百合
法律事務所に新しく入って来た若い女性。
信三の法律事務所に新しく女性の事務員が入って来た。
年も遥かに若い片野百合は器量が良く、何故か信三は仕事の教え甲斐を感じた。
信三は毎日一緒に仕事をやっていくうちに、百合の事が気に入った・・というか、おかしな感情が頭を擡げてくる様な気がした。
実際、百合は性格も素直で、仕事を覚えるのも早かった。
仕事が終わってから、信三が百合を誘って夕食を食べ酒を飲む事が多くなった。
歳は両手程違う。
二人で仕事の話は抜きで、いろんな話をした。
そんな中で、百合が信三に、
「百合の花って好きですか?」
「そりゃあ、君の名前と同じ綺麗な花だと思うけど、百合にもいろんな色があるからな」
百合はスマホで百合の花と検索しながら画面を見せた。
「こんなにいろいろの花があるんですよ。どの花が好きですか?」
「う~ん、君の様な清楚な白い大輪、此のホワイトリリーなんかいいね!」
「・・清楚な・・ですか・・」
百合は歳の差をあまり意識してないようで、所帯持ちの信三の事を気に入って・・、いや、それ以上に・・?
信三も同様の気持ちだったが。
酔いが回った百合が、
「私の事・・どう思います?」
と聞いた時には、何と言って良いか言葉に詰まった。
其れからも何回か同じ様な機会があったが、或る日、信三はカウンター席の横に座っている百合に、雰囲気を壊さない様にと考慮しながらも話してみた。
「君、綺麗だし、若いんだから、当然、付き合っている彼氏とか・・?」
「全くいない訳では・・でも、此の人ならという・・何故か?」
「そう・・まだ君が出会いが足りないのかも知れないな。もう少しいろんな人に会ってみれば。良かったら、僕の後輩で独身者等大勢いるから、会ってみないか」
暫く考えていた百合がグッとグラスのワインを飲んで言った。
「考えてみます」
信三は、其の時、言葉にならない言葉が存在している様な気がした。
百合がトイレに立った時、今度は信三がグラスのワインをグッと飲んで呟いた。
「俺だって、人間だからな。美しいとか・・いや、可愛いなって思う事だってあるよ」
暫く経った頃、偶然だったが、信三が何人かの後輩にあった事があった。
その内の、百合にお似合いかと思えた二枚目の後輩に話し掛けてみた。
百合の事は何も言わなかったが、
「偶には、事務所に遊びに来いよ」といって見たら、
「そうですね。先輩の所も暫くご無沙汰しているし、遊びに行ってもいいですか?」。
短い期間だったが、百合の結婚式の日取りが決まった。
信三は来賓として会場にいる。
新郎新婦の入場が始まった。
信三は、「百合は・・どうだったんだろう・・」と呟いた。
此の式では引き出物は宅配で送るらしい。
テーブルにはお届け日が記載されたカードが置かれている。
司会者から、「引き出物はおふたりからのお心遣いで後日ご自宅へ配送させていただくかたちとなりました」と一言アナウンスもあった。
信三が仕事を終えて家に帰って来ると、引き出物が届いていた。
引き出物の大きな袋の中から、「白い大輪、ホワイトリリー」が首を傾げる様に信三を見ている。
おかしなことに、信三は其の花を何時まで見ていても飽きなかった。
「そんなに僕を見ないでくれよ、・・完全敗訴・・・」
ベランダの外から冴さえざえとした星が澄んだ空にあらわれて来た。
純白のドレスが白すぎる肌に映えていた事を思い出した。
百合
生き生きとした女性は如何にも花のようだ。