あの子の領域
ろうかに、ゆうれいがいた日。あの学校にはよく、あらわれたと思う。はんぶんとうめいの、ゆうれい。
理科室で、月の残骸をくだものナイフで切りわけて、屋上で、せんぱいがあやしい魔法陣を描いていたのを、せんせいとみていた。せんせいは、ふっつうにたばこを吸っていて、わたしは、でも、そういうところがほかのせんせいたちとちがって、好きだった。せんぱいはべつに、悪魔と契約してだれかを呪ったり、永遠の命や、莫大な富をてにいれたいわけではなく、単純に、魔法陣という存在そのものに、ほかのなによりも興味があるのだと云っていた。そういうところがやっぱり、わたしは好きだと思った。
理科準備室の、蝶の標本箱をかかえて眠るひとがいて、わたしはそのひとに恋をしていた。一生片想いだとわかっていたけれど。そのひとは、だって、おなじにんげんよりも、ほかの哺乳類よりも、蝶を愛していたから。植物園の、極彩色の蝶が舞う温室で、そのひとは、じぶんだけの世界に浸り、静かにじっと息を潜め、まわりの植物と同化し、蝶を愛でていた。
あの子の領域