夜景7

夜景7

実は、優子だけの夢の7章というものがあるのだが、其れを載せていない。其処で、木彫りの人形が突然登場するのはそんな訳。、

 一男は優子の希望通り、博物館や美術館が集中している上野に行く事にした。
 上野公園口で降りて、国立博物館に向かう。
 此処は、何階にも分かれて、宇宙・古代・その他様々な展示物を見られる。
 この一棟をゆっくり見れば、半日掛かる。大人用の造りにもなっているから、優子も一男も存分に楽しめる。
 優子は、何となく中世や古代の遺物などにも興味があったようだ。
 階段を上がるごとに何かが見れると考えるだけでも、楽しいのに、実際に珍しい美しい物を見る事が出来るのだから素晴らしい。
 日本と東洋の文化財(美術品、考古遺物など)の収集保管、展示公開、調査研究、普及などを目的として独立行政法人国立文化財機構が運営する博物館だ。
 本館、表慶館、 東洋館、平成館、法隆寺宝物館の5つの展示館と資料館その他の施設からなる。
 収蔵品の総数は117,460件。これとは別に、国宝55件、重要文化財260件を含む総数3,109件の寄託品を収蔵している。総合文化展(平常展)に展示している文化財の件数は約3,000件で、2017年度の展示替え件数は6,616件、展示総件数は10,223件。同年度の来館者数は約257万人で、平常展来場者は約103万人という国が誇れる大博物館と言える。
 本館では、第1室~第10室(2階) - 全体を「日本美術の流れ」と題し、「仏教の美術」「茶の美術」「武士の装い」「能と歌舞伎」などの小テーマを付した展示を行っている。
 東洋館は、中国、朝鮮半島をはじめ、東南アジア、インド、エジプトなどの美術品を展示していて、通称亜細亜館と言われている。
 他にも表慶館・法隆寺宝物館・平成館の他に、庭園(春・秋などに期日を限って公開される)。
 コレクションとして、東京国立博物館の収蔵品(館の用語では「列品」という)は11万件を超える。
 国宝も幾つもある。
 

 一男と優子は、勿論その全部では無いが、自分が気に入った物をお互いに感想を述べながら見て廻った。
 最後に、ミュージアムショップという売店で、いろいろなお土産が買えるから、優子と一男も此処で、絵ハガキなどを買った。
 ゆっくり見て昼時になったので、二人は文化会館のレストランに入った。
 メニューを見て、二人共同じ物をオーダーした。
 その時、優子は、一瞬思った。「運命の巡り合わせって本当にあるのかも」
 お腹が一杯になったところで、西洋美術館から廻る。
 表に展示してあるロダンの彫刻を見ながら、館内の常設展と特別展をゆっくりと見て廻る。
「考える人」や、ピカソ、モネを含め、14世紀から20世紀の絵画など様々な作品が見れる。
 優子は一つの絵画を指差して、「私、このクロード・モネの睡蓮が好きなんだ。他に、ピカソ・ミロ・ゴーギャンも有名だね」。
 優子が喜べば一男も嬉しくなる。また、好みも同じだから。
 西洋美術館本館は最近世界遺産に登録された。
 まあ、それだけの価値が認められたのだろう。
 常設展は何時来ても見れるが、特別展は期間内しか見れないから、見たいものが催されているかどうかは、タイミングにもよる。
 上野公園には、他にも上野の森美術館や都美術館などがある。
 先ずは、公園の中では比較的新しい、都美術館に行く事にした。
 ムンク展が開かれていた。
 一男が館内を歩いて、「これが有名な「叫び」か、でも、他の作品も色彩が豊かだな。やはり、一流の画家と言えるものが感じられる」。
 優子も一男の腕を掴みながら、一枚一枚の絵を堪能している。
 「生誕100年記念 ダリ回顧展」も見る事が出来た。
 一男はシュールの方は、多分に興味を示した。
 優子も、「図鑑で見るのとは違って、意外と違和感を感じないね」。
 一時間もして、二人は上野の森美術館を後にして、都美術館へと歩いて行く。
 丁度、都美術館では日展が開催されていた。
 一男も優子も、上野公園に頻繁に来るわけでは無いし、今、何処で何が催されているかなど意識した事は無かったから、どういう訳か、運良くいろいろなものを見られて幸せだと思った。
 日展は間口が広く、一男の父・悦男の作品も出品された事がある。
 日本全国から集まって来た作品だけに、非常に数が多い中で、個性的な作風が見られる。
 二人は、ゆっくりと見て廻った。一男が、「僕はあれが気に入った、此れは変っているね」などと自分の意見を述べると、優子も、同じ様に感じるから不思議な感じがした。
 時間は有るし、急かされずに作品を味わう事が出来る。
 一休みして、館内の喫茶店でコーヒーを飲む。
 優子が、コーヒーを味わいながら、「何か、今日のこれ、とても美味しい」。
 一男が、「偶にこういった所を廻ったから、格別に感じるんじゃないかな。まあ、二人でいれば何でも美味しいよ」。
 二人で、お互いに気に入った作品について話す。
 上野には、まだ見る所があるが、二人は、今日はこのあたりで帰ろうと思った。
 ゆっくり見て廻っている内に、上野の夕景色が近付いて来た。
 一男が時計を見ながら、優子に「この後何処で夕食と行こうか?」。
 優子は、「彼方此方行ったから、今日は新宿でいいんじゃないかな」。
 二人は、上野から新宿に回り、Pホテルに向かう。
 二十五階に着いた頃には、総ガラス張りの向こう側は、墨を流した様な夜空に、街の灯りが散りばめられている。
 ウエイータが持って来たナプキンをかけ、メニューを見ながらオーダーする。
 一男は何時ものビールから、優子はカクテル、それに食べ物を。
 一男が、窓の外を見ながら、優子に、「今日は、何の話をしようか?」。
 優子が頷いて、「森鴎外は、暗い作品が多い様な気がするしな。高瀬舟・雁・舞姫など」
 一男が話し始める。「主人公太田豊太郎は法学部出身の秀才。政府から選ばれてドイツに留学まではいいんだが、不幸な踊り子エリスに出会って恋仲になるのはいいんだけれどね。ショーペンハウエルを右にし、シラーを左にして終日机に向かっていた読書の窓に、エリスは一輪の花を咲かせた。
 そのエリスを捨てるように言われ、エリスは既に妊娠して子供が産まれそうになっている。豊太郎の愛を信じている可憐な女性を豊太郎は無残にも捨てる。裏切られたエリスは発狂してしまう。
 用意しておいたオムツを見て泣くだけの女性になってしまう。豊太郎はエリスの生ける屍を残して日本に帰る船に乗る。
 優子が寂しそうな顔をして、「悲しいわね・・冷酷だわ。」
 一男が気分を変えるように、「太宰治は暗いものもあるが、走れメロスのような明るいものもある。此れなんかは教科書にも載っているくらいだからね。また、女生徒なんかも評価する人はいるよね」。
 優子が簡単に粗筋を話す。「思春期にさしかかった少女が、毎日をもの思いにふけりながら過ごす。その空想のうちで、自分の中の理想を膨らませ、現実で思うようにいかないことなどを思い思いに取り上げて、「どうすれば人は幸福になれるか?」などをたとえば考える。そのうち、段々日常的な物ごとに思いが馳せていき、登下校中で見る光景や情景、家庭で見える普通の景色(これまで見てきたもの)についていろいろ考え始める。自分が今生きていることの不思議を思いながら、将来設計するにおいて、「人が生きている意味」や「本来どのような生活の仕方が、人の理想的なあり方なのか?」などについて考えていき、やや哲学的な思想に踏み込んでいく。
そしてその思春期が「誰にでも一瞬で過ぎる」という結末をもってストーリーは終わる。まあ、思春期の女性の気持ちをあらわしたものと言うと、略し過ぎかも知れないけれど。太宰は、女性の心理を描くのが上手いと言う人もいるわね」
 一男が太宰について、「芥川龍之介に影響されていたようだね。龍之介の死が彼を変えてしまったようだとも言われている。最後に、川端康成の雪国の冒頭とラストから、文章の綺麗さを味わって終わりにしよう。『国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。夜の底が白くなった。信号所に汽車が止まった』ラストは『窓で区切られた灰色の空から大きい牡丹雪がほうっとこちらへ浮び流れて来る。なんだか静かな嘘のようだった』確かに、綺麗な文章だね」。


 一男が優子の目を見て、「もうすぐに卒業だね」と言う。
 優子が、「本当ね。早かった様な、でも、私は楽しい学生生活だったな。あなたがいて・・」
 一男が静かに、「僕はそれ以上だった。君がいて・・」 

 夕食を済ませた二人は、ホテルを出、二人並んで駅に向かって歩いて行く。
 二人が地下道に近付いた時、突然、竜巻が。
 一男は気付かなかったよう、というか見えなかったのだろう。
 優子が手に持っていたコートなどが入っていた包みが、一直線に空高く舞い上がって行く。
 コートのポケットに入っていた「不思議な木彫りの人形ポソタが、突然口を開いた」様な気がした。
 優子は、まさか木彫りの人形が口を利くとはと思わないから、見間違い、聞き間違いだろうと思った。
 更に上昇して行く人形はコートに振り回されながらも、途切れ途切れに、「・・・と一男は全く同じ人間だからね」と・・言ったような気がしたが、遥か上空で点となり、見えなくなった。
 一男には、何も見えなかったし、聞こえなかった。
 優子も、単に竜巻で袋が無くなってしまっただけの事か、夢でも見たのかと思った。
 

 一男が優子に、「前から話してあった事だけれど、期末試験後、僕の実家の静岡に来て、両親に会って貰いたいんだ。その後、観光名所として、東海大学海洋科学博物館・日本平動物園・徳川家康を祀ってある久能山東照宮・浅間神社、いろいろ廻ればいいし、食べる物も、お茶屋蜜柑以外にもいろいろあるから、楽しみにしてくれていいと思う」と言うと、優子は、「いいわね。ジャーメインも誘ってみようかな。いいでしょ?」
 一男は頷くと、「これで、決まりだ。美しい夜景も見れるよ」。
 優子は、「日本平って言ってたね。楽しみだな」。
 二人は、駅から品川経由で、其々の家へと向かった。
 大森のホームで、一男が大きく手を振り、車内から優子も手を振る。
 愛想の無い電車は、尾灯さえも暗く感じる。
 まだ明るい街の灯りに、あっという間に溶け込んで行った。

夜景7

次回は静岡行き。
元の7章で、優子は一男の夢を見るのだが、其れは省略している。書き始めた当初はendingを書いていなく、後から付け足したためそんな事になってしまった。

夜景7

上野での二人。 次回は静岡行き。 途中でお話を変えたので・・。

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更新日
登録日
2022-12-01

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