼等には酷だと言えるな?」
 充分、ゲーム理論は・・成立しそうだが・・。
「衛星に待機している四次元からの訪問者は?」
「此処に来ているよ・・」
「・・分かった。また信号を送るが・・?」



 奥座敷の夕餉は真っ盛りだ。
 共和政は・・居心地が良さそうだ・・。
 何事も無いような・・秋の夕陽が沈んでいく・・庭の花々も来る冬の前に・・其の美しさを存分に披露してくれていた・・。



「山から里の方へ遊びにいった猿さるが一本の赤い蝋燭ろうそくを拾いました。赤い蝋燭は沢山たくさんあるものではありません。それで猿は赤い蝋燭を花火だと思い込んでしまいました。
 猿は拾った赤い蝋燭を大事に山へ持って帰りました。
 山では大へんな騒さわぎになりました。何しろ花火などというものは、鹿しかにしても猪ししにしても兎うさぎにしても、亀かめにしても、鼬いたちにしても、狸たぬきにしても、狐きつねにしても、まだ一度も見たことがありません。その花火を猿が拾って来たというのであります。
「ほう、すばらしい」
「これは、すてきなものだ」
 鹿や猪や兎や亀や鼬や狸や狐が押合いへしあいして赤い蝋燭を覗のぞきました。すると猿が、
「危あぶない危い。そんなに近よってはいけない。爆発するから」といいました。
 みんなは驚いて後込しりごみしました。
 そこで猿は花火というものが、どんなに大きな音をして飛出とびだすか、そしてどんなに美しく空にひろがるか、みんなに話して聞かせました。そんなに美しいものなら見たいものだとみんなは思いました。
「それなら、今晩山の頂上てっぺんに行ってあそこで打上げて見よう」と猿がいいました。みんなは大へん喜びました。夜の空に星をふりまくようにぱあっとひろがる花火を眼めに浮べてみんなはうっとりしました。
 さて夜になりました。みんなは胸をおどらせて山の頂上てっぺんにやって行きました。猿はもう赤い蝋燭を木の枝にくくりつけてみんなの来るのを待っていました。
 いよいよこれから花火を打上げることになりました。しかし困ったことが出来ました。と申もうしますのは、誰も花火に火をつけようとしなかったからです。みんな花火を見ることは好きでしたが火をつけにいくことは、好きでなかったのであります。
 これでは花火はあがりません。そこでくじをひいて、火をつけに行くものを決めることになりました。第一にあたったものは亀でありました。
 亀は元気を出して花火の方へやって行きました。だがうまく火をつけることが出来たでしょうか。いえ、いえ。亀は花火のそばまで来ると首が自然に引込ひっこんでしまって出て来なかったのでありました。
 そこでくじがまたひかれて、こんどは鼬が行くことになりました。鼬は亀よりは幾分ましでした。というのは首を引込めてしまわなかったからであります。しかし鼬はひどい近眼きんがんでありました。だから蝋燭のまわりをきょろきょろとうろついているばかりでありました。
 遂々とうとう猪が飛出しました。猪は全まったく勇いさましい獣けだものでした。猪はほんとうにやっていって火をつけてしまいました。
 みんなはびっくりして草むらに飛込み耳を固くふさぎました。耳ばかりでなく眼もふさいでしまいました。
 しかし蝋燭はぽんともいわずに静かに燃えているばかりでした。赤い蝋燭
新美南吉」


「嘘は河豚汁である。その場限りでたたりがなければこれほどうまいものはない。しかしあたったが最後苦しい血も吐かねばならぬ。夏目漱石」</span>




「by europe123」
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邦題 尾上雄二の或る案件後半。

前作後半。