隕石の大きさに驚かされた体調不十分ななれの果て

隕石の大きさに驚かされた体調不十分ななれの果て

この後も山のように登場する広大な宇宙からの訪問者は彼だけではない。

今田洋二が美術館で絵画を見ている時、女性に声を掛けられた。
 何処かで見た顔のようでもあるが、其れは洋二で無ければ分からない事で、要は幼い頃のその女性の姿が洋二には見えているから、目の前に立っている者が誰かが分かったという事だ。
 洋二が変人なのではなく、其れは仕方がない。二人のそもそもの関係を紐解けば余計に分かりやすくなる。
 洋二は地方都市の生まれで、大学に入学以来東京に出てきている。一時は母の介護などの為に勤めていたeuropeでの仕事を退職して帰国した。
 母の介護は当然ながら洋二の実家である地方都市にあった戸建て二階建てに住みながら行っていたが、母の認知症が酷くなり、その都度施設二か所から最後は病院に代わり、洋二も出来るだけ手を尽くしたのだが、残念ながら母は他界した。
 其の家は結局老朽化の為処分をし、再び東京に引っ越して来たという事だ。では、彼女・・ああ、名前は小山美智子・・との面識はと言えば、実家の通りを隔てた斜め前に彼女の実家があった。
 地方都市であるから、洋二の母と小山さんという彼女の母は近所づきあいをしていた。
 つまり、洋二が幼少の頃の幼馴染が彼女だという事になる。母親同士は昔から仲が良く洋二の母が認知症で何も分からなくなった時も、小山さんを忘れていない時期があった。
 認知症の介護度が低い頃、施設に入る前の事だった。洋二は既に鍵盤楽器を持っていたのだが、認知症の母は其の事を覚えていなく、新しく鍵盤楽器を購入した。
 母は洋二に知れたら怒られると思ったらしく、小山さんの家で預かって貰えないかと頼み、実際に楽器を配達して貰った。
 ところがその事は洋二には知られなかったが、近所の向かえにはもう一人母と仲の良い朝比奈さんという奥さんがおり、小山さんから相談を受けたという事だった。
 気風(きっぷ)の良い朝比奈さんは、自ら楽器屋に出向き、
「此の人は・・認知症だから購入は間違いで、返還したい」
 と事情を話し交渉した。
 法律上も、認知症患者には行為・判断能力が無いので、取り消しは有効になる。
 楽器は、小山さんの家から楽器屋に戻され代金も戻されたから、問題は無かったが、認知症という病気は脳の海馬という部分の組織が壊死する事により過去の記憶が次第に無くなると共に、判断力も無くなっていく。
 ところが、おかしな事に患者により症状が少しづつ異なる事もあり、いろいろだ。
 患者が自らの幼い頃の記憶は残っているものの、それ以降の記憶が無くなるというケースもある。
 此れを、一々挙げてはいられないので割愛するが、一つだけこんな事があった。
 洋二がビールを好むという事を、母は記憶していた様で、現在は滅多に好まれない瓶ビールを半ダース酒屋に出前を頼んでしまった。
 此れには、洋二は驚きよりも、自分の好物を覚えていてくれたという事の方に認知症患者の哀れさを感ぜざるを得ず、涙が出た・・と言う事などもあった。
 さて、母は認知症であり、小山さんは母より幾つか上だったが認知症にはならず足腰が弱くなり転ぶようになったので、老人ホームに入った。
 母が植物人間になる前に一度だけ小山さんの入所していたホームを訪問した事があった。
 小山さんはまさか洋二が面会に来てくれるとは思っておらず、洋二が、母が植物人間になってしまった事を話して聞かせたところ、小山さんは涙を流し、
「・・だから・・もっと早いうちに・・話が出来るうちに会っておきたかった・・」
 と、近所付き合いの深さを感じる出来事があったのだが、小山さんは母が亡くなる約二年程前に94歳で他界した。
 洋二の母は、最後は病院で91歳で後を追う様に亡くなったが、二人共老衰同然で安らかに亡くなった・・事は、死に方としては運が良かったと洋二は回顧する。
 再び東京に出て来た時、洋二は一人だけだった。




 美術館での出会いに戻る。
 幼い頃よく一緒に遊んだ二人だったが、今でも覚えているのはお医者さんごっこで、色が白く上品な美智子は洋二より幾つか上だったが、よく洋二に付き合い遊んでくれた。
 其の後、美智子は東京の明治学院大学を卒業し地元に戻り、結婚をしたというような事を聞いたことはあったが、詳しい事は全く知らない。
 子供の頃の面影を残した色白の上品な女性になっていた。
 二人には、何方かと言えば初対面に近い筈なのだが、地方で幼馴染だった事はそんな長い時間を飛び越えても、さして隔たりを感じさせなかった。
 其れでも、偶然出会った上に、御主人は一緒に来ていないという事で、Floorを一緒に見て廻り館内のカフェに入った。
 時間は多少が礼儀だろうと思い、美智子に余裕はあるのかと聞いてみたのだが、一時間程休憩をする事になった。
 子供の頃の話は出ず、専ら母親同士の仲の良さや亡くなった時の話などを纏めた様に話し終えた。
 地方での生活に慣れている美智子と、東京に単身出て来た洋二の二人でも、不思議と違和感はなかった。
 洋二はどういう訳か若い頃は兎も角、年を取ってからは女性に関心が無く、悪い面ばかり見えてしまうのだが、美智子には地方でも70万都市の風合いが似合っているようで、其れなりに幸せそうな様子が微笑ましく感じられた。
 洋二の親族も皆亡くなっており、男性は早死にの血統の様でもある。最後に亡くなったいとこは散々地方転勤をさせられ、やっと、自宅に戻れたのだが、僅か十年で、しかも直腸癌で一年闘病生活をし亡くなってしまった。
 人にはいろいろな最期がある・・何時の間にかそんな話になっていたが、美智子が阿部氏の話をしだした。
 彼女は、その死につき特段意識していた訳ではないが、現在騒がれているせいか・・洋二の方の見解を考えて見る事になった。
「・・うん・・まあ、亡くなる前の苦痛だけを考えれば、あのような此の国では珍しい死に方にしても・・一瞬だから・・家族も寂しくなっただろうが、その点ではいろいろ考える余地を挟む事も無く・・まあ・・楽な死に方だったのでは・・と思う」
 美智子は其れを否定もしなかった。
 というのも、双方の母親の亡くなり方も、正にいろいろあったにしても最後は苦痛を感ぜず・・その点だけは良かった・・そう思うからだが・・。
 更に、前述の楽器の件で活躍をしてくれた、洋二の家の迎えの朝比奈さん御夫婦は既に八十・九十を過ぎ大きな家に住んでいるのだが・・。
 奥さん曰く、
「・・のぼるの事が心配で死ぬに死ねない・・」
 と言うのだが。
 こうも言う。
「あの当時、一時は弁護士に相談し訴訟を起こそうと思ったのだが、弁護士は首を縦に振らなかった・・のも・・?」
 其の件は洋二もよく知っており、母からも散々聞かされてきた事だ。のぼるちゃんが子供の頃の事だったが、脱腸の手術をした。
 ところが、医者のミスで・・と奥さんは言うのだが・・結果的に麻酔使用のせいで、白痴化してしまった。
 のぼるちゃんはもう60になるが白痴のまま・・元気は良い。ところが、妹達がいるのだが・・一切面倒を見るのは御免だと言っている。
 其れは、親から見ればせつない事で、
「其れなら・・此の家も何も貴方達には一切相続しない・・」
 と言う気持ちもよく分かる。
 だが、白痴の大人の面倒を見る事は洋二の様に母が認知症から植物人間になってしまい、その面倒をみた・・と言うのとは少し違うようだ。
 施設に入所していると言う事は同じなのだが、感染症流行の現在は、あらゆる施設が面会禁止の措置をとらざるを得ない・・会う事も出来ない。
 洋二の学友の母も94になるが、認知症で入所している施設には行けず、偶に電話で話す・・其れも・・次第に認知症が進んで来ているから、心配の種は膨らんでいる。
 何時か、前述の朝比奈さんは、洋二にこんな事を言った。
「・・お宅のお母さんと一緒に、全国を、青春切符で旅した事が楽しくて忘れられない・・」
 洋二は、相槌を打ちながら思う・・。
「・・辛い合間にちょっとだけ忘れられない楽しい思い出が通り過ぎて行った・・その気持ちもよく分かるし、自分もそんな元気だった母がまさか認知症になるなど思っても見なかった・・人生何が起きるかは分からない・・」
 不意に、美智子が言う。
「洋二ちゃん・・弁護士なら・・医者のミスはどうなるの?」
「・・うん、一番難しい裁判で、医療ミスを好んで扱う弁護士はいないと思うな・・。医者と同じかそれ以上の知識が必要なのだから・・。先日もあるレストランで高齢者の男性から、医療ミスの話を聞いた。其の人が言うには、相手には二人の弁護士が付いていて一審の地裁では敗訴した。其処で・・高裁に控訴したいのだが・・?」
「残念ですが・・これ以上の裁判は無理だと思いますが・・何なら東京は・日弁連・東京弁護士会・東京第二弁護士会・と三つの弁護士会があるから・・そこで弁護士を紹介するのが建前だが・・おそらく、誰も手を上げないでしょうね・・30分の相談で5000円ですが・・?」
 洋二の判断は間違っていないと思う。男性が、高裁の書記官が控訴事件の申し立てを受けてくれた・・と言っている意味が分かっていないのだ。
 書記官には何の権限も無い。ただ、書類として格好が整っているのかを点検するだけで、内容に関しては全く関係は無い・・。判事の仕事だ・・。  
 其処で、美智子が新たな阿部氏の国葬の話を少しだけした。洋二は其れに対し・・。
「・・弁護団が全国の四か所で申立てをしている。憲法違反・・とね・・。国民の半分は反対かな?個人的には弁護団と同じ見解だが・・何か皇室の誰かが葬儀に参列すると表明したとか・・此の国も割れているね・・実にいろいろな事で・・」
 二人の時間は其れで終わる事にした・・此れから地方迄戻らなければならない美智子に手を振った。
「・・来年春には・・気を付けて・・?」
 そういうだけしか言えなかったが、美智子の元気な顔が見れて良かったと思った・・。




 先の事は分からない。
 此の国・世界・全てが・・今、尤も何が起きるのかは分からないが・・洋二もそろそろ・・かな・・?など思う・・。
 証券会社からメールが届いている。
「・・ああ、もう何年か前に・・辞めたので・・口座からおろしますから・・丸井が50円ほど下がり、日本ケミコンが40円ほど上がり・・ダウも日経も若干の下げ・・」
 電話口の女性は・・一体何だろう?と思っただろう・・先は読めないのだから・・無理もない・・。
 



 洋二も旅支度をするのか?・・など考えている・・が、果たして・・どうするか・・帰還するか・・ドッグに・・構造が剥がれて来ている・・?
 だが・・先はある程度読めている・・母船のAIから・・信号があった。
「・・引き返した方が良いのでは・・?」
「・・其れが正解のようだな・・?」
 帰還できるうちに・・が正解なのかも知れない・・
 美智子に会い・・久し振りのお土産が出来たような気もした・・。
 夜間走行と言う言葉はあるが・・幾つもの星々が待ってくれているのか・・様々に輝いていた・・。



「のどかな春の日を鳴き尽くし、鳴きあかし、また鳴き暮らさなければ気が済まんと見える。その上どこまでも登って行く、いつまでも登って行く。雲雀はきっと雲の中で死ぬに相違ない。登り詰めた揚句は流れて雲に入って漂うているうちに形は消えてなくなって、ただ声だけが空の裡に残るのかもしれない。細君はたった一言ひとこと「まあ!」と云ったがそのまあの中うちには驚ろいたまあと、気を悪るくしたまあと、手数てすうが省けてありがたいと云うまあが合併している。夏目漱石 / 吾輩は猫である。漱石」
 



「地上の明かりが消えたぶん、彗星はますます明るい。雲の上に長く尾をたなびかせて、巨大な蛾のように輝く鱗粉をふりまいている。新海 誠「小説 君の名は。 (角川文庫)」」</span>



「by europe123」
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隕石の大きさに驚かされた体調不十分ななれの果て

人類は広大な宇宙の中でレベルの低い部類の生命体。

隕石の大きさに驚かされた体調不十分ななれの果て

この後も宇宙の生命体に関する幾つもの作品を折を見て登場させます。

  • 小説
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-12-04

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