合間



有難うしか言えない
機械みたいに、
仕掛けみたいに。



笑顔という面(おもて)で
いつも先を行き
振り返る、細い手を握り
優しく諭す
次の、後悔の片足から
次の足の、蜃気楼な希望まで
逃げないように。
あなたのそばを、守れるように。



急に降り出した、大きな雨粒の、
水滴に錆びて、ぎこちなく
本音みたいな顔をして
手を伸ばして
空振り。
そんなことに濡れて、泣き、
そんなことで溺れて、眠り、
忘れたことを重ね重ね
そこばかりを見つめて
きっと、
雨脚に笑われる。



だから
ひっくり返った傘の、
綺麗な色と形。
そうじゃなかったのが不思議なくらいって、
日付と一緒に、
動作不良と記した、
買ったばかりの扇風機では
力が弱くて、足りない。
ザーザーとノイズが混じる
箱型のラジオと、
不揃いなボタン群。
押せば返ってくる抵抗感が
いつもそれの代わり。
両方の膝を曲げてから、戻る、
この一連の流れに
ガラスのコップと、それを持ち出した時の曇り空。
命のように注ぐ、大切な
音。



喩えとして割れた蛍光灯の破片を拾い、捨て、
かちゃかちゃと鳴らし
あなたの手を切ることがないように、
きつく、
何度でも、
真っ白で透明な袋の口は縛られる。



それから、
蛇口から流れ出る
真っ直ぐな水の強さで注ぐ、
このお皿の上。
素敵なあなたにきっと似合うって、
緑色の、果物みたいに。
外でしか降らないから眺められるって、
真っ暗になっても怖くないって、
他の誰でもない
あなたが言ったから信じられた。



わたしが彩る爪先の
たった五本。
その時間。



片足を通した靴下の
滑り落ちそうなくらいに幸せな、
闘い。
あの日、確かに、料理が苦手だとは言わなかった。
足りない数の卵とメレンゲ。
克服されるべきはわたしの無神経で、あなたの反射神経は特権だった。
無遠慮な日差しが床を占める一日。
裸足で遠慮なく踏み殺した影たち。
強い言葉も、
弱いかたちも、
ひと口噛めば甘くて、
目を瞑れば香ばしくて、
笑顔、
笑顔。
本当に、ありがとうしか言えなくて、
全てが嘘みたいに映る、そういう記録に
この両方の手は収まった。



「ふとしたことで倒れた写真立ての中のあなたと、いつかのわたしがどちらかの意思で救われて、どちらかの意思で捨てられる。」



愛おしそうに動かされる、あなたの指とゼンマイを眺めて、空のどこかに消えたわたしのあくび。寝起きと共に花は綺麗に咲いていた。ひらひらと、カーテンは動かされていた。機械的な記述、そう、今日もまた晴天と相成りました。



愛の証。
夢みたいな話。
わたしたちに連れ去られた、最後の運命。
それは、
だから、
ポタポタとこぼれ落ち、
次第に
地面に近付いて、
お尻を乗せた段ボールと一緒にふにゃけて、弱っていく。
きっと
買ったばかりの扇風機では力が弱くて、足りないから。
あるいは、



あるいは、
風船みたいに見つけられて
取って、取ってとせがまれて、
そのカラフルな色と
力に弱そうな表面に
頬を添えられ、笑顔を見せられて
大切にされる。
短い間でも過ごせる、小さな思い出としてのタグに覚える不満などなく、
意図しないことでパンっ!と割れてしまっても
または、次第にそのかたちを失うとしても



風が、
波立てるものが



合間に流れる。
耳慣れないメロディに、疑問符を浮かべた頭をすっかり傾けて、発売されたばかりの新譜を難しそうに見つめる。合うか合わないかは大事な好み、話し合うのは、またあの頃の二人のことだから。
この間に生まれた隔たりを、



「この手から滑り落ちて、
 地面にぶつかり、
 壊れたカメラだったのかもしれないのだから」



優しく諭す。諭される。
機械みたいに、
仕掛けみたいに。



水を注ぐのは日課、
永遠と謎の間で散っていた火花は消える。
焦げた匂いには目を閉じる。
それで、
思い出すのは瞼の裏。
わたしという思い出の後ろ。
誰にも言えないことは、嘘みたいに綺麗。
誰にも知られなかったことは、だからやっぱり悲しい。
だからわたしは、それしか言えない。
全てを感謝に捧げるしかない。
強迫めいたこの思い、
けれど



「ここだけは、守れるから」



どこまでも鳴る、
チャイムが鳴る。
花を咲かせて、心から唄って。

合間

合間

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-11-30

Copyrighted
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