ひとの記憶に残る死に方
[ 400字小説 / 01 ]
とある男が自殺しようとまで思い詰め、ついに遂行することにした。この男、承認欲求が強く、死んだ後も記憶に残る死に方をしようと考えている。
だとしたら、飛び降り自殺は却下だ。あまりにも有り触れていて知人の記憶にも残りそうもない。
入水自殺はどうか。海まで流れてしまうとそのまま行方不明になり、人の記憶に残るどころではない。一番手堅いものは駅から走行中の列車に飛び込むことだが、これは遺して行く家族を思うと忍びない。
そこで、男は今まで誰もしたことがない死に方を模索することにした。
つけっぱなしのテレビから『今日は何の日』と、耳慣れたフレーズが聞こえる。どうやら今日は豆腐の日らしい。
そうだ。豆腐の角に頭をぶつけて死ぬのはどうか。これで死んだ人間はいないのだし、この方法で死ねば間違いなく人々の記憶に残る。
そして男は地面に置いた豆腐を目掛け、マンションの屋上から飛び降りた。
ひとの記憶に残る死に方
2022/10/02
【備考】
こちらは上限400字のショートショート投稿サイト『ショートショートガーデン』に『野辺りな』名義で投稿したものです。豆腐の日に豆腐をお題に書き下ろしました。個人的にはブラックコメディのつもりです。