ディーヴァと神人類

これちかうじょう

愛した記憶、愛された記憶

「あーあ、せっかくおいしいケーキ、完食できなかった」
「そうよそうよ、それに結ちゃん思い出してくれたじゃないの、
 これできっと凪ちゃんもまたあの子に逢えるよ」
「父さんもその方がいいなあ、冬至にはまだ向こうにいて欲しい」
勝手なこと言うな、と俺は先ほどのケーキの甘さ、
ちょうどいい甘さなんだよ、
それを思い出している。
「確かに俺は結ちゃんが好きだよ、大好きだ。
 でも俺がいたら駄目なんだよ、
 だからこっちに来たんだ。ちょうど先生も連れてくるってていもあったし」
「えー、僕はついでだったのか」
「いや、それはまじで違うから。先生は復讐考えてたでしょうが、
 それであの街どころか世界が壊れちゃったら元も子もないから、
 だから連れてきたんだよ」
俺の好みを熟知している兄貴だ。
甘さ、辛さ、塩加減、全てにおいて、俺の好みを熟知している。
それは俺があいつに何度も何度もおいしいと伝えたからだ。
「なあ冬至君、僕とさ、生徒になって青陵に戻らないか」
「…は?」
「勿論、藤原冬至じゃなくていいんだよ、ほら、正岡神田凪でいいじゃないか」
「何で俺がお母さんの苗字なんだよ」
「だって中村家はもうないし、藤原家にも戻りたくないんだろう?
 でも僕はまた時雨や風馬が言っていた青春をしてみたくなったんだよ。
 藤原君が笑ってたの、見た?君を見て、ケーキをおいしそうに食べる君を見て、
 すごく笑顔だったの、見てた?」
「え」
「そういうのいいなあって僕思っちゃったんだよ。確かに僕は人間じゃないし、
 もう死ねない体だけどさ、君もそうじゃないの。
 はざまととして目覚めて、世界最強の存在になったわけだしさ。
 僕より強いんだよ?何でもできる力だってもう持ってる。
 だからさ、僕と生徒になってもう一回青春しないか」
青春。
俺の青春時代は最悪なものだった。最初は。
母さんから受けた痛みと、ショックと、親友を殺しかけた自分自身の浅はかさ。
今なら分かるんだ、
柳瀬橋は俺が死のうとして薬を飲んだのを助けてくれたんだ。
自分が背負うことによって。
でも俺は、今の俺にはそれができる。
そして、融和者がいなくても、はざまととして神人類とも渡り合える。
つまりは、俺は世界最強なんだなあ、もう。
古関先生が言ってるのはそういうことだ。
「勉強は教えてあげたでしょ、だからまだ間に合うよ、期末試験にも。
 そうだな、1年8組に編入しよっか」
「やだ」
「ええー、何でそこまで意固地なんだよ君は!お父さんもお母さんもいいじゃないって言ってくれてるのに、
 それを無視するの?
 そこまで偉いのかな君は」
「もはや神様同然ですからね、俺は。今からだって結ちゃんの記憶を操作できる。
 猪瀬に頼んだのが駄目だった。
 やっぱりあいつは…親友としてはいいんだけど、天野先輩寄りだからなあ」
天野先輩は鋭い。
きっと猪瀬から聞かなくても、聞きださなくても、
いろいろ分かっているはずだ。
器用な人間ナンバーワンだからな。
「先生は知ってましたか」
「ん?」
「水泳部のことですよ。ちょっと前にこの星に還って行った人がいた。
 青陵の二年生、山都蛍です」
「あああの子かあ、接点はなかったけど青陵のエースだったもんね、
 国体とかインターハイとか総なめだった生徒だよ。
 でもなに、死んじゃったの?」
「今頃水泳部は更迭されてるでしょうね、廃部になってるかも」
「それすらも分かるんだ…まああの子は青陵の犬って言われてた駒に過ぎなかったからね。
 でその子が何」
「生まれ変わります、すぐに」
「ええ!?何で!?いいことすると生まれ変われるっていう話は本当なんだ…」
「こうも短期間で生まれ変わりする人はそうはいないけど、
 俺は思うんです。
 生まれ変わりたくないって。
 もうあっちには行きたくない。
 いろんなことで頭が痛くなる、困るんだ。
 本当はいたかった、ずっと結ちゃんの傍に居たかったよ、
 でもそれじゃあ藤原家が潰れるから俺はいない方がいいんだって、
 それに気づいた時からずっと練習してたんです。
 生まれ変わらないように、ずっとこのはざまにいるっていう方法を」
「…でもあんなに愛されてたのに、それに愛してるのに、
 不思議な君たちだねえ」
「父さんとお母さんに水族館で逢った時、…二人は覚えてる?」
「覚えてるよ~はざまを出て忠則さんとデートしてたんだよ~」
「浪さん、あれはたまたま」
「俺はあの時に分かったことがあったんだ。
 俺は結構がつくほど馬鹿で成績も悪いけど、
 此処に居ちゃいけないって分かった。悟った。
 俺の居るべき場所は結ちゃんの隣じゃない、
 このはざまだって分かったんだよ」
「僕は生まれ変わりたいけどなあ、冬至君」
「先生は単に笠井先輩と佐々木先輩が羨ましくなっただけでしょーが」
「まあね」
俺は確かに愛した、そして愛されていた。
でも初恋は叶わないって言うじゃないか。
結ちゃんの初恋、俺の初恋。
どっちも、叶わない。
「凪ちゃん…何だか寂しそう」
「冬至は昔から素直じゃないもんなあ」
「二人に言われたくない」
ここで父さんとお母さんと一緒にいたい。
家族していたい。
これが本当の家族だもん。
俺の、ちゃんとした、血のつながった家族だもん。
「舞のことは悪かったよ冬至…お前をあそこまで追い詰めてたなんて気づけもしなかった。
 お前のことを憎んでいたわけじゃないんだ、
 父さんが悪かっただけなんだ、
 それは分かるよな」
「…でも俺を殺しに来た」
「それは父さんに見せしめとして、だったと思うんだよ。
 父さんがあいつをおかしくしてしまったんだ。
 父さんには浪さんが必要で、それでこんなに長生きできたんだ。
 感謝してるんだよ。
 でも、舞にもな、悪い癖があったのは知ってるか」
「あー、万引きとかしてたんだって?」
「それもみんな父さんを陥れるための行動だったんだ。
 決してお前が嫌いだったわけじゃない。
 たとえ育ての親、だとしても、
 舞は、母さんは冬至をすごく可愛がっていた。
 自分が産んだ子として、ちゃんと育ててくれた」
「そうだ、それなんだけど、母さんが本当に産んだ子ってどこにいるの」
「…あの子は養子に出した。女の子だった。
 今はどうしているか分からないけれど、
 きっとどこかで倖せにしてると思う」
「…無責任だな、俺はカッコウの子供みたいじゃん」
「確かに母さんには悪いことをした。でも父さんは冬至に生きて欲しかったんだ。
 ちゃんと、父さんの子供として、
 浪さんにお願いされたからな」
「凪ちゃんごめんね、私が悪いの。凪ちゃんが将来本当のことを知ったらって思うと、
 怖かったんだけど、
 でも生きて欲しかったの。私は凪ちゃんが好きだよ、
 忠則さんのことも好きだから。
 だからお腹の中にいるって分かった時は嬉しかったんだよ。
 本当は実家に戻るつもりだったんだけど、ゆめんとの力を使いすぎて私、
 低体温症で死んじゃったの。
 その前に凪ちゃんを何とか産んだんだけどね」
だから俺もそうなるって分かってたんだ。
いつか、体温が下がりすぎて、死ぬんだって。
それを結ちゃんに言えなかった。
いつかいなくなると、目の前からいなくなってしまうって、
それをなかなか言えずにいた。
だから、今回のように、猪瀬に頼んだのに。

「ねえ冬至君さあ」
添い寝タイムです。
「藤原君には、もう逢いたくないわけ?」
「…何ですかやぶからぼうに」
「だって思い出してくれたじゃない、君のこと、ちゃんと弟として、
 そして、好きな人として」
「…逢いたいですよ」
「じゃあ素直になりなよ、それからさ」
「はい?」
「僕のことはもう先生って呼ばないでね。今から君と同い年になるから」
「は?は?」
「ちょい力使うから、今晩はゆめんとで癒してね」
「…はあ」

愛した。
愛していた。
愛している。
今も。
好きだけじゃ済まされない。
好きって言う意味を超えて、
俺は結ちゃんのことを、愛してしまった。
でもそれは世間的に駄目なことで、
普通じゃないってことで、
俺はいろいろ諦めた。
諦めたのに。
どうして今になって思い出したんだよ。
バカ兄貴。

古関冬馬

「どうかな?ちょっとは幼くなった?」
「ほえー、本当に年齢いじれるんだ」
「これで冬至君とも同い年~」
「あんたねえ…本気であっちに戻りたいんですか」
「敬語はなしだよ、もう僕たちは親友だもんさ」
「親友ってねえ…そうは簡単になれないもんなんだよ、
 特別な感情が働いて、友達以上になるんだ。
 だからせん、じゃない、
 …古関も簡単に親友とか言うな。
 俺の親友は柳瀬橋だけだ」
「えー、猪瀬は?親友になってあげたじゃないか」
「あれはああでも言わないとお願い聞いてくれないような気がしてつい…
 でも本当の親友は柳瀬橋だけ。
 俺は嬉しかったんだから、あいつに出逢えて、
 いっぱい笑って、困って、泣いて。
 すげえいろいろバカやって、楽しかった」
先生は先生じゃなくなってしまった。
「そう言えばほら見て、あれ」
「え?」
「柳瀬橋君が橘君を名前呼びするところだよ、初の」
「ほえー」

ビジョンに柳瀬橋と橘が映っている。
何だろう、橘の部屋かな。


「…そ、そ、」
「ん?」
「そ、…」
「なあに、袂」
「そ、…そう、」
「ん?」
んもうお前分かってるくせに!と柳瀬橋が怒っている。
「お前が言ったんじゃないか、名前呼びしてくれって!
 でも俺あいつのことも名前で呼んだことなかったんだぞ!
 なのに何でお前を名前呼びしなきゃいけないんだよ!」
「付き合ってるからじゃないの」
「ううう…」
「無理しなくてもいいよ、いっぱい悩んでよ。
 僕のことで、たくさん困ってよ。
 でも、あいつって誰?」
「なんか話のはしっこに出てきちゃうんだよな…
 俺、何かすげえ大事なこと忘れてるんだよきっと」
「藤原が言ってる子のことじゃないの」
「多分な。でも本当に記憶にないんだよ。
 だからお前の力を借りたい、総太朗」
「…!」
「うへ、言えた」
「袂、大好き!」
「…俺も」


「はは、すげえや、俺のことも名前呼びできなかったあいつがなあ」
「羨ましいんじゃないの?本当は」
「でも俺柳瀬橋のこと名前で呼ぶ気ないし…
 でも古関のことは呼んでやろうか」
「え、冬馬って?」
「もういろいろ会話したしな、夢の中で。
 お前も、俺の友達だよ、冬馬」
「うわあー、冬至君好きー」
「くっつくな、馬鹿」

鼻歌

ふんふふーん、ふんふふーん。

たまに冬至君は鼻歌を歌う。
機嫌がいい時、になんだろうか。

「冬至君、今の歌なに」
「え?あ、別に普通の歌だよ」
「気になるなあ、何かの一節じゃないの」
「…うん、思い出の曲なんだ、
 俺さ、結ちゃんの部屋でオルゴール見つけてさ、
 それを聞いてみたわけ。
 知らない曲だったんだけど、修学旅行のお土産にって、
 俺に買ってきたみたいなんだけど、
 渡してくれなかったんだよな」
「何でかな?何で渡さなかったんだろう」
「知らねえよ。でも俺にはあげないつもりで買ってきたのかも知れないし。
 でもちゃんとメッセージ付きでさ、
 これからもずっと一緒にいてくださいって書いてあった。
 だから俺に渡したかったんだろうけど、
 恥ずかしくて渡せなかったっぽい」
「変なところで不器用なんだな」
「でもその一節が頭を離れなくてさ、つい歌っちゃう時がある。
 結ちゃんが眠れないって言う時も歌ってやったんだ。
 俺は歌姫なんだそうだ」
「歌姫?」
「夢の中でそう俺を表現していた時があったんだよ、実は。
 ディーヴァっていうんだってさ」
「吹奏楽部に入りたかったんだもんな、冬至君は」
「そうそ。そうだ、冬馬は何部に入りたい?」
「え、まじで戻してくれんの」
「復讐を考えないなら、冬馬だけ戻してやってもいいと思ってさ」
「じゃあ僕吹奏楽部ー」
「何でだよ」
「冬至君と」
「だから俺は戻らないって」
「好きな人に逢いたいって顔に書いてあんぞ」
「てめえ」
「ああいいなあ15歳って、若いっていいなあ」
「くそ、一生先生でいればよかったのに」

はざまと

「素直になりなよ、好きな人には触りたいって、そう思わない?」
「…もう充分触ってもらったから」
「へええ、藤原君とどこまで行ってたの?
 ああ、キスもエッチもしたんだっけか」
「…触りたいよ、触られたいよ、本当のこと言うと、
 頭撫でてやりたい。
 あいつ、頭撫でられるの好きでさ、
 小さい頃からおじいちゃんに頭撫でられてきててさ、
 お父さんにも撫でられて嬉しそうだった」
「へえ…でも冬至君ちっちゃいから手が届かないじゃない」
「寝てる時にだよ!」
「え」
「俺たち、ずっと一緒に寝てたんだ。
 俺があの家に、藤原家に行った日からずっと、
 毎日一緒に寝てたんだよ」
「うわああ、男子高校生二人が」
「それを言うな」
こうやって見ていると、やっぱり逢いたくなるもんなんだな。
俺がいないと拗ねるところとか、あったんだよな。
「それにあいつ、すげえ酒飲みでさ」
「高校生じゃん」
「未成年なんだけど、おばあちゃんが強かったらしくて、
 お酒は小さい頃から飲んでたんだってさ」
「すげえなあ」
(若くなって台詞も若くなった古関冬馬です)
「俺も最期に一緒に飲んだんだ、甘酒。
 あいつの好きだったやつだから、覚えておこうと思って。
 だからまだ覚えてる、味とか、風味とか。
 大人になったら一緒に飲めるなあって思ってたんだけど、
 それも無理だったけどさ」
「…」
冬馬が足をばたつかせる。
「なあ、本当に戻らない?あそこに」
「だから嫌だって」
「僕だけ戻してくれんの」
「復讐しないならな」
「しないって。それに僕は今、冬至君に片思い中なので」
「それは気持ち悪いから言うな」
「やだなあ、自分だって結ちゃん結ちゃん騒いでるくせに」
「…それとこれとは、別」

はざまとになって、もう3か月以上経った。
はざまとといっても、本物のだ。
「でも僕は青春したいよ、時雨や風馬みたいに大学生にもなってみたい。
 あ、一回はなったけどね、だから教師になってたわけだし」
「じゃあ冬馬だけ戻してやるよ」
「やだ」
「はあ?」
「僕はあそこで冬至君をめぐって藤原君と対決したいんだ。
 つまりは、奪い合い」
「だから俺はもう」
「素直になれって。逢いたいんだろ?触りたい、触られたい。
 じゃあ行くしかないじゃない、
 戻るしかないじゃない」
「…もういい、寝る」
「えー、じゃあまた僕の夢の中に入って」
「分かったよ。でもここはいいな、あったかいし、時間も進まない。
 俺はまだ15歳のままでいられてる。
 誕生日、過ぎたのにな」
「永遠の15歳だね」
「そういうお前こそ」
そうなのだ。
ここには時間という概念がない。
だから俺はまだ、9月の末のあの日のままなんだ。
後夜祭のあった、あの日の朝のままの。
「冬馬」
「ん?」
「後夜祭って何したの?午後三時とか近藤が言ってたから」
「ええー、知らなかったの!?今まで!?」
「知らねえよ、お前をここに連れてくることだけで精一杯で」
「ラストダンス」
「?」
「ラストダンスってのを天野が企画したんだよ。
 好きな人としか踊れないっていう制約付きのね。
 生徒会から離れてもそれだけは知ってたよ。
 それの主役は間違いなく、藤原君と冬至君だった」
「俺たちが?」
「全校生徒が認めてたくらいなんだぞ、君たち二人のお付き合いは」
「そんなだったのか」
「それでもいいから付き合ってください!二番目でいいから!って、
 藤原君は何人にも言われてね~」
「嘘、告白ってそういうやつだったの」
「そうそ。二番目でいいからって女子も男子も関係なくね。
 おかげで華道部が花に埋もれちゃってさあ。
 それを天野が監査してたんだけど、帳簿にない花を怪しんでて笑えた」
「…二番目」
「君が一番だったんだ、冬至君。
 彼にとっては、君しか見えていなかった」
「…」
どうするのが正解なのか、俺は考えている。
冬馬だけを戻しても、それはそれで問題だ。
俺がせっかくここまで癒してやった冬馬だけど、
また何かするかも知れないし。
俺が見張ってないと。
「あーあ、期末試験終わって冬休みになったみたいだね、あっちは」
「…もういい、寝る」
「あーもう、だから僕もー」

どうすればいいのか、考えている。
俺はまだ、9月のあの日のままだ。
いろんな思い出が頭の中を駆け巡る。
必死こいて俺を探し回っている馬鹿兄貴も見ている。
いくら融和者でも、はざままでは来られない。
ここは俺にとって、安全地帯であって。
「ほら見てよ、また藤原君考えてる。きっと君のことだよ」
「…どうしようもないくせに」
「そうだね、いくら融和者でもできないもんね、
 はざまから君を引き摺り戻すなんてこと。
 今までは中途半端なはざまとだったから引き戻すことができたけど、
 君はもう世界最強のはざまとだしね。
 いくらあの馬鹿力をもってしてでも、
 君を戻すことはできないだろうね」
「…」
「さあさ、寝ようよ。そんでもってお話しよー」
「うん」

俺がしにんととして、ゆめんととして、力を制御できなかったのは、
はざまとという力が成長してきていたからだ。
そして今、それがマックスの状態になっている。
いくらなんでも、
あの結ちゃんにもできないことはあるんだ。
学年四位の頭でも、
器用になっても、
できないもんはできない。

お正月

「あっちでは新年になったみたいだね凪ちゃん」
「…そうだねお母さん」
「どうしたの?元気ないよ凪ちゃん」
「…俺、いろいろ考えてて」
「だから忠則さんと冬馬君がいないここに私を連れてきたんだね」
404。
はざまの入り口だ。
「ここはあっちに一番近い場所だよ。
 凪ちゃんが願えば戻れる場所でもある。
 戻りたいんでしょ?」
「違う、そうじゃない」
「ねえ、どうしたの?凪ちゃんはいっつも結ちゃんのこといっぱい考えてた、
 優しい子だったはずだよ。
 その結ちゃんが困ってるのに、どうして逢ってあげないの」
「だからお母さんにお願いがあるんだ、聞いてよ」
「うん?」
バカ同士の話し合いです。
「ゆめんとの力、まだお母さん持ってる?」
「持ってるけど、でも凪ちゃんの方が強いよ」
「俺ね、すげえ疲れちゃったの。父さんはお母さんが癒してたでしょ?
 ゆめんとの力でさ。
 でも、はざまとって、誰が癒してくれるの?」
「…それは」
「知ってる顔だね」
「前にも言ったかな、覚えてないけどさ。
 融和者ってね、はざまとが成長させる存在なんだよ。
 自分を守るために。
 だから凪ちゃんは結ちゃんから離れて、離れすぎちゃって、
 だから疲れてるんだ。
 勝手になれるものじゃないの、融和者って。
 はざまとである存在が、この人だって決めて、成長させるんだよ」
「だから器用人間になってったのか」
「それと恋の力かな」
「…それは」
「だから疲れたはざまとを癒せるのは融和者だけなんだよ。
 あそこまで成長させたんだから、きっと逢えば疲れも取れるはずだよ」
「それはできない」
「んもう意固地」
「嫌なんだよもう、いろんなことで振り回されるのは。
 恋愛ってあんなに大変だって思わなかった。
 人を好きになるって、すげえ大変だから」
「そうだねえ、私も忠則さんと出逢ってからは楽しかったなあ。
 大変だとは思ったこともあったけど、
 でも凪ちゃんのことを産めてよかったって思ってる。
 大事な大事な私の子供だもの」
「…ねえお母さん」
「分かってるよ、言いたいことは。
 私も忠則さんも、ちゃんと凪ちゃんの味方だもん。
 悩んでるのも知ってる。
 自分がいることであの家をつぶしちゃうって思ったから、
 だから身を引いたんだってことも。
 でもこの先、結ちゃんはどうなるの?
 まだ探してるよ、一生懸命探してる。
 凪ちゃんを戻す方法を。
 逢いたいからだよ、逢って触れたいんだ。
 抱きしめたいんだよ。
 そして、謝りたいって思ってる」
「…俺に?」
「凪ちゃんは何も言わなかったでしょ、
 はざまに来るって時も、それを言わなかった。
 でもあの子は分かってたんだ。
 だから戻す方法を考えてるんだ。
 やり直したいって思ってる。
 凪ちゃんを悩ませたことをすごく、後悔してる」
「…」
「どうしても戻らない?戻りたくない?」
「…それは」
「ねえ、生まれ変わりの話、前してたでしょ。
 凪ちゃんと冬馬君。
 確か山都蛍っていう子だったっけ?
 その子は今どこにいるの」
「星から命に変わったよ、それでもうじき生まれてくる」
「じゃあその子を探してみたら?
 その子がすごく悲しい思いをして亡くなったのは、
 もう凪ちゃんも分かってるよね。
 その悲しい気持ち、理解してみたら?」
「…俺に、あそこに行けってこと?」
「うん、はざまの入り口の入り口、
 天国の門番さんのところに」
「…」
「大丈夫だよ、帰ってくる場所はここだよ、凪ちゃん。
 冬馬君と行っておいでよ。
 冬馬君のことも成長させたでしょ、凪ちゃん」
「…気づいてたの」
「私はあなたのお母さんだもの。何でも知ってるよ」

お正月。
12月31日から、1月1日になるその、瞬間。
その瞬間だけ、天国の門は開かれる。
それはお母さんからの入れ知恵だけど。

「行ってくるよ、冬馬と」
「うん、きっといいことがあるよ凪ちゃん」

ディーヴァと神人類

ディーヴァと神人類

  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • 恋愛
  • コメディ
  • 青年向け
更新日
登録日
2022-11-24

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted
  1. 愛した記憶、愛された記憶
  2. 古関冬馬
  3. 鼻歌
  4. はざまと
  5. お正月