Maestro 邦題 合鍵
ショートな二人。
六本木のアマンドの前を通り何時ものディスコに入る。友人と一緒に来ていたのは学生時代の事。社会人になって当時に比べれば回数は遥かに減ったが、逆に女性との交際の場として未だに来る事はある。
社の女性などで、飲食後に運動がてらに来る事もある。中にはその場で出会った女性とペアーになって踊る事もある。
社では、エリートコース候補生として見られているから、其れで近付く女性は少なくない。同期入社の女性や非正規雇用の女性など其の数は十名以上に上る。
社内の同じ大学を出ている先輩達には、最初はあまり評判は良くなかった。パフォーマンスが多過ぎると言われるのだが、誘われて、好みであれば気軽に飲みに行ったりするからだろう。
其れも、次第に先輩達が三木雄二の性格を知るに連れ、誤解は解けていった。そんな先輩の一人である人事課の玉木なども、随分真面目であったから、社内で、遊び人タイプの人間や上司でも権力をかさに着る役付きなどを嫌っていたのだが、何時の間にか雄二の良き飲み友達になっていた。
二人で飲む時には、玉木は税理士を目指して勉強していたから、何時かはこんな会社を辞めて税理士になるんだと言うのが口癖だった。
大学のレベルからいって、会計士だろうと税理士だろうと容易に取得できる資格だと言える。玉木にとって勉強の合間に同じレベルの後輩と飲む事は丁度良い息抜きとなった様だった。
玉木は家が小田原だったから、雄二のアパートの近くの馴染みの店を何軒も梯子をしてはアパートに泊まっていく事が多かった。
そんな時には好みの女性の話をする事もある。玉木の好きな女性は同じ人事課の高卒の女性で、顔は綺麗な方だったが、玉木より少し身長が高いような気がした。
結果的には玉木は其の女性と結婚をし税理士をやっている。雄二も、それ以前に転職をして法律事務所に勤めている。
雄二は、大学の時代に既に芸能界に就職が決まっている女性とも付き合いがあったから、芸能界という世界は知らないが、其の彼女の関係で社会人になってからも、女優との交際も少なくなかった。
若い時には二枚目であろうが三枚目であろうが、皆、モテるものだと思っていた。雄二の飾らないところや優しさが気に入られていたのかも知れないが、収入も多くは無いだけに・・?
不思議な事に人気のあるアイドルタイプではなく女優から誘われる事が多い。対照的なのはmodelで、ファッション雑誌の表紙に載るようなタイプは鼻が高いから付き合った事は無い。
雄二は女優との話が楽しいと思う。其れは、子供の頃から読書量は半端では無かったから、物語を話す事が多く、女優達としても雄二のそんなところにも好感を感じたのかも知れない。
地下鉄に間に合うように事務所を出て歩いていると、スマフォが振動した。画面に表示されているのは、吉川麗子。
女優だ。メールには、話がしたくなったから会えないかとの事。彼女は学生時代の友人の仲間で付き合ってから彼是五年程になる。
芸能活動についての話はあまりしないし、雄二はTVを見ないから彼女の芸能人としての姿は知らない。
其の晩は夕食を食べてから大分時間が経っていたから、軽く食事をする事にした。地下鉄に飛び乗ると乗り入れている私鉄線駅まで。
新宿から来た彼女と、乗換駅で待ち合わせをしていた。其処からはタクシーでマンションの手前まで向かう。
コンビニで好きなものを購入してからマンションに。テーブルに冷蔵庫から取り出したビールやワインと一緒に買って来たものを並べて。
麗子の話とは・・いきなりだった。
番組で知り合った男優から何回か食事を誘われるうちに、交際を迫られるようになったと言う。
麗子がどうして其の事をわざわざ自分に報告するのか、その趣旨は自分と別れたいのかという事くらいしか考えられない。
収録はまだ続くし悪い人では無いから付き合う事は聊かでもないが、其処で、雄二に話をしておこうと思ったと言う。
其の話を聞きながら、雄二が言える事は何も無い。子供では無いのだから其れは自分が決める事だとしか言いようがない。
其の通りに話す。麗子は雄二の目を見ながら。
「じゃあ、本当にいいの・・?」
雄二は其の話を聞いて、食べ物が喉に通るのを嫌がっている様に食欲がなくなった。
「・・ああ、僕は君が決めたのなら、仕方が無いとしか・・別れる事に依存は無いよ」
其の晩は、其の話に幾らか付け加える事はあっただけで徒に時間が経っていくだけだった。
雄二は、麗子に、元気で、とだけ・・。
飲んでいたから、タクシーを呼び麗子を乗せた。
タクシーの排気ガスの匂いが鼻を突くような気がした。
其れから、麗子の事は気にはなったが、気を紛らわせるだけの多忙な毎日が続いた。
今までに、こういう事は殆ど無かった。失恋という事だ。
過去の女性との出来事がいろいろ浮かんでは消えた。
裁判所からの帰りに、カフェに寄って息抜きをした。
物憂げにスマフォを、何をするでも無しに操作していた。
連絡先に気が付いた。
今までに、親しくしてきた人達。
其処で、思った。
女性の名が何人か・・今でも交際が途切れている訳では無い。
麗子と・・ほぼ同様に連絡を取っている。
只、同じ程度の交際では無いのは当然だ。
連絡をしてみようと思った。
連絡をしてみたら・・生憎・・留守番電話になっている。
他の女性に連絡をしてみた。
天野久子。
此方が名を言うまでも無く。
「もしもし、雄二さん。久し振り・・またお会いしません・・?」
「・・ああ、そう思って・・電話してみたんだ・・其れで・・」
雄二の心の中で揺れている・・ひょっとして二又?
「・・しかし、選択に問題は無いだろう・・断って来たようなものなのだから・・」
雄二は久子には。
「・・ちょっと、今、急用が入ってしまったから・・御免・・改めて連絡するから・・」
他にも連絡先はある。
急がなくたって・・。
店を出た。
オレンジ色の夕陽が傾いてきている。
事務所に鍵を掛け・・帰宅の途に着いた。
マンションに着き、ポストの中を見廻してからElevatorに。
ポケットから鍵を出して、ドアを開けようとした。
電子rockがされている・・筈。
ドアは何もしなくてもすんなり開いた。
ひょっとして朝、鍵を掛け忘れたのかと思った。
忙しかったから、其れに・・。
「お帰り・・」
麗子の声が聞こえた。
立ったままの麗子が、項垂れているような気がした。
「・・どうかしたの?」
「・・合鍵・・」
「わざわざ、返しに来なくても、送ってくれれば良かったのに」
「・・返しに来たんじゃないって言ったら怒る?」
「・・どうして?何か・・?」
夕食の用意は出来ていた。
スーパーで買ってきたようだ。
テーブルに並んでいるビールや料理。
雄二の好みを知っているから・・でもワインは新しいものだった。
以前と同じように二人はテーブルを挟んで座ると・・先ずはビールから。
ワイングラス・・は、赤いワインが揺れるように・・重ねる。
雄二は。
「・・君の料理は・・相変わらず美味しいね」
雄二は、何も言うつもりは無い。
只、久子には予定を変更して貰わなければ・・と思う。
翌日は土曜で休みだ。
久し振りに、仕事の事は忘れて、のんびりしようと思った。
麗子は雄二の瞳に間違いなく自分が映っているのか・・と。
「・・其れは、そうだ、今に始まった事じゃないんだから・・」
合鍵は、思い掛けないところで役に立つ事がある。無くした時。いや、其ればかりでは無い。信頼する女性に渡したのだから・・愛鍵。
「by europe123」」
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Maestro 邦題 合鍵
何でも無い筋書きで、よくある事。