古関冬馬と近藤誠、因縁の戦い

これちかうじょう

12月5日

「…ああ、寝てしまったのか」
眠れと命令されたので眠ることにした。
(命令じゃないよと将好は言っているが)
「…しかし体が痛い、眠るのは時折にしよう」
今日は12月5日で、僕は16歳になった。一応。
「…ん、ラインが来てる」
来ていたのに気づかなかったとは、さすがの僕も落ちたな。
「しかも0時ちょうどだ、何と言うか、将好は寝る時間が遅すぎるな、
 あとで注意しなければ」
僕でも受験をする頃、23時には寝ていたのに。

(長野将好→古関冬馬:ライン)12月5日、0時

誕生日おめでとー!
16歳だねえ、本当は逢ってお祝いしたいんだけど、
学校があるから逢えないなあ。
ちょい残念。
でさ、明日は休みだからうちにおいで。
中村君と一緒でもいいから。
もううち分かるよな?
律も、それから親もいるから、
だからちゃんと来いよ。
絶対に来い。


「…命令じゃないか、仕方ないな、従う他あるまい」
そういうわけで制服を着る。
寒そうだと言われたので、青陵のコートも羽織った。
「食事はいいか…歯磨きはしたし、顔も洗ったから、弁当も作ったし」
弁当だけは欠かさず作っている。
これは昼休みのためであって、冬至君たちと食べるためだ。
本来ならば食事もしなくてもいいのだけれど、
こればっかりは譲れない。


鍵をかけてアパートを出る。
それから駅に行き、一駅。
そこからバスに乗り、青陵の正門前に着く。
前は車だったので楽だったのだが、仕方ない。
16歳なのだから、免許はあっても運転するわけにはいかない。

そして1年7組の教室へ入る。
まず、橘君に声を掛ける。
「おはよう、橘君」
「おはよう冬馬」
「どうした」
僕は橘君が何か言いたげなので、聞いてみる。
「誕生日、おめでとう冬馬」
「…何故に知っているんだ?僕は君には話していないはずだけど」
「冬至から聞いたんだ。それからこれ、受け取って」
「…?」
紙袋を渡される。
「時間ないから急いで買ったんだけど、よかったら使って」
「…時計?高かったんじゃないの」
「でも冬馬はしてないから、時間とか確認するのに必要でしょ?
 それにお金のことは気にしないで。
 これは冬至が出してくれたんだ」
「冬至君が!?」
「そう、だからこれは僕と、袂と、冬至からのプレゼント。
 使ってね」
「あ、ありがとう…」
そう言えば前に財布を見て驚いていたっけか、冬至君。
「あれ、冬馬って左利き?」
「いや、両手利きなんだ。でもよく使うのは左手だから、右にしたんだけど」
「すごいな、両手利きって。初めて知った」
「これも訓練の賜物だよ。で、冬至君たちは?隣にいるの?」
「まだ来てないと思う、冬至は家が県境だって言ってたから結構ギリギリで来るし、
 袂ものんびり屋だからまだ来てない」
「でも橘君は…ああそうか、寮生だったもんな、
 だからいつも早いんだ」
「そうなんだ。寮母さんもお弁当作ってくれるの早いし、
 だから誰よりも先に来ちゃう。暇だから勉強してるんだけど」
「そうだったんだ…」
担任だったのに、何も知らなかったなあ。反省反省。
「でも近藤は来てるよ、多分隣に居る」
「…そう」
「冬馬は何でか近藤とはあんまり話さないよね」
そう、なのだ。
同じ部活になったとはいえ、昔の関係者だから。
「でも橘君て近藤のことは近藤って呼ぶんだね」
「いきなり女子には名前呼びはしないよ」
「でももう知り合って随分経つじゃない、もう名前呼びしたっていいんじゃないの」
「僕は冬馬と一緒で団体行動が苦手なんだ、
 それに…日本の女性は恥じらいがあるってお父さんが言ってたし。
 だから近藤は近藤と呼んでる」
「あの子に恥じらいはないと思うけど」
でもありがとう、と言って僕は席に着く。
「冬馬、勉強すんの?」
「一応、赤本も手に入れたし」
「どこ?」
「東大」
「じゃあ城善寺と同じとこだったんだね、でも今は違うけど」
「そう言えば先輩のことも苗字呼びだね」
「高瀬にきつく言われたから。先輩をつけなさいとか、敬語を使いなさいとか。
 でもそれは無理だよ」
「変なところで君も不器用だね」
振動が来る。
一応学校では音楽が鳴らないようにとバイブレーションにしている。
「…ああ、返事がまだだった」


(長野将好→古関冬馬:ライン)

おっはよーん
起きた?
既読になってたからついつい連絡してしもたわい
でさ、明日のことなんだけど
律が聞きたいことがあるって言っててさ
だから弟の話も聞いてね~


(古関冬馬→長野将好:ライン)

おはよう
しかし午前0時ちょうどにラインとはすごいな
でも駄目だ、
23時には消灯して寝るんだ
勉強のしすぎもよくない
僕に心配をかけさせるな

それと、あの弟君は実に丁寧な人間だな
前に伺った際に挨拶をしっかりしていると感心した
何が聞きたいんだろうか
勉強のことなら残念だが
小学生のことはあまり教えられそうにない

あと、
ありがとう
嬉しかった、誕生日を覚えててくれたんだな
それは感謝する

では今日も一日、お互い学習に励もう


16歳かあ、と僕は頬杖をつく。
もう随分と昔の話だ。
まだあの頃は、どういう話をしていたんだろうか。
思い出せないけれど、
星の話ばかりしていた気がするな。
それより、
風馬と時雨に挨拶に行くか。
まさか年下になったと知ったら驚くだろうな。

因縁の戦い

「古関君、古関君、聞いてる?」
僕ははっとなる。
「あなた最近変よ?お弁当の時間くらいは普通に喋りましょうよ」
「え、あ、ああそうだね」
僕のことをすっかり忘れている。
僕とのことを忘れてくれているのは助かるけど、
やはり、前の感情というものが邪魔をして、
誠には、いや、近藤には話しかけられないでいる。
「今日は金曜日でしょ?ホール使えるから先に行って二人で掃除しましょうよ」
「え、ああ…でも柳瀬橋君と冬至君は」
「掃除当番なのよ、だから先に私たちが行って…って、ねえ、聞いてる?」
「ああ、聞いてる、」
「じゃあHR終わったら迎えに来てくれる?
 多分そっちの方が先に終わるから」
「分かった」
どう、接するべきなんだろう?
今まで通りというわけにはいかない。
何度かキスはしたけれど、近藤は大河の彼女だし、
まあもうそれはいいのだけれど。
「どしたん古関」
「いや、考え事をしていたんだよ」
「でもお前ってほんとに近藤とはあんま喋らないよな、な、中村」
「まあ…冬馬はちょっとな、女子に弱い」
「そうなの?でも近藤は女子っていうか男子っぽいじゃん、」
「何よそれ」
「だって馬鹿力だし、ってえ!」
「柳瀬橋君、もう一度言ってみなさいよ」
「ごめんごめん、でも本当になんか、同じ部活仲間なんだから、仲良くしろよー」
冬至君だけは知っているんだ。
僕が近藤に固執していたことを。
だから何も言わずに三段重をたいらげてしまっている。

放課後。

「南はHRに無駄話してたもんな…村上は手短に済ませるからやはり僕の方が先か」
廊下で待つ。
近藤誠。我妻誠。
将好はせいちゃんと呼んでいる。
僕は誠と呼ぶだけだったけれど、せいちゃん、か。
「ごめんなさい、長引いたわ」
「少しだから、待ったのは」
「じゃ行きましょう、部長のところはまだかかるだろうし」
「まだもめてる?部長が音大っていうの」
「そうみたいよ。だって青陵のホープですもの、簡単に引き下がらないわよ教師陣は」
並んで歩く。
「古関君て私のこと、あんまり信頼してくれてない?」
「…え」
「いや、同期だと思って私は嬉しいんだけど、
 ほら、中村君とも仲良しだし、
 でもあまり私とは話をしてくれないよね」
「…あまり気にしないで欲しい」
「でも私は気になるの。同期でしょ、仲間でしょ、それにお弁当も一緒に食べてる友達でしょ」
「…」
あの頃の近藤とは違う。
昔は何を考えているのか僕にも分からなかった。
それにまだ、近藤が何だったのかというのも、僕は知らない。
(冬至はこれだけは喋ってません。長野も喋ってません)
「あら、時計するようになったのね。右にしてるってことは左利きだったの?」
「ああこれは誕生日プレゼントでもらったんだ、
 それに僕は両手利きで」
「え、すごいわね、それに誕生日?え、今日?」
「まあ、そんなところ」
「おめでとう、16歳になったのね」
「ありがとう」
私も何か用意すべきだったわねと言われて僕は俯く。
「いや、いい、君にはもらいたくない」
「…やっぱり私が嫌いなのかしら」
「いや、違くて、勘違いしないで」
「じゃあ何か用意するわ。遅くなるけど貰ってね」
「あ、うん」
誕生日なんて忘れていたんだ。
僕は、将好に出逢うまで気にしたこともなかった。
でも今はこうして、冬至君たちがプレゼントまでくれるなんて、
果報者、だな。

ホールに着くころ、携帯が鳴った。
「ごめん、ちょっと見ていいか」
「ええ」

ラインじゃない。
これは何だ?
「近藤、ショートメッセージって何だ」
「まあいわゆる…メールみたいなものよ」
「でも相手は将好だな…」
「え、長野君とどうにかなったの?」
そうだ、近藤は将好にせいちゃんと呼ばれてるんだった。
「でも何でラインじゃないんだろう…」
「ラインしてるんだ?長野君と」
「す、少しだけだけど、冬至君が教えてくれたんだ、スマホの使い方」
「そうなの」
電話番号だけで届くメッセージか。
「…え」
「どうしたの」
「いや、ちょっと」

(長野将好→古関冬馬:ショートメッセージ)

機種変したから今度はこれも使えるよん
ちゃんと登録しておいてね~


「機種変?」
「携帯の機種を変更することよ。長野君、スマホ壊しちゃったのかしら」
「でも番号は将好のものだ、引継ぎとかできるのか」
「それはできるけど、あなた、将好って呼んでるのね」
「あ、いや、それは」
「まあいいわ、掃除しましょ。それからスマホのことは冬至君の方が詳しいから、
 私は力になれないわよ」
「…うん」

実に気まずい。
まさに因縁の戦いというか。

「古関君、壇上は終わったわ」
「あ、僕はまだこっちが」
「じゃあ手伝う」
どう接するべきなんだろうか。
こういう時、いつも間に冬至君なり柳瀬橋君なり、部長なりがいてくれたから、
助かっていたのに。
「ねえ古関君」
「な、なに」
「あなたと中村君てどうしてそんなに仲が良くなったの?」
「…それは、いろいろとあって」
「でもあなた編入生じゃない、どこで知り合ったの」
「…遠い、ところ」
「中村君は柳瀬橋君とは北中出身よ?あなたの中学はどこだったの?
 そもそもどこから来たの」
「…と、隣の県?」
「何故に疑問形なの」
「…」
将好が言ってくれた言葉を思い出す。
僕を守ってくれると言ってくれた。
だから、ちゃんと、これは決着をつけないと駄目なんだ。
「近藤、今度大河先輩に逢わせてもらえないだろうか」
「夢路に?」
「ああ、話したいことがある」
「じゃあ今から行く?」
「でも部活は」
「遅れても大丈夫よ、夢路は推薦通ったからもう生徒会室でぬくぬくしてるはずよ。
 だから行きましょう」
「…わ、分かった」

謝罪をしないと、いけない。


生徒会室を訪れる、僕と近藤である。
「会長、近藤です。いいですか」
「どうぞ~」
入って、と言われて僕は近藤に続いて入る。
「夢路、あなたに話があるって子を連れてきたわ」
「僕に…?あ、せんせ」
僕は咄嗟に大河の口を塞いだ。
「今は僕は普通の16歳の男子だ、だから先生と呼ぶな」
「は、はい…」
やはりか、と僕は肩を落とした。
「会長、大河先輩を少し借ります」
「いいけど、早く返してね」
「分かりました」

それで、僕は大河を連れだしたのだけれど。
「近藤、君はホールに戻ってて」
「でも夢路が心配なの、何故か」
「大丈夫だよ誠、僕は古関君とちゃんと話すべきだと思ってたから」
「じゃあ、ホールに戻るわ。でも何かあったらすぐに呼んで」
「うん、…誠も心配性なんだから」
近藤が見えなくなってから僕は切り出した。
「君だけには冬至君の力が、猪瀬の力が及ばなかったようだな」
「はい…僕だけ藤原君を覚えていました」
「君たちは何なんだ、近藤と大河は、何者なんだ」
「それは言えません…いくら先生でも、言えません、ごめんなさい」
「まあいい、それはいいとして」
僕は廊下に土下座した。
「え、先生…?」
「すまなかった、大河。僕が全面的に悪いのはもう分かってる、理解してる」
「あ、頭を上げてください、別に僕は」
「謝罪をしなければとずっと考えていた、背中を押してくれた人もいる、
 だから謝らせて欲しい」
「…先生」
「僕は守られるということの喜びを知った。君はずっと近藤に守られてた。
 僕が攻撃した時も、近藤は僕を殺そうとしたんだ。
 でも僕は死なないから、普通にいい先生を演じていた」
「…先生」
「でもそれは、あれはしてはいけないことだったと今は理解しているんだ。
 他人を傷つけることはよくないことだ。
 なのに僕は勝手な欲望に任せて君に大けがをさせた。
 君たちが何者でももういいんだ、ただ謝罪をさせて欲しい。
 すまなかった、許してもらおうとは思っていない。
 ただこれからも僕は君たちに謝罪を続けていく。
 だから、お願いだから、僕たちを邪魔しないで欲しい」
「邪魔、ってなんですか」
「だから冬至君と僕の存在を、君は覚えていただろう?
 それを、ずっと隠していて欲しい。
 冬至君のためなんだ、僕はどうなってもいい、
 でも冬至君だけは、絶対に口外しないでくれないか。
 勝手なお願いだとは分かっている、
 でも、君しかもう、今までの記憶は、持っていないんだ」
「…先生、僕は誰も恨んだりしません。してません。
 先生が僕に星を教えてくれたし、だから僕は星が好きになりました。
 天文部に入れたのも先生のおかげです。
 いまは廃部になっちゃったけど、でも望遠鏡だけは処分しないでと、
 会長にお願いしました」
「…あんな古いもの、処分してくれて構わなかったのに」
「いえ先生、僕は確かにたくさんの人に守られてきました。
 でも先生が星の話をしてくれた時のことは覚えています。
 すごく、星が好きなんだと思いました。
 先生みたいになりたいなと思って、それで大学も、教育学部を選びました」
「僕みたいに…?」
「はい」
大河はにこにこしている。
「そしていつか此処に戻ってきます。青陵で先生をしたいです。
 それから、天文部を復活させたいんです」
「…でも僕はいいお手本ではなかったはずだ」
「星が綺麗だという話を誠にしました。
 誠は星には詳しくないから、すごく興味を持ってくれました。
 先生が教えてくれたこと、全部話しました。
 だから、僕、先生に何をされても、
 恨んだりなんかしてませんでした。
 星のことを教えてくれたのは先生です。
 先生っていいなって思えたのも、先生のおかげです。
 だから藤原君のことも先生のことも、誰にも言いません。
 僕はむしろ感謝してるんです。
 いろんな人に守られて、守られる喜びを知りました。
 でもそれじゃいけないっていうのも分かりました。
 僕は先生になります、人の痛みが分かる、
 先生みたいな先生になりたいんです」
ああ、と僕は頭を抱えた。
「これが…大河の良さなんだな、近藤」
「先生?」
「分かった、ありがとう大河。でもこれからは僕のことは古関と呼んでくれ。
 年下になってるから、後輩にあたるんだ。
 それと、青陵に戻ってきたら、近藤を、…誠を頼むよ」
「はい、実は、結婚の約束をしました。
 こんな僕でもいいのかなって思うのですが、
 でも誠は僕がいいと言ってくれました。
 僕はいい先生になります。
 先生みたいに、尊敬されるような先生になりたいです」
僕はお祝いの言葉を口にした。
将好のようには器用に言えなかったけれど、
ありがとうと最後に言って立ち上がった。
「関西の方に行くと聞いた」
「はい、向こうにも行ってみたいと思ったんです。
 佐々木君と笠井さんも一緒です。
 二人はまだ一般試験なのでまだですが、
 僕は一足先に推薦で通りました」
「応援しているよ、そしてまた逢えることを祈っている。
 僕を尊敬なんかするな、
 酷い先生だったはずだから。
 でも、星の話は役に立てたようでよかった。
 生徒会、頑張って」
「はい、先生も、じゃない、古関君も、今度はもっと、
 素敵な人生を送ってください」
「ありがとう、大河と話せてよかった。
 時間がだいぶ経ってしまったけれど、謝罪をしたかったんだ。
 これで心残りはなくなったよ」
「あの、…古関君」
「何だろうか」
「長野先生のこと、よろしくお願いしますね。
 長野先生、変なところでちょっと不器用だけど、
 でも僕の気持ちをずっと支えてくれた人なんです。
 だから古関君、長野先生をお願いします」
「知ってたのか…」
「僕にはそういう力があるので、だから藤原君のことも、
 古関君のことも忘れないでいられました。
 長野先生はとてもいいひとです、優しいし、明るいし、
 でもたまにとことん落ち込むこともあります。
 その時は古関君が力になってあげてください」
「あいつが落ち込むことがあるのか?」
「はい、これから一緒に行動していけば分かると思います。
 なので、長野先生をお願いします。
 僕がここまで生きられたのは長野先生のおかげなんです。
 だから、長野先生を、よろしくお願いします」
「…うん、分かった。話ができて良かった、
 大河、大学行っても頑張れ。
 そしてちゃんと戻って来いよ」
「はい、ありがとうございました」

そうだ、と僕は別れ際、大河にクラスのことを聞いた。
「佐々木君と笠井さんならまだ教室に居ると思います」
「ありがとう」

3年3組、か。
因縁だろうか、あの頃の僕たちも3年3組だった。

「風馬、時雨」
「…やっぱり来たな、冬馬」
僕と同じ、赤い目を持つ神人類。
「時雨はまた髪が長いな、まだ制御できないのか」
「いくら切っても駄目ね。でも冬馬がまさか年下になるなんてびっくり」
「風馬は元気そうだな。受験、久々だけどどうだ」
「大河君と一緒の大学に行くんだ、初めてこの街を離れることになる」
「聞いた、関西に行くそうだな」
「ああ、でも冬馬は何で1年生になっちゃったんだ?」
親友が、と僕は冬至君の話をした。
「すごく可愛い親友でね、僕を変えてくれたんだ。
 一緒にいたいっていうのが本音だ、
 まあ、冬至君には藤原君がいるんだけど」
「そうか…あの藤原君の相手の子がねえ。
 まさかお前が復讐をやめて戻ってくるなんて思いもしなかった。
 でも、もう大丈夫だな」
「私たちは仲間だった。まさに一心同体とさえも言えるような。
 あの頃のことを忘れたりはしないわ。
 でも冬馬は平気?この街にまだいて大丈夫なの?」
「うん、言っただろ、僕には仲間がいる。
 だからもう過去に縛られないようにと思って、
 ここでしばらく生徒をする」
それに、と僕は付け足す。
「僕、今好きな人がいるんだ」
「それは、あの子じゃなくて?」
「ああ、ちょっと変わった人種だけど、明るくて器用な人間だよ。
 もう固執することには飽きたしね、
 だから風馬も時雨も、受験頑張って。
 それで大河とまたここに戻って来てくれ。
 その頃多分僕は、この街にはいないだろうけど」
「どこ行くんだ?大学、また行くのか」
「うん、その好きな人が…行きたがってる大学を受けようと思っている。
 そろそろ判定も出る頃だから、
 それをあの村上に報告しないといけない」
村上には悪いが、昔の同僚だからな、先生はやはりつけられないな。
「冬馬にも春が来たのね」
「それはそれで仲間としては嬉しい限りだ」
「春と言うべきかはまだ分からないが、
 でも僕の全てを受け入れてくれた人だ。
 あの頃のことも全部話した。
 風馬と時雨のことも話してしまったけど、
 いいか」
「別に構わないわ。でも冬馬、これだけは言っておく」
時雨が真剣な目をする。
「もう二度と馬鹿な考えを起こさないで。
 あの子が守ろうとした世界を、壊そうとしないで。
 私ね、あの子のお友達に逢ったことがあるんだけど」
「柳瀬橋君だろう?」
「ええ、すごく綺麗な子よ。その子に、生きなさいと言ったわ。
 私を女神様だと思ってるみたいだけど、
 それもこれもみんなあの子のためだったの。
 あの子が今まで苦しんできた分、私たちがそれを背負っていくつもりよ。
 だからこのクラスに入り込んだわ。
 それに、ラストダンスも風馬と踊れたのよ。
 本当に面白かったわ」
「そうか、…冬至君は本当にすごいな、君たちをも変えたんだ」
「あの子は本当に優しい子だね、親友思いで、何度も土下座したらしいじゃないか。
 でももう大丈夫だろう、この世界でも充分生きていけるはずだから」
「それって」
「藤原君がね、離さないみたいよ。見ていて恥ずかしくなるくらい、
 あの二人はお似合いね」
「はは、冬至君も果報者だ」
だから、と風馬も笑う。
「冬馬もちゃんと今度は青春をしろよ。今までできなかった分、
 たくさんいいことをしろ、考えろ。
 俺たちはもう充分楽しんだからさ、
 だから今度はお前の番だ、冬馬」
「うん、受験、頑張れ」
「分かった。これから図書館に行くんだけど、冬馬は?」
「吹奏楽部を抜けてきてるから戻らないと。
 それと、ちゃんと蹴り、つけるから」
「ああ、そうだな」
かつての仲間、風馬と時雨は平和主義者だと最後まで言い張った。
「もう誰も恨んだり憎んだりしない、
 僕も青春をするよ、あの時できなかった分まで」
「じゃあ行くよ。卒業式で答辞を読むのは実は時雨なんだ、
 それを見届けてくれ」
「ああ、それじゃあ」
時雨が答辞を、か。
首席の生徒の役目だから、そうか。
ここでも時雨は成績が良かったんだな。
「さて、吹奏楽部に戻らないと」
そこで音がした。
「…将好からラインか」
頻繁だなと笑ってしまう。

(長野将好→古関冬馬:ライン)

明日、絶対来いよ。
命令だと思って構わないからな。


「はは、命令か。…いいだろう、従う」

因縁の戦いが、やっと、終わった。

12月6日

「…眠れなかったな」
昨日は眠れたのに、と僕は起き上がる。
今日は将好の家に行くという命令がある。
「冬至君には、…頼らないで自分で行くべき、だな」
道は覚えている。

午前十時、ちょうどいい頃合いだろうと思って呼び鈴を鳴らした。
「はい」
「古関と申します。将好君にお逢いしたいのですが」
「鍵は開いてますから、上がってください」
「はい」
お母さん、だろうか。
そう言えば家族、…父、母、将好、弟の4人家族でいいのだろうか。
「お邪魔します」
あくまで冷静に、だ。
そして16歳らしく、だ。
「古関さん、おはようございます。この前は兄が失礼しました」
「ああ、律君、…さっきのは君だったのか」
「とりあえず上がってください、父と母を紹介します」
しかしよくできた弟だなと思う。
兄とはえらい違いじゃないか。
「父さん、母さん、古関さんが来てくれた」
親御さんには挨拶な、と冬至君が言っていたな。
「ええと、古関冬馬といいます。この度はお招き感謝します」
「あなたがあの冬馬君!?」
「うわあ、すごいな、何でも知ってる優等生だって聞いてたんだよ!」
「…?」
何だ、これは。
「いいから座って!あ、私は母です、美恵といいます」
「僕は父です、圭吾といいます」
「はあ」
しかし何故に将好はいないんだろうか。
呼んでおいて放置か?
「うるさい親で申し訳ありません、それで、兄は今支度中です」
「支度?」
「律ー、うるさい親ってひどいなあ」
「そうよそうよ、将好のお相手の前で酷いこと言わないで!」
お相手…?
「あの、朝早くからお邪魔してしまい、申し訳ありません。
 ただ、昨日、将好君から連絡を頂き、
 それで今日は来たのですが」
「私ったらお茶も出さないで!やだあ、ねえ冬馬君は何が好き?」
「いいえ、おかまいなく」
「いいのいいの、好きな飲み物が知りたいわ!」
「で、では日本茶をお願いします」
「じゃあすぐに淹れるから、ああ!お湯を沸かしてなかった!やだあ!」
「そうだ、冬馬君は何か食べてきたのかな?お腹空いてない?」
「ああ…僕はあまり食事を摂らないもので、今日は何もまだ口に入れていません」
「じゃあお寿司だな!律!電話で出前取って!」
なるほどな、と僕は苦笑した。
将好は確かに器用な人間だが、弟の律君がもっとしっかりしているのは、
このご両親がこういうタイプだからなのか。
「五人前をお願いします、はい、長野です、駅前の」
「きゃあああ!お湯がもう沸騰しちゃった!まだ茶葉を準備してないのにい!」
「すまないね、うちはこういう家で…僕も妻もこうだから律が変にしっかりしちゃってて、
 それよりも将好は何してるんだろうか、支度するって、もう一時間もかかってる」
「…いいえ、見慣れた光景です」
教師の時にこういう親に遭遇したことがある。
子供がしっかりしているのは、親がこう、ちょっと不安定というか、
少し慌て者だったりする場合が多い。
三者面談は結構、つらかったなあ。
「兄貴、もううじうじしてるなよ、もう古関さん来てるんだから早く出てこいよ」
うじうじ?どういう意味だろうか。
「支度って、どういう意味でしょうか?普通に顔を洗ったりとか、
 そういうものではなく?」
僕はお父さんとやらに聞いてみるのだが。
「将好はね、ここ一番って時に弱いんだよ…だから全国模試でもミスが多いんだ、
 ケアレスミスっていうのかな、だからいつまでも二位のままなんだって。
 美恵、お茶は?」
「淹れました!ささ、冬馬君、どうぞ」
「ありがとうございます」
あくまで、冷静に。16歳らしくだ、自分。
「しかし、ケアレスミスは誰にでもあり得ることです、緊張だってするだろうし、
 それに全国模試で将好君が実力を発揮できないのは、
 睡眠時間不足や栄養の偏りにも原因があると思うのですが。
 ああ、別にお母さまのことを言っているわけではなく、
 寝る時間というものをもっと大事にして欲しいと思います、
 受験生になるのですから、体を大事にしないといけない時期です。
 そしてもう12月ですから、風邪をひきやすい時期になります。
 朝の寒暖差など、そういうものをきちんと理解した上で、
 学校へは行って欲しいと僕は思います」
やばい、駄目だ。
教師の頭になってるよ僕。
「それに11月28日は失礼しました、僕の我儘で将好君を遅くまで拘束してしまいました。
 あんなに寒い場所で何時間も話し込んでしまいましたから、
 それは反省しています。ご心配をおかけしました」
「…冬馬君、本当に君、16歳?」
「ええ、16歳になったばかりです。実は昨日が誕生日でして」
「でも何だか大人と喋ってる感覚が半端ないな…うちの律と馬が合うかもしれない」
「そう言えば、律君が僕に聞きたいことがあると伺っていますが」
律君は床に正座している。
「僕に聞きたいこととは何だろうか」
「古関さん、兄のことを本気で相手していますか?」
「…え?」
「兄はああ見えて、すぐ落ち込むネガティブな人間なんです。
 あなたからの連絡で一喜一憂して、
 それで俺たち家族は心配なんです。
 兄はずっと勉強ばかりしてきました。
 でも、それは中学に入ってからのことだったそうです、
 小学生の頃は、いじめっ子だったと俺は聞いてます」
「…ええと、それは聞きました。実は僕も同じような人間で、
 だから気が合ったんだと思うのですが、
 でも今見る限りでは、将好君は明るくて器用で、
 他人を気遣える素敵な人です。それに、綺麗だし、魅力的だと僕は思っていますが」
え、と律君が驚く。
「綺麗…?魅力的…?」
「あ、ああ、違う、違います、それは表現方法がうまくないな、
 何て言うかこう、見ていてほっとする存在というか、…でも、
 初対面の時に僕は何て美しいんだと思いました。
 重複になりますが、彼はどんな人間よりも美しいし、綺麗だし、魅力的です。
 僕の目にはそう映るのですが…答えになっていますか?」
その時、ああああああああ!と将好の叫び声がしたので、僕はぎょっとなる。
「あの、今のは」
「恐らく聞き耳を立てているんでしょう、兄はそういうところは不器用なもので」
じゃあ聞こえてしまったか、と僕はうなだれる。
「以前、同じことを彼に伝えましたが、どうにも理解してもらえなかったようで、
 いかんせん、僕はあまりこの時代にふさわしくない存在なもので、
 僕も不器用なので、将好君を困惑させてばかりです」
「美恵…」
「圭吾さん…」
なので、と僕は続ける。
「僕は他人の痛みを理解できる存在になりたいと思い、今もそれを模索中です。
 彼はどうしても体のことに関しては無頓着なもので、
 頭痛がしていても、胃痛がしていても、無理をする癖のようなものがあります。
 でもそれでは受験生としては駄目です、
 もっと自分を強く持たないと、長い受験という戦いを抜けられません。
 僕の勝手な経験論ですが、睡眠はとるべきです。
 それと滋養のある食事、そして寒いと思ったら早めに休むことや、
 逆に熱いと感じた場合には薬を服用するのも、ひとつの手です。
 つまり僕が言いたいのは、」
「わ、分かったよ冬馬君、とにかくお寿司が来たから食べようか。
 将好、お前ももう出てこい!いつまで冬馬君を待たせるんだ!」
呼び鈴が鳴った気がする。
出前とは、あれか、つまりは食事の外への手配。
「兄貴、古関さんが困ってるぞ、いい加減出て来いよ!」
「そうよ将好!せっかくのお茶が冷めちゃうじゃないの」
「ああ、すみません、一口頂きます」
せっかく淹れてくれたお茶だ、大切に飲まなければ。
「律、ちゃんと『特上』にしたよな?」
「したよ、清算もしたから大丈夫だ」
「じゃあ食べましょう、実は私たちも緊張して朝ごはん食べてなかったのよねえ~」
「そ、それは失礼しました、僕のせいですね」
「謝らないでいいのよ、ただね」
お母さん、とやらが微笑む。
「あの子が友達を連れてくるってことがなかったものだから…
 今まで何度も謝罪に行ったのよ、城善寺さんのお宅にね。
 それから藤堂さんのお宅にも伺ったわ。
 あの子、すごく酷いことしてしまって…それがトラウマなのか、
 友達っていう友達がいなくて、だから昨日、
 冬馬君を呼んだって聞いた時はすごくびっくりしたのよ。
 それに前にもお友達と遊びにいらしたとか。
 学校は違えど、そういうお相手がいるっていうのは、
 もう親としては感無量で、だからどんな方なのって聞いたのよ。
 そしたら笑顔がかっこいいとか、仕草が可愛いとか、
 そんな話ばかりなものでね、私たちうれしくって仕方なかったの。
 ピーンと来たのよ、あなたのこと、将好は好きなのね」
「え、いや、別にそういう関係ではなく、
 単に僕が勝手に将好君を困惑させているだけなので、
 だから好きとかそういうものではなく、」
ばんっとドアが開いた。
「冬馬、それってどういう意味」
「将好、あなたって悪い趣味を持ってるわね、聞き耳立ててたわね」
「母さんは黙って。俺は冬馬に聞いてるんだ」
…ど、どうすべきなんだろうか。
「さっきから聞いてりゃ受験だ?体が大事だ?何だそれ、
 冬馬は何様だよ、俺はそういう説明なんか要らないんだよ、
 何のために呼んだと思ってるんだよ、
 父さんと母さんに紹介するために呼んだんだぞ!
 なのにそれはないだろ、俺のこと好きって言ったじゃないか!
 あれは嘘だったのかよ」
「ま、将好、こういうものは段階を踏むべきだと冬至君に言われてて、」
「中村君なんかどうでもいいよ、何で本当のこと言ってくれないんだよ、
 俺、ちゃんと昨日の夜に父さんたちに言ったんだぞ、
 明日好きな子を呼んだからって!なのにそれはないだろうが!」
「兄貴、そういうとこだよ…兄貴はもっとデリカシーってものを学ぶべきだ、
 いくら何でも、好きな子を呼んだとは父さんたちに言ったとしても、
 それは古関さんにはまだ知らなかった情報だ、
 古関さんに悪いと思わないのかよ。
 せっかく来てくれたんだぞ、最初に来てくれた時からもう随分時間が経ってるんだ、
 それなのにまたこうやって来てくれたのに、
 何でそう自分勝手に怒ったりするんだよ」
固まる僕とご両親である。
「古関さん、すみません。兄はこういう自分勝手なところがあるもので、
 だから古関さんをすごく困らせると思うんです。
 俺が聞いたのは、それを確かめるためでした。
 兄のことを本気で相手してくれているのなら、
 俺たち家族も安心できるのですが…」
「一つ質問いいですか」
僕は手を挙げた。
「律君は何歳?」
「ええと、7歳になりました」
「じゃあ10個違うのか…おい将好、お前、恥ずかしくないのか?
 10も違う年下の弟をここまで困らせて、
 しかもご両親まで困らせて、
 それが君の欠点だなと理解した。
 城善寺に勝てないのはそういうところだ。
 ケアレスミスも、別に睡眠時間だけが問題じゃない。
 そういう、余裕のなさに足を引っ張られている気がするが、
 どう感じるだろうか?」
将好は怒っているのだ。恐らく。
僕の返答が曖昧だったからだろう。
そういう部分が、こうさせてしまったとなれば、
正直に言うべき、なんだろう。
「ご両親と、律君も聞いてください。
 これは、僕の一目ぼれというものです。
 たまたま青陵に来た将好君に偶然出逢ったところからお話しますが、
 お時間よろしいでしょうか」
「え、ええ…」
「でもお寿司がカピカピになっちゃうけど…」
「すぐに済ませますので。だから聞いてください。
 将好君が言っているのは、僕の気持ちの面です。
 正直、あまり知られたくはないとは思いましたが、
 将好君のためにも僕は言います。
 僕は彼を慕っています。
 それは敬愛ではなく、恋情としてです。
 僕から彼に迫ったようなものです。
 ですから、どうか、彼を責めないであげてください」
恋情、という言葉を使うのは生まれて初めてだ。
「僕はこの時代の者ではありません。それは彼にも話をしました。
 僕の目を見てみてください。赤いと思いますが、どうでしょうか」
「そう、だねえ、赤いねえ、カラコンでも入れてるのかな」
「いいえ、これはなるべくしてなった成長の証です。
 人は、生まれ、成長し、やがては死にゆきますが、
 僕にはそれがありません。
 確かに人の形をしていますが、人間ではありません。
 血の色は緑色をしています。
 ですから、食事も睡眠も僕には無縁なものなので、
 付き合い程度には口にはしますが、
 一人暮らしをしているものですからどうしてもおろそかにしてしまいがちです」
「…人間じゃないって、どういう意味なのかしら」
「この世界は、特に僕のいる青陵のある街は、その昔、
 未来の首都候補でした。
 なので、それを守るためにと僕は仲間と共に遺伝子を組み替えられました。
 ですから、死とは無縁なのです。
 つい今年の9月までは27歳の教師として青陵で教鞭をとっていたんです。
 そんな僕にも他人を攻撃するという履歴があります。
 だからでしょうか、将好君に出逢った時に同じ匂いを感じました。
 たくさんの人を殺しました。たくさんの怪異とも戦いました。
 僕たちは命令を受け、それを実行していました。
 信じられないでしょうけれど、僕たちはたくさんの命を奪いました。
 年もいじれますので、今は16歳ですが、
 元々は27歳です。
 でも本当の年は、もう忘れてしまいました。
 だからもう何年この世界にいるのかも実は分かっていません。
 それでもいいと、将好君は言ってくれました。
 血に染まった僕の汚い手を、握ってくれました。
 この世界の終わりを僕は計画していました。
 でももし、それを考える前に将好君に出逢えていたなら、
 事態は変わっていたかも知れません。
 先ほども言いましたが、彼は美しく、綺麗で、魅力的です。
 だから僕のことは理解して頂けなくてもいいですが、
 どうか、彼を責めるのはやめてあげてください」
お願いします、と僕は頭を下げた。
「何だか…信じられないんだけど、冬馬君は将好を好きなんだね?」
「はい、慕っています」
「でも自分は人間じゃないとか、そういうのは何かのゲームとかの話、でもないと?」
「はい、その通りです」
「将好を好きなのね?冬馬君は」
「はい、先ほどはついいつもの調子でごまかしてしまいましたが、
 僕は確かに、彼を好いています」
ほわーとご両親が顔を見合わせる。
「何だかよく理解はできないけど、でも将好のことを好きだっていうのは分かったよ冬馬君」
「でもそれはあまりよくないことだと分かっています。
 彼は彼でこれからたくさんの人間と出逢うでしょう。
 そこで誰かに恋をしたり、すると思います。
 でもそれは、…僕には耐えられそうにもない」
「でもいいのかな、うちの将好で、君はいいのかな」
「それは断言します、僕には彼以外考えることができません」
だから、と僕は将好を見る。
「できれば、交際を認めてもらいたいと思います。
 律君、僕は本気で君の兄上を慕っているよ。
 だから、おかしいと思われてもいいと思って、今の話をした。
 これで答えになっただろうか」
はい、と律君が頷いた。
「だってさ、兄貴!この人は本物だ、本気で兄貴を好きみたいだ」
「冬馬、俺はそんなことまで言わせるつもりはなかった」
「しかしいずれは知られることだ。僕が人間じゃないと言うことも、
 そして性別の件でも、尋常な話ではないことを、
 いずれは知られることだった。
 それに君が怒鳴るのを初めて見られて、それはそれでぐっとくるものがあったぞ」
「…ああもう、俺が言いたいこと全部言われちゃったじゃん、
 それにうちの家族はそういうの気にしないタチだし、
 俺にそういう相手がいるってだけで大喜びするくらいだぞ、
 そんなの、常識とかそんなの、考えなくてもいいんだよ」
雰囲気が台無しだなと思ったので僕は立ち上がった。
「困惑させてしまい、申し訳ありませんでした。実は僕も決意をしていたので、
 それを最後に言わせてもらっていいですか」
「何かしら」
「…僕はもう、戻ろうと思っています。
 僕の親友に、すごい人がいるのですが、その人に頼もうと思います。
 安心してください、もう二度とこのような事態には巻き込みません。
 将好君はきっとこれからいい出逢いがあると思いますので、
 僕が邪魔する権利はないです。
 最期に知れて良かったと思います。
 僕にもまるで人間のような感情があったんだと、理解できて助かりました。
 ですから、もういいんです。
 お寿司をせっかく頂いたのに申し訳ありませんが、
 もう充分、お気持ちは頂きました。
 やはりこの世界には僕の様な者はいない方がいいと理解しました。
 これを、置いて行きます」
「スマホ…?」
「それと、一言彼に言いたいことがあるのですが、いいでしょうか」
「…な、何を言うつもりだよ冬馬、」
僕は笑う。
「楽しかった。君とたくさん会話できて、僕は時雨や風馬のような、
 そういう気持ちを、感情を知れて、倖せだった。
 因縁の戦いも決着したし、たくさんの友達もできた。
 つくづく、青春はいいものだと理解したんだ。
 僕はもう君には逢わない。
 遠い所へ行くから、もう逢うことはないだろう。
 それでも、僕は覚えているよ。
 君に話した星の話や、一緒に見た流星群の美しさを、
 ずっとずっと覚えている。忘れない。
 だから受験を頑張って欲しい。
 そして夢を叶えて欲しい。
 まだ夢の話はしていなかったが、医学部希望なのだから、医者になるのだろう。
 ただ、もう君には僕は必要ない。
 困惑をさせてしまった、何度も不可思議な表現をしたかもしれない、
 でも、僕が居るべき場所はこの世界じゃない、この時間軸じゃない、
 だから、最期にお願いがあるのだが、聞いてもらえるだろうか」
「…最期って、どういう意味?俺に逢わないとかって何、
 どこ行くんだよ、もしかしてあっちなのか、
 せいちゃんたちが言ってた、
 中村君に頼むつもりなのか、俺を置いて、いなくなるってのかよ」
「お願いだ、握手をして欲しい。お別れの握手だ、将好」
嫌だと言われても僕は行く。
そのためには、こうするほかなかろうな。
「手を出してくれないか」
「嫌だと言ったら?」
「手を出してくれ、出さないのなら僕から掴むぞ」
「んだよ…勝手に慕ってるとか言って、それなのにいきなりお別れ?
 俺がどんだけ、」
僕は時間を止めた。
これ以上は聞いていられないと判断した。
「将好、君は美しい。どんな星よりも、月よりも、ものすごく美しい。
 そして綺麗だ。魅力的で、本当に、慕っていたよ」
冬至君、と僕は念じる。
「冬至君、邪魔をして悪いな、今大丈夫か」
(冬馬、逃げるな)
「しかしこうすべきだったんだ、こうなるべきなんだ、
 見てみろ、ご両親がいかにショックだったか僕でも理解できる。
 大事な息子がまさか人間じゃない存在に好かれるなどと、
 考えただけでぞっとするだろう。
 その前に僕は男だ。
 だから君がこの世界を諦めたという気持ちが痛いほどよく分かった。
 いくら慕っても、好いても、それが間違っていると理解すれば、
 簡単なことだ。
 僕と将好は出逢うべきじゃなかったんだ。
 だから僕を、向こうへ、はざまへ送ってくれ。
 もう疲れた、いろいろ考えすぎて非常に疲れた。
 君に癒してもらえないのは残念だが、
 僕はもう此処に居るわけにはゆかない。
 記憶は消さないでもいい、
 でも僕をはざまへ送ってくれ。
 今から藤原家に向かう。
 だから、親友の頼みを聞いてくれ」
何てあたたかいのだろう、と僕は将好の手を握っている。
「逃げるのではない、去るのだよ冬至君。
 その手伝いをして欲しい。
 僕に君が植え付けた共有の力が、それを知らせている。
 僕が此処に居たら、将好が苦しむことになる。
 ラインを教えてくれて助かった、そのおかげでこんなにも魅力的な人間に出逢えた。
 会話ができた。
 僕にももう、休みをくれないか」
(…それは、俺に、お前を殺せと言っているか?
 永遠の命から解放しろと、そう言っているのか?)
「もう疲れてしまった。休みたい。
 風馬や時雨のように眠りにつくこともできない身だ。
 だから君に頼みたい。
 僕を、消してくれ、冬至君」
僕は手を離す。
「将好が教えてくれたんだ。
 僕に、もう終わりにしてもいいと。
 解放されたい、全ての因果から、救われたい。
 ありがとう将好、君と会話できたことは、本当に嬉しかったし、
 楽しかった。
 でも部長が方向を変えたように、僕も変えるべきだと悟ったんだ。
 全国模試の結果が気になるが、
 それはもう諦める。
 このまま時間を止めたまま藤原家にお邪魔する。
 すまないな、君にしか頼めないんだ。
 もう、本当に疲れてしまった」
(分かった、でも記憶は消さないからな、それに俺も一緒には行けない。
 俺は未練がある、だから一緒に行けないけど、それでも戻るのか)
「ああ、頼む。もう随分と長居をしてしまった。
 君の父上や母上と共にいたい」
(…お前が後悔しないなら俺は手伝う。でも、まだ長野家にいるか?)
「ああ、目の前で将好が鬼気迫る顔をしているが」
(俺は後悔したぞ、結ちゃんから離れて、寂しくて、つらかったんだぞ。
 それをお前には理解してもらいたくない。やり直すつもりはないのか?
 未練はないのか?目の前の長野先輩に、何も感じないのか?)
「…ああ、大丈夫だ。たくさんの会話も、喫茶店でのやり取りも、
 僕は忘れない。
 星を見れたことが最高の思い出だ。
 いいな、夜空はいつ見ても美しく、儚く、そしてドキドキした」
僕は頭を下げた。
「さようなら、将好。今までありがとう。
 僕を理解してくれてありがとう。
 でももう休ませて欲しい。
 こんなにも恋情が大変なものだとは知らなかった。
 逃げるんじゃない、去るのだ。
 僕は星に還る。
 いいことをすると生まれ変われるんだそうだ。
 きっと僕には無理だろう。
 将好を最期に傷つけてしまったからな。
 でも本当に、久々に鏡を見たよ。
 君が僕を褒めるから、不思議だったが、
 それももういい。じゃあな、達者で暮らせ」
風馬、時雨、悪いな。
僕は全ての因果から解放してもらう。
冬至君がいてくれて、本当によかったよ。
僅かな時間だったけれど、青春もいいものだったな。

藤原家にて

「本当に来たんだな、冬馬」
「まだ時間は戻してないから、藤原君も来れないだろうな」
僕は藤原家の離れを訪れている。
「そうだったのか、君たちに兄弟ができるのか」
「それが俺の未練だ。結ちゃんもそうだ。だから俺は一緒に居てやれない。
 それでもいいんだな?俺が、お前を消す。
 つまりは、お前をはざまへ送る、それでいいんだな?」
いや、と僕は首を横に振る。
「違う、先ほどは混乱していたのでうまく言えなかったが、
 消してくれ。
 分かるか、この意味が」
「…俺に人殺しになれと言うのか?親友の命を奪えと、そう言いたいのかよ」
「冬至君にしか頼めない。
 お願いだ、もう疲れてしまったんだ。
 僕そのものを、因果から解放して欲しい。
 永遠の命なんか、今の君には簡単に消せるだろう。
 僕をこの星に還してくれ、そして二度と存在できないようにと、
 全て抹消して欲しい」
不思議と涙は出ない。
将好の前ではあんなに泣いたのに、不思議だ。
「本当に疲れちゃったの?俺が癒しても駄目か?」
「君をもう利用したくない、はさまへ送れとは言ったが、
 それすらもう嫌だ。
 僕は、ずっと、ずっと、死にたかった」
殺さないでくれ、家族がいるんだ。
そう言って僕に縋りついたあの顔が忘れられない。
「僕の家族はとうに死んだ。思い出せない程遠い昔の話だ。
 僕はたくさんの命を奪い、それを放り投げ、捨てた。
 その報いなんだ、
 だから殺されるなら、君に殺されたい」
「…」
「僕が死んだら時間を戻すから、動かすから、だから頼む。
 謝罪もできた。因縁の戦いにも決着がついた。
 本当ならばもっと前に気づくべきだった。
 冬至君に復讐心を見破られた時に、
 もういいと分かっていれば、こんなことにはならなかった。
 たくさんの命を奪った報いだ、
 もう、休ませて欲しい」
ごめん、冬至君。
君に酷なことをさせると分かっている。
でももう、解放されたい。
赤い目からも、この力からも、永遠の命からも、
全ての因果から解放されたいと願ってしまった。
星が綺麗だと思う反面で、隣の将好が何て綺麗なんだろうと思った。
きっと藤原君よりも、将好は綺麗な心を持っている。
冬至君には、言わないけれど。
「じゃあ分かった、お前の本当の気持ちも、理解した。
 未練はないんだな?
 長野先輩にもお別れしてきたんだな?」
「ああ、ちゃんと握手をしてきた。
 受験の手伝いをするという嘘をついてしまったが、
 もう、本当に、疲れた。
 死にたい、終わりにしてくれ。
 冬至君に出逢えてよかった、君がいたから僕はここまで変われたんだ。
 それだけで満足だ。
 未練などない。
 すまないが、僕を消した反動は藤原君に癒してもらってくれ。
 たくさんの世界を知ることができて、僕は果報者だったよ」
「…冬馬、…俺はお前のコントラバス、すげえ好きだったよ。
 それに着信音が悲愴なのも、絶対に忘れたりしない。
 長野先輩からも記憶は消さないからな。
 きっと泣くぞ、それを分かってて俺に頼むんだな」
「一思いにやってくれ」
「…これも、俺の宿命なら、何て酷い世界だろう。
 俺はお前のことが好きだった、
 忘れたりしない、
 だから、最期に笑った顔、見せてくれるか」
「…こうか」
将好がかっけえなあと言う、僕の笑顔だ。
「ありがとう、冬至君。これでやっと僕も解放される。
 ありがとう、藤原君と倖せになるんだぞ」
「…うん、了解した」
何て温かい、と僕は周りを見渡した。
「…まさか僕が、天国に来れるとは」
振り返ることはしない。
居なくてもいい存在は、もう僕だけでいい。

「ありがとう、将好。好きだ、大好きだった」

藤原冬至の号泣

「あああああああああああああ!」
何事かと俺は筋トレをやめて部屋に戻る。
「冬至、どうした、何で泣いてるんだ、」
こんな号泣は見たことがない。
「冬至、泣くな、何があったんだ、」
「ゆ、結ちゃ…」
また号泣するので、俺は背中を撫でてやる。
「体温が下がってるぞ、俺の命を使え、冬至」
「ううう、ううう、」
「大丈夫だ、お前には俺がいるし、冬馬だっているだろう」
「うあああああああ!」
冬至が自分の手を見て泣いている。
ただ事じゃない。
「もう、俺は、…」
「手がどうした」
「俺は人を殺した、殺しちゃったんだよおおおおお!」
話を聞かないとと思うのだが、
この状態では難しいだろう。
「…さっき、時間が止まった気がした」
「…ううううう」
「それはお前がしたことじゃないな、でもちゃんと話してくれ、
 俺はお前に泣かれるのが一番きつい」
冬至はとうとう何も言わなかった。
ただ、母屋に行き、母のお腹に耳を当てていた。
「ねえ冬至君、悲しいのね?結にも言えないことなのね?」
「…うん」
「でもそれはね、冬至君が悲しんでいることはね、
 きっと時間が癒してくれるわ。
 だからもう泣かないで、結に話をして。
 この子もびっくりしちゃうもの」
「…うん、でももう少し、こうさせてて」
「いいけど、…冬至君、悲しいことは誰かに共有してもらうと、
 楽になれるものなのよ。
 結を頼って。
 あなたを一番心配してるわ、
 結を信じてあげて、ね?」
「うん…」
俺はそれをキッチンで聞いている。
「冬馬が…関係してるんだな、きっと」
人を殺したとだけ言った。
冬至は恐らく、冬馬を。
「…冬至、ご飯はちゃんと食べてくれ。
 頼むから、少しだけでも何か入れてくれ」
「…じゃあ、リクエストしていいか」
「うん、何でも作る」
「すいとんを、作って欲しい」
「すいとん…分かった、それでいいなら、すぐに作る」
冬至が痛いのが分かるから。
俺にできることは、他にもうないから。
「ほら、すいとん」
「…これが、すいとんか…」
「よく祖父が食べていた。だから祖母もよく作ってくれた。
 昔の、食べ物なんだそうだ」
「…うん、…聞いてたから、知ってる…」

添い寝タイムで俺は冬至の頭を撫で続けている。
「話せるようになったらでいい、その時が来たら、俺に話してくれ」
「…うん…」
「母も言っていた、時間が解決する。
 悲しみも、痛みも、苦しみも、全部だ。
 だから今日はもう寝よう、俺がずっと見ててやるから、少しでもいいから寝ろ」
「…ありがと、結ちゃん…」

12月6日の夜、俺は寝ないで冬至の頭を撫で続けた。
俺にできることはこれくらいしかない。
それでも、きっと、冬至は悲しい思いをしたんだろう。
冬馬に関係することで。
雪が降りそうだ、と思う。
今年は早くに雪が降って、
それが積もって、そしてまた溶けた。
時間はかかったけれど、冬至は少しずつ自分を取り戻していった。

「12月22日まで、あと少し」
時間はかかるものだ。
冬至は12月6日の夜に酷い熱を出し、
暫く寝込んでいた。
それでも時は流れる。無情にも。
「きっと…俺は責められるだろうな、最期にもらっておけばよかった、
 冬馬のスマホ…」
「ああそれなら城善寺が持ってたぞ、
 長野が持ってきたらしいから」
「…そう、か…」
「でも城善寺はそれをすぐに長野に返したみたいだ、
 だから多分、冬馬のスマホは長野が持ってると思う」
「…これも、俺のやらなくちゃいけないことだったのかな…」
「お前ら、仲良かったもんな」

冬馬がいなくなったというのは誰もが知ることになった。
12月8日の朝。
「古関君、どこいったのかしら」
「せっかく仲良しになれそうだったのにな」
「それに中村君もずっと休んでるし」
「あいつなら知ってるんだろうけど、多分言わないだろうな何も」
「でも一番悲しんでいるのは間違いなく長野君よ、
 だから私も苦しい」
「部長も何も言わないしな…」

俺は村上先生に呼ばれたので、1年の職員室に顔を出した。
「ああ藤原君、ごめん」
「何でしょうか」
「これ、中村君に渡してあげて欲しいんだ。
 きっと、それが正解だと思うから」
「分かりました」
1年7組の担任の村上先生が俺に手渡したのは、
古関冬馬の全国模試の結果表だった。
それを持ち帰り、寝ている冬至に渡した。
「冬馬、A判定だったな、東大」
「…うん…」
「まだ熱っぽいか?学校には連絡入れておく」
「ごめんな、結ちゃん」
「いい、でもお前がそんなだと、俺もつらい」
「話せる時が来たらちゃんと話すよ…」
「うん、じゃあ寝てろ。
 後でまたすいとん作ってやるから」
「うん…」
だいたいの検討はつく。
冬馬を消したのはきっと、冬至なんだ。
それがどんなにつらいことか、想像ができない。
「…水泳部のエースも、死んだばかりだっていうのにな」
生まれる命もあれば、死んでいく命もある。
俺はふがいないなと思いつつ、母の様子伺いをしている。
「大丈夫よ結、冬至君はあなたに話してくれるわ。
 でも待つのよ。向こうから話してくれるまで、
 ずっと待つのよ」
「うん…」
待つという行為は慣れているけれど、
冬至にはきつすぎたんだと思う。
「…冬馬…俺、お前が好きだったよ…」
寝言でそう言われた時、やはりなと思った。
こんな小さな体でそれを背負ってしまったのは、
恐らく、つらいことだろう。
「馬鹿…」
「…」
俺がしてやれることは、待つこと。
そしてすいとんを作り続けることだけだ。
待つというのは、すごく、苦しいよ、冬至。

古関冬馬と近藤誠、因縁の戦い

古関冬馬と近藤誠、因縁の戦い

  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • 恋愛
  • SF
  • 青年向け
更新日
登録日
2022-12-04

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted
  1. 12月5日
  2. 因縁の戦い
  3. 12月6日
  4. 藤原家にて
  5. 藤原冬至の号泣