地獄の男のデッサン

 わたしの好きな画家のひとりは、フランシス・ベイコン。ぐわと口ひらき叫ぶ青春映画のポスターから、するすると糸ひき陰惨奇怪なそれ等の絵画想起するほど。

 灰いろにやつれた かれが貌をみてくれ、悲惨と憂鬱に捩れ、
 ぞっと鮮烈な戦慄、神経奔る如く、皮膚突き破り、黝い血滲ませ、
 眸は罅割れ、かわいた音すら 立てぬ、白目には砂の轢き、
 鼻面、如何なる悪臭によってなら、ここまでひん曲がるのか、

 手足 手折られ乾き切った草のよう、欲望の火も、果たして
 ここまで徹ることはないのか、衣服は八つ裂き、泥まみれ、
 ああ 無惨きわまるのは口許だ、断末魔歌いつづけるような
 ひらっきぱなしの 歯の不揃いな、うらがえったケモノの叫び。

 さて そのかれが眸、ふしぎに沸き起こる涙あって、さながら
 澄んだ硝子音立てるようで、そうだ、かれが肉を剥ぎとってみよう、
 ああ 泉が、瑕を負う魂毀す泉の音楽が、天の光と呼応して!

 ぼくはしずかに肉体を綴じよう、すればかれが秘めた涙に
 手を合わせ、祈りもしよう。かれが どうか報われませんように、
 さればそれによって、かれがどこまでも報われますように、と。

地獄の男のデッサン

地獄の男のデッサン

  • 自由詩
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-11-30

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