ショートショート・・誠実な・・時計屋の主人・・。

ショートショート・・誠実な・・時計屋の主人・・。

ショートショート。

 下町にある古い時計屋に行ってみた。実にいろいろな時計が見られるのだが、壁狭しと飾ってある柱時計は古めかしい中古のものもあるしよくこれだけ飾ったものだと思う。
 主人も時計並みに中古の年寄りだが、珍しそうに見ている山田康太があまり熱心に見惚れているので、声を掛けて来た。
「あんたは、時計は好きなのかい?どうだ?此れだけいろいろな種類を揃えた時計屋も珍しいだろう?」
 と自慢をする。
 確かにすごい数で、主人の自慢に誘われるように質問をしてみた。
「此れだけあれば、中には変わったものもあるでしょうね?」。
 主人は待ってましたとばかりに説明をしだす。
「あんたのすぐ前に飾ってある時計の幾つかは【世界時計】と言い、世界中の時刻に合わせて時計の針を調整してあるんだ」
 世界中の時刻を表すのは、以前、通販の腕時計で海外旅行用の物を見た事があるから、それほど珍しくもない。
 其れでも、主人の鼻をへし折るような事はしたくないから、
「其れは凄いですね。しかし、世界中の時刻に合わせるのも忙しくないですか?其れに、時計だって電池やゼンマイで動いているのなら、止まってしまう事も有るでしょう。其れを一々時刻を合わせていくのも難しいんじゃないですか?」。
 主人は、その言葉で自慢話をやめるのではないかと思ったりしたが、案外、平気なようで意に介さないという顔をしている。
 



 折角、珍しい時計屋だからと思い、世界時計の一つを指差し、
「この時計、古めかしくて価値がありそうだし、珍しいから・・」
 と、購入する事にした。
 主人は商品の表面を、はたきではたきながら時計のほこりを落とす。
 代金を払い、店を出途中で食料品も購入してから家に戻る。家に前からあった時計はどうしようか?処分しようかと考え、結局、ごみの集積所に持って行った。
 




 家に戻り夕食の準備をしながら出来合いの総菜などをテーブルに並べてから椅子に座り、食事を始める。
 何となく購入した時計が気に入り、何度か目を遣る。時計は故障しようも無さそうに振り子が順調に左右に振れている。
 針は微かに動く際に聞こえるかどうか程度の小さな音を立て位置を変えていく。
「世界時計と言ったが、此れは何処だったかな?ああ、そうだ、Franceだったな・・と言う事は・・現地の時間を指している訳だ。あの主人もなかなか面白い事を考えたな?」
 と呟きながら、しかし、飾っておくだけでは勿体ないような気もした。




 Franceと此の国では・・相当時間が違うから・・現地の時間が分かって面白いと思う。
 



 其のうち、意外な事に気が付いた。
 時計の針がさしている時間帯の空模様に・・つまり・・その時間の明るさになっている事に気がつく。
 




 最初は便利というか、珍しさに満足していたが、考えてみれば、時間がこの国の時間と異なる分、生活に影響が出てしまうと思う。
 自分の家から出、近所の様子を見て見ると・・やはり、明るさが全く異なる。
 あまり、現地の時間に忠実過ぎるのも、矢張り不便だと思いだす。
 其れで、あの時計屋に持って行くことにした。



 店は閉店間際だったが、主人は、
「だから・・そう言っただろう?世界時計だって・・?何?気に入らないのかい?」
 康太は渋々頷きながら、何か主人には悪かったな・・と思いながら、やはり別の奴と取り換えて貰う事にした。



 主人は頷きながら、
「其れじゃあ、まだ保証期間中だし・・別のに変えるか?どれがいいかな?此れも面白い時計だ・・同じ時計でも・・少し種類が違い・・感激するぞ?」。
 康太は、今度は時計の時間に合わせて実際の時間との差が出ない様な奴を・・希望しますと小さな声で言うと、主人は大きく頷きながら、
「・・あんたの言いたい事は分かる・・じゃがな・・うちはあまり平凡な時計は仕入れていないから・・多少は我慢してくれ?」。



 時計を交換して貰い帰途に就く。
 壁に飾れば前の奴よりもっと格が高そうで・・立派に見える。








 其のうち・・あることに気が付いた。
 朝と晩が・・何か違うというか・・時間がバラバラのようでもあるし・・規則正しいようでもある。
 ただ、少し難があるのは・・睡眠不足になる事がある。








 時計屋の主人は真面目そうだから・・何か気がひけて・・文句を言うつもりは無くなるが、一応時計屋に行き主人に聞いてみる。








 主人は、康太の目を見ながら・・何か同情するような表情をする。
「それじゃあ・・こうしよう。家の時計も同じ世界時計にしてあげるよ・・それであんたと私は・・仲良く眠れるだろう?いい考えだろう?」








 家に帰り、主人の説明を思い出してみた。
「此れは世界時計じゃがな・・世界というものは・・何にも此処だけの物じゃないだろう?此れは高価なもんでな?世界というが・・つまりは宇宙という世界でな・・百五十億年先に存在する、仮称~創造惑星の時間に合わせてあるから今度は便利だろう?どうだ?満足だろう?・・ああ・・そうだ更におまけにこの時計も付けてあげよう。此れは全く別の宇宙空間に存在する此の惑星の時計だ。賑やかでいいだろう。同じ部屋に飾れば昼夜構わず美しい宇宙が窺えるというものじゃ」









「仮称~創造惑星に仮称~別の宇宙空間に存在する同じ惑星か・・此の星とどういう関係なんだろうな?何か、ちょっと面白そうな気もするが・・まあ、あの主人の気持ちも分かるような気がするから・・楽しんでみるか・・?」







 この辺りで・・二軒だけは同じ時間で・・昼も夜も変わらないが・・少し不便な気もするが・・気のせいか・・太陽の近くにいるように・・、
「やたらに・・熱い・・焦げそうだ・・其れが良いところだって言われそうだから・・まあ、いいか・・?」






 宅配便で時計屋から何かを送って来た。大きさからいいまた星の時計のようだが・・何の星?
 時計屋に電話をしてみた。
「宅配で送ってくれたこの時計は・・何という星で?」
 主人は・・少し間(ま)を置くようにしてから・・、
「其れは、来年3月頃やってくる隕石・・いや惑星・・此の星より大きくてな、現在、間違い無く此方に向かい進んで来ている。運が良ければ・・近くを通り過ぎるが、月なども影響を受け宇宙に変化が生じるだろう。
 しかし・・運が悪ければ・・此の星に衝突する。・・ええ?そりゃぶつかれば・・当然、此の星は消滅・・まあ、運次第じゃな・・うっほん」






「おかしなものまで・・おまけなどいらないのに・・衝突?冗談じゃないよ・・」




 世界中が・・大騒ぎをしている。
「恐竜全滅の次は・・かなり久し振りですが・・此の星が消滅?ああ?え?そう?・・では次のニュースに・・」
 (あまり、人類を脅かしたら拙いから・・)と、スタッフの指示が幾つも出ている様で、アナウンサーの声は、少し・・うわずり・・震えている様だったが・・?
 


 何も見えなくなっ・・?
 ・・・・・。

ショートショート・・誠実な・・時計屋の主人・・。

時計屋の時計の素晴らしき事。

ショートショート・・誠実な・・時計屋の主人・・。

欧州で「東洋の予言者」と呼ばれた者がいたそうだ。 理論物理・宇宙物理も嗜むとか。 此れは単なるショートです。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-11-27

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