なう

 こどもがはしっている。街は、際限なく変化し、機械仕掛けの建物が増殖した頃に、釣り堀に棲んでいた「わに」は姿を消した。おとな、という定義が揺らいでいる。二十五時の音楽。スノードロップに埋もれて眠る、こぐまと、片腕がウエハースのきみ。憂鬱だから、ジェラートを食べる。「わに」のことを、おぼえているひとは果たして、なんにんいるのか。想像しながら、ちらちらと雪が舞う空を仰ぎ、こぐまときみに毛布をかけてあげなくてはと思う。やさしくないひと、というのは世の中にあふれていて、でも、やさしいだけのひとで支配された世界はどこか、狂っているような気もしている。となりの街の教会で、教会のひとと、真夜中のバケモノがくりかえす逢瀬を、みなかったことにしている神さま。「わに」と寄り添っていたにんげんが、ときどき、水のない釣り堀を眺めながら、ひとりで缶ビールを飲んでいる。

なう

なう

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-12-02

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