Last scene
映画を見たCoupleからの目線でストーリーが展開していく。
Coupleの女性が拾ったメモ紙の男女のイニシャルの謎・・。
京野英雄と安井詩織は、今、映画を見終わったところだ。
二人はもう三年も付き合っているが、映画を見に行く事は殆ど無い。
レンタルDVD屋で簡単に借りる事が出来るからだ。
このレンタル屋の料金も最近値上げされて、前よりは借りる事が少なくなった。
今見た映画は、「永遠の恋」という邦画の時代恋愛物だった。
詩織が劇場を出て行く人混みの中を歩きながら「まあまあ、面白かったね。主役が私の好きな人だったから、あなたを誘って見に来たんだけれどね。相手役が今一だったかな」と、パンフレットを見直すように眺めると、英雄が、「でもさ、ラストがもう少し面白かったらと思ったな。極ありふれた恋愛物という感じで終わったから、余韻が残らなかったな」。
詩織が頷きながら他の劇場の看板を見た。「そうかもね。レンタル屋のDVDだって、洋画なんて、新作なんかズラッと並べてあるけれど、此れは是非見たいなという物が無いものね。もう、或る程度パターンが決まってしまっていて、斬新なアイディアを思いつかないのかも知れないね。アクションものか、ちょっとしたミステリーとか、戦争ものなどが多いわね。邦画のコーナーは殆ど新作が無いしね。此処の建物だって幾つかの劇場が入ってるけれど、今日見たやつ以外は、皆、洋画のそのパターンだものね」
二人は一休みと、近くの喫茶店に入ってコーヒーを飲む事にした。
また先程の映画の話になった。
喫茶店にも、映画館から近いせいか、映画関係の雑誌が置いてある。
詩織がその一冊を手に取ろうとして、ページをパラパラと捲ったら、メモ紙の様なものがフロアに落ちた。
詩織がそのメモ紙をを拾い上げて読んでみた。「最近の君は冷たいな、別れるなんて言われたら、僕はショックだな。僕が主役、君は準主役なんだから。Hより、T様」
詩織が拾い上げたメモに書かれていた、文章を読み上げた。「何、此れ。さっきの映画の主役と同じイニシャルが書いてあるけれど、まさか本物が書いたんじゃ無いだろうな。だけど、宛名は、先程のTとなっているな。あの映画は、平山悟演ずる男がが自分に恋こがれている高田美智子演ずる女性と恋仲なんだが、周りからいろんな障害があって、別れざるを得なくなるところを、永遠の恋を確かめ合うという最後だね。」
英雄はメモを詩織から渡されて見ていた。「でもさあ、映画はお話だから、もし、此れが映画から飛び出した、俳優同士で交わされたものだとしても、おかしくは無いけれど、二人は芸能界でも、私的に仲が良いと噂のあるくらいだからね」
詩織は、店員には拾得物として渡さないで、バッグに入れて持って店を出た。
紙切れ一枚ぐらい持って行っても、犯罪にはならないだろうと、英雄も言うから。
有楽町から地下鉄に乗った。
電車の中で、詩織がドアの横のスペースに寄り掛かりながら英雄に、「ねえ、このメモどうしようか?まさか、誰のものかハッキリ分からないのに、誰にも渡しようが無いしね。仮に、本当に俳優同士のものだとしても、芸能人だから、事務所とか何とかややこしいしね。捨てちゃおうか?でも、何か気になるな、暫く持っているかな」
英雄が笑いながら言った。「そんな物、何だか分かった物じゃ無いし、どちらだっていいじゃない、気になるなら持っていれば、映画を見たという記念にでも」
それから、大分してから、二人が横浜で待ち合わせをした時だった。
海に近い公園で、丁度ロケをやっているのに出くわした。
二人は、海を眺めてベンチに座っていた。
人垣が出来ていて、歓声が聞こえてくる。
二人は興味は無かったが、人垣の向こうに船がとまっていて、人垣は港の方まで拡がっている。
拡がっている人垣の間から、ロケの光景が見えた。
詩織が英雄の顔を見て驚いた様に言った。「あれ、あの二人じゃない。次の作品でも取っているのかな?ちょっと見に行ってみようか?」
やはり、同じ二人だった。
ファンらしき女性に聞いてみた。「これ、何のロケですか?」
「永遠の恋」の次作らしい。
港を出て行く船に東野が乗ろうとしているのを、高田が見送りながら泣いているというシーンだ。
前作を見ている二人には、此れがどんなシーンなのかが大体分かるような気がした。
大抵は、二番煎じだから、似た様なストーリーに新たに話を付け足した感じでは無いかと思われた。
前回同様、愛し合っている二人が事情があって、一旦別れるという事では無いかと思った。
何回か、やり直しがあったが、収録は順調のようであった。
そろそろ終わりかなと思われた時、予想外の事が起きた。
人垣の中からいきなり飛び出した男性のファンが近付くと、果物ナイフの様な物で東野を差そうとした。
東野は剣道をやっているようで、何度か交わして犯人と争っている。
両者とも差し違いの様になった。
二人の周りには血が飛び散っている。
悲鳴の渦が拡がり、その場は混乱して、スタッフなど関係者が東野に駆け寄ると、暫く抱き上げていたが、やがて二台の救急車がサイレンを鳴らしてやって来た。
パトロールカーも二台駆け付けて、東野と犯人の乗った救急車の後をついて別々の病院まで行くのだろう。
高田はその場に立ち尽くしていた。
詩織は驚きのあまり、英雄の腕を掴んでいた。
やがて、新聞にこの事件の記事が載った。
平山哲夫という男が個人的な恨みから東野を襲ったという事のようだ。
個人的な恨みの内容については掛かれていなかったが、役者としての知名度からの妬みと、以前何回もひどい仕打ちを受けて、役を貰えなかったからでは無いかとの事だった。
此の事件は、単純な殺人未遂事件として処理されそうだ。
ちょっと気になったのは、平山も俳優だという事だ。
詩織は英雄にメモを見せた。「此のHというのは平山ともとれるわね。そうだとすれば、平山が高田に横惚れしていたが、東野を妬んで、殺そうとしたとも考えられるわね」
英雄が頷いた。「そういう事も考えられるな。痴情の縺れから、という訳か」
警察の取り調べも、新聞の記事も同様な内容の物であった。
幸い、平山も東野も命は取り留めた。
それで、事件は落着した。
それから、三作目の製作が始まったようだ。
大体、連続作品の内容は、一作、二作目を延長した様な同じ様なものが多い。
連続ものは、前作から突然話が飛ぶようには、つくられていない、そんな物かも知れない。
しかし、よっぽどの人気作品で無い限り、何作も次から次へと作られる事は無く、此の三作目でラストを迎える様に決まったようだ。
東野と高田の名コンビも此れで見納めかと誰もが思い、続編を望むファンの声も少なくなかったようだ。
最後のシーンは、高田が敵の男達と戦ってから、東野を追って行き、正に二人は結ばれるというシーンだった。
そこで、思いもかけない事が起きた。
この日は、皆、真剣を使っていた。
東野などは剣道もやっていたくらいだから、扱いには慣れていた。
東野を恋する高田が追って行く。
カメラが最後のシーンをアップで捉えている。
正に、二人は結ばれると思った瞬間、いきなり高田が背後から東野を突き刺した。
撮影現場は大混乱となった。
スタッフが一斉に東野に駆け寄る。
救急車が手配されたが、一目で東野は心臓を何回か突かれている事は明白だ。
警察も駆け付けたが、高田の身を拘束するだけで、東野を蘇らせる事は出来ようも無い。
後日、警察の取り調べの結果が新聞の記事になっていた。
東野と高田は、私生活では、仲は決して良くは無かった。
以前、東野を襲った平山が高田の本当の恋人だった。
芸能界に入った高田は、平山と恋仲になった。
それを、役柄で、高田が準主役に抜擢された辺りから、東野にしつこく付きまとわれるようになった。
高田は、平山との本当の恋を貫いて、東野の誘いをハッキリと断った。
断るだけでは済まなく、酒の席に誘われて、無理矢理襲われた。
高田は抵抗したが、剣道をやっていた東野の前では、なすすべも無くという訳だ。
高田は、悔し泣きをしながら、真実の恋人である平山に話した。
平山は売れない役者ではあったが、高田の事は真剣に結婚を考えていたから、その事実を聞いて、東野に何回か話して聞かせたが、人気絶好調の東野は、鼻で笑い、お前もこの世界にいられなくなるぞと脅された。
切羽詰まった平山は、港でのロケの時に、東野刺殺を実行したが、失敗に終わり、平山は、裁判の後、刑務所に送られる事が決まった。
高田は、憐れな、そして最愛の平山の分もと、東野刺殺のチャンスを窺っていた。
そして、そのチャンスが訪れたという訳だ。
ラストシーンで。
詩織は英雄に記事を見せながら、バッグの中からメモを取り出した。
「やっぱり、此のメモ、いい加減じゃ無かったんだ。俳優としては、私もファンではあったけれど、真実の姿は分からなかった。高田美智子も可哀想だな。恋人も失って、自らも殺人を犯すなんて」
英雄は読んでいた新聞を、閉じると大きく頷いた。
Last scene
連続作品が一作から三作迄、locationを経て公開されていくのに連れ、この話も展開をしていく。
二作目でlocation中に暴漢に襲われた主役の男優。其れを見る準主役の女優。
二人の仲は良いとの、マスコミ等の記事が目立ったのだが・・。