アルデンテになりたい夜
愛がね。ぼくの首を絞めるよ。やさしくね。夜中の二時に、眠りの途中でふと、むかし好きだった映画のワンシーンを思い出して、となりで寝息をたてる、アルビノのくまを起こさないようにそっと、そのからだに指で触れる。この星はまだ、だいじょうぶ。巨大な鉄塔が倒れても、ぼくらは「ひと」でいられるはず。ゾンビなんかに、ならない。一瞬でも、未来、というものに期待値を割り振り、ちいさな悔恨が折り重なりながら、ぼくを沈めてゆく。すくいあげてほしいのは、きみだけ。いま、ものすごくチョコレートが食べたくて、アルビノのくまの安眠をじゃましないように、ベッドを抜けだし、冷蔵庫にむかう。フローリングの床はひんやりしていて、カーテンのわずかなすきまからのぞく月は、冷え冷えとした蒼白。じぶんの肉の、ぜんぜんやわらかくない感じがきらいだ。きみが噛むときに、ちょっとでも不快を味わうと想うと、さ。
アルデンテになりたい夜