図面

図面

ある図面に係わる事件を追った新聞記者の話。

 東京駅は新幹線の発着をはじめとして、何本も電車が走っている。
 便利で良いが、次々にいろいろな電車が発着するので目まぐるしい。
 昔、国電(国鉄の電車だったから)と呼ばれていて現在はJRの普通電車を、
 南側(八重洲側)から北側(丸の内側)に並べてみると、
中央線・京浜東北線北行き・山手線内回り・山手線外回り・京浜東北線南行きとなる。
 宮田一馬は、その日の取材の仕事を終え、此処から山手線で渋谷にある新聞社に帰社するつもりだった。
 時刻は、午後三時頃のラッシュ前だ。
 電車に乗ろうとする人々が改札口の外に溢れている。
 駅員が拡声器で盛んにアナウンスをしている。
「お急ぎの所、申し訳ありませんが、只今駅構内には入れません」
 各線とも電車は止まっているようだ。
 改札口にkeep outと書かれた黄色いテープが張られている。
 何が起きたのか、分からないが、待たされる身としてはイライラする、中には急ぎの客もいる訳だから。
 飛び込みでもあったのか、人々の想像はまちまちであった。
 何れにしても、混乱している、この先何時になったら電車が動くのか。
 警察のパトロールカーが、何台か乱雑に止められている。
 一馬は社会部の記者だから、何が起きているのかを知りたいと思った。
 駅員と警察官が規制しているし、此れだけの人混みになると、動きがとれなかったが、地下鉄で帰るつもりは無い。本社に電話をした。


 乗客が拳銃で撃たれたらしいという事が分かった。
 中央線から一番北の京浜東北線北行きまで四本の電車の間で犯行が行われたようだ。
 四本といっても、山手線は両方向同じホームに停車するから、ホーム数だけ数えれば三つのホームという事になる。
 被害者が座席に座ったまま死んでいたのは、京浜東北線南行きの三号車の一番南側の座席であった。有楽町方面に向かって走る電車だ。
 何人かの乗客はサプレッサーの音を聞いているようで、一番北のホームから聞こえたという事らしい。
 北のホームでの目撃者は何人かおり、「あっという間の出来事だったが、男が銃の様な物を持っていた」と話している。
 当時、駅に人が多かったのは大都会のしかも一番大きな駅だから。
 其の人混みに当たらずに、しかも、被害者の車両との間には京浜東北線北行き・山手線(内回り・外回り)二本が走っているから、三本の電車が行き来する状況で犯行が行われたとすると、かなり狙撃になれた人間で無いと出来ない事になる。
 それに、目撃されにくい様に、僅かな間に犯行に及んでいる事からすると、前以て何回も現場に足を運んで、各線の駅に止まっている時間や、状況を調べていたのかも知れない。
 時刻表からすると、確かに間の車両がホームに一台も止まっておらず、多少運行の関係で時刻が擦れたにしても、車両の隙間から目標が見通せる瞬間があるという事が分かった。
 ただ、ホームを行き来する人々の動きまでは把握できないから、狙撃の技術や経験・勘は並外れたものでは無いという事になる。


 被害者のスマホのメールから「・・時・・分発の京浜東北線南行きの3号車の、一番南側の座席で待っていてくれ」との文面が見つかった。
 被害者は何等かの事情があって、誰かと待ち合わせをする約束をしたのだろう。
 警察の調べで、被害者は木俣洋三といい、渋谷にあるG商事会社の社長である事が分かった。社員から事情聴取をした結果、「商談で人に会うから、横浜に言って来る」と言って社を出た事が分かった。
 横浜方面の取引先や知人を調べたが、加害者を特定出来る様なものには結びつかなかった。
 動機についても、警察が、私情説・商売に関するトラブル・その他、家族や関係者、社員などから聴取したが、此れと言った手掛かりは掴めなかった。
 となると、本人のみが知る何者かと何等かの約束をしたとしか考えられない。
 亡くなった時は、何時も着ているスーツにバッグを持っていた。
 バッグの中には、商品のカタログで挟んだ様にある図面が入っていたという事だ。
 その図面には、「部品の様な物及び、飛行機・其れも戦闘機?の一部とみられるようなものが描かれていたらしい」、「G商事会社は電化製品の下請け会社だったから、関連の無い会社の社長がそんなものを持っていたという事を、疑問に思った者もいたが、それが事件に係ることだとは誰も思わなかった。一部の先端を走っている国のその方面の専門家であれば兎も角・・・」
 何故、それ程までに、最高に優秀なスナイパーを使う必要があったのかという事も分からない。
 弾丸から拳銃「9ミリ弾使用のM3913系、若しくは消音性を重視したMk.22 Mod0」と分かった、日本のSATでもまだ使われているらしい。
 北のホームから南のホームまで歩いても10分程、距離的には射程距離だ。 銃を撃った人間の特徴に付いては、見掛けた人々が、顔から服装までハッキリとは覚えていなかったのも巧妙である。
 迷彩服を着ている訳では無いから、ごく普通の服装で、顔は特徴が掴めなかったが、白人ハーフのようであったようだ。
 おそらく、トイレ等に駆け込んで、持っていた銃と服を速やかにバッグなどに入れ、他の服に着替えたのだろう。
 SATの隊員に、同じ状況を設定して狙ってみて貰ったところ、かなり難しいが、・・優秀な狙撃手なら可能性は無い事は無く、五分位の間に狙撃したのでは無いかとの見解もあった。
 やはり、何度か下見に来て、四本の電車の時刻を調べ、目的の車両を狙う為の準備をしていたと思われる。
 一馬は、これ等を元にいろいろと考え、警察の見解は兎も角、記者としての推測をしてみる事にした。一馬の新聞社と同じ渋谷にG商事会社があったのは偶然だが、調査をするには好都合だった。其れも道玄坂の近くに両社はあったから、頻繁に行くことが出来た。新聞社では一馬をこの事件の担当記者として全部を任せてくれていたから。


 木俣は、祖父の代から代々商売を続けていたようだ。
 一馬は、其の会社に行った或る日、木俣の父高野博と男が喫茶店に入って行くのを見掛けた。 
 一馬は何となくその男が気になったから、店の外で張っていた。
 店を出た後、高野は一旦会社に戻ったがすぐに出てきた。表で待っていた男と一緒にタクシーを拾った。何処に行くのかと、一馬も急いで手を挙げタクシーに。 
 二人が乗ったタクシーは246号線を西に走り、厚木の大きな住宅の前で止まった。
 一馬は少し離れた場所でタクシーを降り、二人の後を追い住宅に向かう。
 大きな住宅ではあるが、どうやら裏手にも建物があるように思える。
 一馬は、近くの道路から住宅の裏側が見える場所まで行ってみた。
 やはり裏手に工場らしき建物がある事が確認できた。
 其の裏手の建物に近付いて、小窓が少し開いていたから、一馬は其処から中を覗いてみた。
 中には何十人かの人が働いていて、何かを作っているようだ。
 作っている物は家電製品では無いのではと思われる。
 一馬はこの工場がひょっとしたら、事件に関係があるかも知れないと言う気がしたので、カメラで写真を撮り、其の住所をスマホと付近の表示で調べ記録した。


 そんな或る日、一馬は幾らか事件に関係があるかも知れないという人間に会った。一馬がその日、G商事に行って暫く道路の反対側のカフェから見ていた時だった。
 社員が何人か表まで送ってきている。社員達がかなり丁重に挨拶をしているところからすると、要職なのかそれとも顧客なのか。
 一馬はカフェを出て急いで反対側に渡る。
 記者の勘というか何かが一馬を促している、「逃すな。ひょっとしたら・・」
 道玄坂を早足で下り、女性を追い掛けた。
 「あの、済みませんが」
 声を掛けられた女性はゆっくり振り返り一馬の顔を見た。理知的な顔をしている。
 見ず知らずの男に声を掛けられたら、通常は無視するのだろうが。
 「ああ、私はこういう者ですが、少し・・宜しかったら・・お話がしたいんですが・・」
 その時、突然、男が近付いて来て、立ち止まっている女性を目掛けて突進してきた。着ていたジャンパーに隠すようにナイフを持っている。
 女性は軽くかわしたが、一馬が男の手を片手でねじ上げて、更にナイフを叩き落とした。
 男は一言何か「絵・・」と言った様な気がしたが、慌ててナイフを拾い逆方向に猛スピードで走って逃げる。帽子に大きなマスクの背中が道玄坂を上がって行った。
 一馬は学生時代に空手をやっていたから、それくらいは何でも無かったが、男の後を追おうとして、立ち止まった。今は、女性の方が気になる。
「警察に通報しましょう」
「・・ええ、そうですね。・・でも・・犯人の特徴は分からないし、無駄でしょう・・」
 一馬は、女性が何か犯行に心当たりがありそうな返答をするし、時間も掛かるから、と言うので、自分も何か憚るものを感じ、取材を先行した。 
 女性は、暫く一馬の名刺と顔を見比べていたが、頷きながら、
 「有難うございます。助かりました」。
 それ程動揺して無い様に見られた女性は一馬と共に、近くのカフェに。
 菊田佐代子という女性だった。
 佐代子は、何回か木俣を訪ねて来た事があるらしい。
 佐代子は、木俣とは単なる古くからの知り合いであったと言う。既に亡くなった木俣の会社を訪ねて来るとは・・まさか事件の事を知らない訳は無い。一馬は何か気に掛るものを感じた。
 佐代子とは、特に変わった話を交わす事は無かったが、此れから知人に会いに行くからと言うので、店を出た。店を出る前に今後佐代子に会う必要があるかも知れないと思い、電話番号を聞いてみたら、意外にすんなりと教えてくれた。
 一馬は、知人に会うという事も、木俣を訪ねて来た事からしてひょっとしたら其の知人とやらも、佐代子が何か此の事件に係っているのでは・・、「俺も、ちょっと考えすぎかな。しかし、先程の件にしても、随分落ち着いていたようだし、只者では無いかも。無駄足でもつけてみるか・・」。
 渋谷から井の頭線に乗り、下北沢でO線に乗り換える佐代子から離れて一馬は後をつけた。
 佐代子は、O線の参宮橋駅を降り、住宅街を歩いて五分ほどで行ける「T博物館」に入って行った。博物館とは言えない様な小さな建物だが、昔からの本物の刀剣を陳列している。有料で入場でき、本物の「妖刀正宗」などの日本刀を見る事が出来たのだが、一度警察に摘発された事があった。
 容疑は、地下の倉庫に山ほど古い本物の刀剣類を隠していたという事が、銃刀法違反という事で新聞の記事にもTVニュースでも報じられた事があった。
 それと、今回の事件とは関係がある訳は無いだろうが、一馬は其の時の取材から何か参考になる事があるのではと思い、社に電話して情報をメールで送って貰った。博物館の近くに立ったままメールを見る。
 「先代の館長が「大日本帝国陸軍時代」の知る人は少ないが、中野に在った、軍部も天皇も国民も、誰も実態を知らない『陸軍中野学校』出身者であった。」


 其の入学試験たるや超難関。どんな事が行われていたか、横道に逸れるが記してみる。
『因みに、中野学校の東部第33部隊というのは、偽装工作用のもの。採用試験の一部をあげると、 この試験何人いればひとり受かるのだろう、1000人にひとり? 一万人にひとり?
 陸軍中野学校の採用試験
 採用試験は難易度MAXのかなり変わったもの。
 事前調査で採用基準を満たしている者に、上官からある日「中野学校」に行くよう指示される。
 わけも分からないままいくと、そこには面接官らしき人物が…。
 そして突如こう切り出される…
面接官「ときに君、女は好きか?」
受験生「嫌いではありません。」
面接官「・・・・・」
受験生「女の事は全て相手次第です。」
面接官「もし女が裏切ったらどういう方法で復讐するか」
受験生「その場になってみないとわかりません。」
…と、ただの世間話かと思っていると、突然机に世界地図をバッと広げて…
面接官「ティモール島はどこにある?」
受験生「……。いえ、この地図にはティモール島が書いてありません。」
面接官「(この)地図の下、机の上には何と何があった?」
受験生「………。軍帽、カバン、万年筆、湯呑み茶碗、タバコ…」
面接官「タバコ(の銘柄)は何だ?」
受験生「チェリーです。」
面接官「灰皿の中には?」
受験生「吸殻が2本ありました。」
面接官「よろしい、では一度にいくつかの質問をするからまとめて答えろ。いいかね?」
面接官「①一晩にどのくらいの金が使えるか? ②キリスト教と仏教の違う点を5つ挙げよ。 ③共産主義の長所と欠点は何か? ④今この場で腹が斬れるか?」採用資格は下士官、一般兵士、それに予備士官学校の卒業生の中から特異な才能をもつ人たちが選抜され、士官学校出身者は除外された。
その理由は、軍人精神を叩き込まれた軍人は、民間に潜り込んだ際バレる可能性が高いから。
「(ここに来るまでに)上ってきた階段は何段あったか?」
「黒地の紙に墨で字が書いてある。どうすれば判読できるか?」
「野原に大小便がたれ流してある。それを見て女のものか男のものか、判断するにはどんな注意が必要か?」
など、記憶力、観察力、洞察力を試される質問が次々出されるという。
ある工場の前を通った。煙突から黒煙や黄色い煙があがっていた。
「工場の使用燃料は何か?」「何を生産し、その数量は?」「従業員数は何人か?」教官から矢継ぎ早に質問がとぶ。(中略)メモは一切禁止されていた。
講義といってもその内容がすごい!
武道、射撃、暗号解読、飛行機操縦、車の運転、モールス通信、外国語、職業訓練、暗殺術、信書開封術等の他にも、拷問訓練、手品の名人による毒盛りのテクニック、金庫破りの名人によるダイヤル式金庫の開錠テクニック、社交ダンス、更には性技まで、思いつく限りのありとあらゆる専門訓練が行われた
軍服・本名禁止!私服・長髪OK! 二重・三重スパイになっても生き残れ。
軍服を着用せず、普段から平服姿に長髪でいる事が推奨されていた。そのため、里帰り時には親から軍人にあるまじき姿を叱責され、スパイとして教育を受けている以上は親にも理由を明かせず、言い訳もできず苦労したと言われる。
中野学校の職員及び学生は、軍服を着用することは認められず、それどころか本名を捨てさせられ、偽名(防諜名)を名乗ることとなった。
内部の教育機関と異なって自由であり、天皇の名がでても冷めたポーズをとるとか、ときには反天皇の言動をとるよう要求されたりもしたのである。
校風は当時では考えられないほど自由奔放で、(中略)むしろ「天皇のために死なず」という気風すらあった。自分たちが命を捧げる対象は、天皇でもなく、政府、軍部でもなく、日本民族である。
映画で有名なシーンがある。顔を洗う時日本人は手を動かすが、中国人は顔を動かす~其れでスパイだという事が知れてしまったという。』
 

 一馬は更に送られて来たメールを見る。
 「その館長は、かなり年だが、現在の館長とは親子以上と言う表現の方が当て嵌まる。
 どういう事かというと、いろいろな中野学校に関する機密情報を話していたらしいが、まあ、教育・指導と言った表現が当て嵌まるかも知れない。未だにその精神を貫いている」其処でメールは終わっていた。
 

 
 戦後、此の学校に付いてはほんの始まりで、例えば富嶽など終戦間際に設計や製造されたが、実戦で使用できなかった多種の軍事用兵器類を検証し実際に使用してみたほど優れたものに付いては飽く事無き執念があった。
 既に実戦で使用した紫電改やそれを上回る戦闘機がB29に対抗できたのではというなどという軍事面に留まらず、「何故、京都・奈良などに爆撃しなかったのかという事に付いても、一部では、勝利後観光に行く為に残しておいたという余裕のある説まであるくらいだ。国民が尊ぶ天皇を殺める事は、却って戦争を長引かせる事になり、本土決戦になれば米兵の死傷者が増えるから原子爆弾投下、天皇は生かして・・と判断したと言われている。戦前は天皇は象徴では無かった。が、実際には長い日本の歴史上、天皇は表向きだけ、実権はその都度、例えば徳川幕府の様に他の政権が握っていた事が多いのだが」。
 ところで、中野学校についてだが、中野学校と被害者との間にどんな関係があったのかという事になるが、被害者の木俣は、前館長から現館長同様の指導・知識等を受けていたらしい。
 一馬が社に帰った時、メールを送った同僚が笑いながら一馬の顔を見た。
 「被害者が持っていた図面は、戦闘機に関するものでは無いか?中野と戦闘機、満更冗談では済まされないかもよ」
 大日本帝国時代でも謎だった集団の事が、戦後百年経った現代に、再び、何の為に、どんな意味があったのかは、全て謎のまま、闇から闇に葬り去られたのだから、知り得ようも無い。其れだけに戦闘に関する知識については並外れたものを持っていてもおかしくは無い。増してや、其の時代時代に即したレベルを維持しているとなると脅威とも言える。
 一馬は、同僚の意見をそんな風に解釈した。
 今、世界で戦闘機に関して最新鋭の研究が行われているが、USA・USSR・Chaina・その他核保有国を中心として、殆ど次期戦闘機を購入・開発しているが、それは、秘密裏に開発していて、どの国も情報が欲しい。
 優れた戦闘機を(とは、言っても、スピードに付いては世界一であっても、いざドッグファイトになった際には、或る程度の適したものが要求される事を一例とすると、一体最新鋭の戦闘機で最強なのは、どんなものなのかいう事になる)
 それに関して、優れた情報を木俣が持っていたと仮定すれば、欲しくなるのは当然かも知れない。しかし、中野は日本国民の為としてしか暗躍しない筈だが。
 一馬は、木俣が中野精神を裏切ったのかも知れないとも考えた時、佐代子も同じ組織の人間だとすればもう一度、佐代子に会ってみたいと思った。
 今回の加害者が黄色人種だったという情報からだけでは、狙撃手が何者だったのかは分からない。
 一馬は考える、・・に先を越えられたくなかった国からの使者ではないか、其れとも組織を裏切った男の始末だったのか。
 其処で、問題がある。
 木俣が亡くなって、図面は誰の手にも渡らず警察の管理下にある。
 警察は捜査段階で図面が事件と係わりがあるとは考えなかったようだ。
 そうなると、機密は闇に葬り去られた事になる。
 重要な機密というか、最新の戦闘機に使用される筈だった情報はお蔵入りになった事になる。
 一馬は考えた。「此の話は記事にしない方がいいな。あまりにも大胆な事だし、ひょっとしたら生き残っている連中の身に何が起きるか・・やめた方が・・・」
 

 一馬は、佐代子にもう一度会う為、教えて貰った番号に連絡を取ってみた。
家にいるからという返事だったから、佐代子の家まで行った。面白い事を教えて貰った。どうして、佐代子が一馬にそんな事まで話してくれるのかと思ったが、
佐代子の口からは余裕なのか何なのか驚くべき事実が浮かび上がって来た。
 木俣は、万一の場合に備えて、予備の図面を持っていたというのだ。
 佐代子の部屋には壁に「モネの日傘をさす女」の絵が飾られているが、佐代子が其の絵を見ながら言った。「木俣は、あの図面と同じ物をもう一つ持っていると言ってました。私に警戒心を感じなかったのは、どういう訳か。今は、役にも立たない物だから」
 一馬は驚いた。「今は?役に立たない?其の図面って全く同じ物だって言ってました?何処に持っていると言っていました?」
 「会社の社長室の壁に掛けられている絵の額縁の中に」
 佐代子が一馬に、何かを言おうとしたが・・・。
 一馬は佐代子に礼を言うと車を走らせた。
 向かっているのは木俣の会社だ。
 運転中にスマホが鳴った。
 路肩に車を止めてスマホに出た。
 会社からの電話だった。「宮田か?渋谷で爆発騒ぎがあったらしいからそちらに飛んでくれないか?そう言えばお前、木俣が殺された事に付いて調べていたっけな・・・」
 一馬が渋谷に着いた時は、消防車や警察。救急車などが出動して大変な騒ぎだった。

 爆発が起きたのは木俣の会社だった。
 消防車が三台で消火放水をしているが、火の勢いはおさまりそうも無いと言う。
 調べてみないと分からないが、ガソリンなどの普通の可燃物では無く、何か特殊な爆薬の様な物が使用された可能性があるとの事だった。
 目撃者その他の話に寄ると、三階建ての建物の、木俣の会社があった一階から 出火したとほぼ同時に爆発音が聞こえて、かなり大きな爆発であったようで、一階部分は押し潰された状況で、上階が落ちてきて燃えているから、建物は全焼に近い状態になりそうだという。
 一馬は、写真を撮りながら呟いた。「此の爆発は、誰かが仕掛けたに違いないのでは。何れにしても、予備の図面は無くなったという訳か」


 数日後、・・で発表があった。「・・の次世代戦闘機は・・」


「其の戦闘機に応用された図面は二枚あったが、今は既に無くなってしまった。それなのに・・・どういう事だ」


一馬の呟きは街の喧騒に掻き消される様に消えて行った。
「・・佐代子の部屋にも絵が掛けられていたが・・モネの日傘をさす女・・その顔は謎とされている・・」

図面

図面の一枚は燃えてしまったが、もう一枚は・・?

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所謂、事件もの。推理サスペンス。 記者が追っていくうちにいろいろな謎が解けて来る。 問題の工場は消失してしまった。其処にあったモネの絵の裏側に図面があった筈・・。 其処で、最後に気が付いた。 もう一枚同じ絵がかけられていたのは・・或る女性の家。 しかし、其の女性はもういないのでは・・?

  • 小説
  • 短編
  • サスペンス
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-11-26

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