vagyis gyönyörű színésznő 邦題 美しき女優という嵯峨

vagyis gyönyörű színésznő 邦題 美しき女優という嵯峨

女性との出会い。

 三越劇場で行われていた催しが終わったようで、人の流れが地下鉄銀座駅に向かっている。一際目立つ和服姿の女性は銀座通りで待っていた車に近付いて行く。
 車に乗り込もうとした彼女に声を掛けていた。


 あの時も同じだった。パリにいる時に一緒だった安形絹江との日々を思い出した。陽も落ちる寸前だったが、彼女が現地のブランド会社の看板のある建物から現れガルニエ通りを歩き始めようとしてから、此方を振り返った時に目があった。
 白人や黒人にイスラム教徒はよく見かけるが、此の国の人間を見掛ける事は先ず無い。其れだから互いにひょっとしたら・・と思ったのも無理は無い。
 彼女も川端康介も和服姿であったから、中国人などでは無い事に気付くと同時に、康介が声を掛けていた。
「・・貴女・・」 
 同じ国であること以上に其の美しさに惹かれた。
 其の時、康介はOFFICEの名入りの茶封筒を抱えていたから、彼女の視線は其処に注がれていた。
「・・出版社の方・・其れとも物書きさん・・?」
「・・ええ、まあ、そんなところで・・貴女・・何処かに行かれるところで・・?」
 見ず知らずの人間に・・言葉がいとも簡単に出て来る。
 絹江は仕事でも終えたばかりなのか、何処かで一休みなどと考えていた様で。
「オペラ辺りのカフェテラスにとでと思っていたんですけれど・・」
 案外、絹江は警戒心も示さずに、目で、良かったら・・と。
 同国人である上に、まあ、おかしな者では無いと思ったのか・・。
 確かに少し歩いた所にあるオペラ座の近くに、まるでゴッホの「夜のカフェテラス」から飛び出した様なカフェが店の灯りを惜しげも無く辺りに振りまいている。
 美に美と来て・・と、気分は高揚していた。
 珈琲を啜りながら、話を進めるうちに絹江が女優であり、今売れっ子である事を知る事になった。
 康介は、TVも映画も見ないから、当然、芸能界などには興味は無かった。只、職業では無く、それ以前に絹江の其の美しさに見惚れていたから・・。
「其れで・・其の女優さんが何用で・・こんなところ迄?」
 ご当地では有名なbrand会社の商品のコマーシャルに出演するので、其の話で来たという事だった。よくは知らないが、普通役者にはお付きというかマネージャーのようなものが同行するのではと。
 マネージャーは細かい契約の話があるから、先程の会社で打ち合わせ中で、自分は気楽に街を歩いてみたくなったから、と断ってから自由行動に出たと。
 一人で行動するなど、なかなか度胸があるのかなどと考えたが、女優ならそれくらいの肝が据わっていてもおかしくは無いのかとも思う。
 其れから、康介の話になった。
「丁度此の地で書き始めていたものがあり・・ああ、丁度いい。君と出会ったのも何かの縁かも知れない・・君とパリの街・・話になりそうだ。ガーシュインの「巴里のアメリカ人」ならぬ・・「巴里の和服美人」・・の様で、案外面白くなりそうだ・・」
 空になった珈琲カップを二つ並べたテーブルを挟んで。
「・・あら、そんなに・・何が面白いのかしら・・私の何処かに貴方のお話に登場させて貰えるような・・?」
 康介は頷きながら、絹江の瞳に話し掛けていた。
「・・ええ、まあ、其れは出来てからという事で・・ところで、此のオペラ座と聞くと僕は何故か宝塚を連想してしまうのだけれど・・オペラは歌劇・・宝塚も歌劇団・・よく分からないけれど。ドガってご存知?ああ、彼は裕福な身だった様で、此処の定期券の様なものを持っていて,足げく通いつめ・・踊り子たちとも仲が良かった・・だから、彼の作品には踊り子ばかり出てくる。彼女達の事をよく知っていたから、綺麗な絵が描けたという事だろうな・・」
 そう言うと絹江は少し首を傾げると。
「其れなら・・私をモデルにお話を書くのであれば・・私の事が良くお分かりで無ければ書けないという事では・・?」
 康介は、会話の中に・・何か・・更にもう一つ付け加えたいものを感じたが、敢えて口に出す事はしなかった。
 丁度、契約を終えたのか、マネージャーからスマフォに連絡があり、今晩の夕食についての事だったようだ。
 さぞかし、女優の海外での夕食となれば、豪華なのかと・・食事中の風景が頭に浮かぶ。
 其のイメージが・・現実のものに置き換わる言葉が・・。
 絹江は、康介の目に話し掛けるようにしながら・・其れで異存有無の確認としたのか・・。スマフォの会話に強引に台詞を付け足した。
「・・ああ、其れなら、私達意外にもう一方ご一緒するから・・ええ、そうしておいて下さい・・」
 話し終え、うつむき加減の頬にほんのり赤みを添えスマフォをバッグにしまおうとする・・。
「・・そういう事で・・宜しかったかしら?だって、私の事・・生態って言うのかしら・・ご存知の方がモデルにし易いのではと思いまして・・随分勝手だってお思い?あの・・ご都合・・?」
 既に口にした事を気にしているのだろうが・・はにかんだ様な仕種を付け足す・・。
 都合など何とでもなるが・・生態・・?絹江の首筋から・・手の甲の滑らかな白さが目に染みる。



 流石に女優だなと思う程、台詞が上手いのと・・相手に何も言わせないものを窺わせる・・のは、美しさが加勢をしているのだろう。
 マネージャーの女性に挨拶をし、居心地の良さそうなシートに腰を落とす。何回か来ているParisでは一番眺めが良いホテルのレストランだ。
 マネージャーは、Scheduleを確認してから、何か絹江に話し掛けている。どうやら、先程のbrand会社との契約と其の具体的な段取りの様・・に、帰国してからの予定なのだろう。
 康介が聞こえて来た言葉を復唱するように。
「・・太秦?って事は、東映の京都のstudio・・時代劇ですか・・」
 絹江の和服姿からそんなものも窺える。一度、出来るものであれば・・演技を見てみたいものだと思う。
 其の、思いが伝わったかのように、絹江から、モデルの私の姿・・是非、見に来てくださいねと言われる。
 康介は、芸能界や映像についてのイメージは、勝手な想像に過ぎなかったから、マネージャーも含めて、撮影に纏(まつ)わる事やら、人間模様など・・すっかり聞き役に回っていた。
 何時もよりお洒落な食事の時間は終了し、康介は自分のホテルに向かう事にした。
 マネージャーの話では、翌日はEiffelに立ち寄ってから空港に向かうという事だった。其れで、彼女にEiffel迄はお邪魔しても良いかと尋ねるまでも無く、絹江の口から・・一緒にと、マネージャーの顔に判でも押しつける様に勝手に決めたようだった。
 昼間は打ち合わせがあるそうで、Eiffelには、次第に空が薄紫色に代わり僅かに陽の名残が地平線に沈む時分に待ち合わせをして、向かう事になった。
 6号線のBir-Hkeim地上駅からセーヌ越しに凱旋門方面を眺めていたら、二人が姿を・・。
 帰国すれば、ああは言ってくれたが、まさか撮影所まで押し掛ける訳にはいかないから此れで絹江に会うのは最後になるのかなと思う。
 Eiffelから眼下の街景色をカメラで撮影をすると、日によっては不思議な光が空に浮かんでいる事がある。何かの反射なのかも知れないが・・。
 最上階まで上がって、如何にもParisらしい街の灯りを満喫する。康介は何度か来ているが、有名な女優である絹江も同じ様に何度となく来ているのだろう。
 三人並んだ写真を記念にと・・、Frenchの観光客に頼んで写して貰った。夜景もそうだが、此処でフラッシュを焚くと却って写真は台無しになる事を知っている人の様で、笑顔と引き換えにスマフォを受け取る。
 街の灯りが思い思いに煌めいている中で、青いサーチライトの光の帯が夜空を照らし出すのが一つのアクセントになっている。
 夜景は美しかった。此れでお別れだと思ったが駅で挨拶をと・・。そんな自分の考えを打ち消す様に絹江は康介の目を見ると、一瞬、涼し気な風が吹いてきたと感じられる様な、澄んだ声で・・。
「撮影・・見に来てくれますよね・・」
 マネージャーに確認をしてから、絹江は康介にスマフォのカレンダーで凡その太秦の撮影予定日を教えてくれた。変更になれば連絡すると言う。早速、自分のカレンダーに記録しておいた。
「・・そこまでしてくれるのは有難いけれど・・迷惑じゃないかい?ねえ君・・?」マネージャーに聞こえる様に言ったのだが、マネージャーは黙っていた。
 その代わり・・絹江が。
「・・私の生態を知って貰うには・・是非ご足労願って・・私の自慢にはならない演技でも少しでも参考になればと・・」
 康介は、絹江の女優姿を目に浮かべ・・楽しみだな・・と思った。

 
 
 銀座での絹江は、Parisの時と少しも変わらないような表情で、その後忙しいけれど、物語の事も気にしていると。
 売れっ子の美人女優が、たかが小説位を・・どうして覚えているのかと思う。
 其れで、改めて太秦での情景が実感として・・。



 太秦の撮影日については、前以て連絡があり、許可がいるのでマネージャーを指定の場所に行かせるからと言われた。
 京都は時間にもよるが、渋滞する車よりは電車の方が早く着く事もある。
 幾つかの行き方があるが、京都駅から、JR嵯峨野線園部・亀岡方面行きに乗り、
太秦駅で下車した。
 康介は、其の時、亡き母と一緒に来た事を思い出し懐かしく感じた。あの時には雨天だったが、撮影は天候にもよるから、前日の夕方でないとはっきりは分からない。
 前日からの天候は良好との予報どおり、当日の予定に変更はなく胸が高鳴るような気がした。
 マネージャーと落ち合い、初めて特別に映画の撮影を見る事になった。若い頃は、TVスタジオや、他の会社の撮影は見た事があったが・・単なる見学人だっただけだけで、今回とは気分が違う。
 絹江の姿は以前見た時と、衣装は異なっても変わりが無いような気がした。
 其れは、絹江の美しさ故に・・やはり、本物は衣装など選ばないのだろうと思う。
 時代劇での主役の様で、マネージャーから簡単な役どころの様なものの説明を受けた。
 流石に、当代きっての女優らしく素晴らしい演技力だと思い、自分が書いているものとは・・どうかな?などと思う。
 撮影は滞りなく終了した。康介は絹江やマネージャーは忙しいだろうと思い、簡単な礼を済ませると、一人で京都駅まで向かった。
 物語の事は又、連絡するが、大したものでは無いから、見なくても良いと念を押した。
 物語については、絹江が、一体、何を期待しているのかは分からない。
 此れが漱石であれば、また違うだろうが・・と思う。
 マネージャーが教えてくれた電話番号と引き換えに自分の番号も教えておいた。



 役者もいろいろな人がいるだろうし、芸能界というものは康介の知らぬところだと思ったが、以前の事は・・。其れから、折があればその手の雑誌などを漁(あさ)り見しては、何か役者や芸能界の事について、参考になるものは無いかとあれこれと手を尽くした。
 やはり、絹江ほどの美女となれば其れなりに話の中でも輝かしてやらなければと思った。
 しかし、其れと物語の出来具合とはまた別だが。


 スマフォが振動した。
 絹江からだった。
 何か、何時もと雰囲気が違うような気もしたが、物語はどう・・?と言うから、まだ、もう少しで終えると思うが・・とだけ言っておいた。
 また、夕食を一緒にとらないかというから、忙しいのにいいのかいと言ったが・・マネージャーも予定は掴んでいるだろうから・・と。
 何か、あったのかなと思ったが、以前と特には変わりは無いようで、大体が、最初に出会った時から、縁のようなものを感じた。
 只、芸能界など知らないから、嫌な事などあったら可哀想だなと思う。


 待ち合わせ場所は、ネットなどで都内のホテルを物色して見たが結局、新宿の高層ホテルにしようと思う。
 他にもあるからと、絹江には何処が良いかと確認をした。
 42階と53階にレストランはあるが、ピアノだけで静かな下の階にした。
 其れに、都内のタワーなどの眺めは此方の方が向きがピッタリ南になっている。
 此処の場合は、Elevatorを一度乗り換えないければならない、建物がおかしな形をしているから。



 何時もと変わらぬ和服姿の美しい絹江と、窓際のテーブルを挟んで・・オーダーをする。
 芸能人の好みは分からないから、勝手に決めて貰った。
 康介は、絹江の好きなように振る舞って貰うのが最高だと思っているから、何でも好きなようにとだけ言う。
 絹江のFloorの薄灯かりで見る姿態は、また、一段と美しさを増している。
 其れに加え、絹江が品(しな)を作る様(さま)は言い表しようが無い・・其れでいて、上(じょう)を付け忘れないのは・・流石に一流・・眞白きうなじから手の甲迄・・透けるように・・自分だけがそんな事を感じられるとしたら・・勿体ないような気もするが・・。
 

 
 酔いも程良く回り、二人の会話もパリでの出来事などに花が咲いた。
 芸能界の事には疎いからと言ったら、そんな事どうでもいいわ・・。
 物語は、出来上がりそう・・?と言うから・・。
「・・うん、まだ・・かな・・君が主役である事は間違い無いのだけれど・・」
 絹江は、安心した様に微笑むと・・。
「・・私の生態・・まだ・・分からないんじゃない・・?」
 康介は、自分には・・よく分からない・・。
「・・うん?生態って・・そう言わずとも・・?」



 絹代は、更に微笑みに・・尚もくだけた柔らかさのようなものを付け足す。
 美しい瞳が・・口を開く・・。
「・・ねえ、此処、泊っていこう・・」
 マネージャーはと聞けば、オフだから・・と。
 康介は、絹代が・・いや、やはり、何時もの絹代だ・・。
「・・泊まるのは構わないが・・君は一流の女優なんだし・・?」
 絹江は康介の瞳に、上品な自分の瞳が映っているのかと確認するように・・。
「・・でも、物語には・・私の生態が必要なのでは・・?」



 其の晩は二人で泊まる事になった。
 考えてみれば・・出会った時から・・こういう事も・・しかし・・やはり生態など知らぬが花に決まっている・・。
 其処で・・当然ながらbedは二つ・・尽きぬ夜話で充分時間を大切に出来た・・。

 
 其れから、スマフォが振動する事が多くなった。


 物語は・・まだ・・書きあがってはいない・・。
 余りにも美し過ぎる絹江・・分からないままであればこそ大女優・・。
 それであれば・・これ以上・・永遠に・・物語は書きあげないに越したことは無い・・。
 

 
 絹江の事を・・何もかも知り尽くすなど・・。月の柔らかな光や星の煌めきも美しいが、絹江もひけはとらないだろう。美しいものの生態など知らないほうが・・。・・生態と言う言葉は・・絹江にはあたらない・・素晴らしい女優・・そう言っておいてあげたい・。・・心の中だけでも窺えただけで充分過ぎる・・あの時・・きっと、彼女も其の事に気が付いただろう。
女性というものが・・何であるかは知らぬままで良し。
 まあ、本当に女性の気持ちを分かってあげられる・・という事が出来るなど・・どうやら、自分には永遠に無理というもののようだ・・
 
 

vagyis gyönyörű színésznő 邦題 美しき女優という嵯峨

其れが、女優で会ったのだが・・。
美しさは無にものにも引けを取らない。
勿論、野の花でも無ければ、花瓶の花など相応しくは無い。

vagyis gyönyörű színésznő 邦題 美しき女優という嵯峨

主人公は、美しいもの故に其れからある種の芸術性を感じ取っている。 物語に必要なのは・・何であろうか?筋書きだけでは味が無い事など承知の上。 美しいものを摘み取るのは容易なのかも知れない。 更に大事な事は、如何にして美しさを芸術として表現できるのかだが・・。 人には、分というものがあり・・主人公には到底・・その様なものが無い・・情けも無い至上主義者なのだろうか?・・であっても聊か仕方ないとなれば、地にひれ伏すを望むしかあらず・・。

  • 小説
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-12-02

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