摩周湖に魅せられて 5

陽子、主任になる。

陽子を加えた企画会議が開かれた。誰もが度肝を抜く企画で驚きの声が上がる。
まだ採用された訳ではないが、反対する者は居なかった。そこでこの企画をどう成功されるかプロジェクトチームが決定された。そのリーダーは坂本一成と陽子を含む五人で結成された。そんなある日、坂本が声を掛けられた。
「君がこの企画書を提出したそうだね。課長から聞いて面白い子が入ったと聞かされていたが、確かに面白い企画だね」
「はぁそう思って貰えれば嬉しいです」
坂本は三十二才将来の有望株らしい。そんな人に目にかけて貰える事は嬉しい限りだ。
それとなかなかの男前、まぁ天下の美女と言われる私、陽子なら釣り合うかも知れない。
まぁそれは冗談だが、不気味な笑みを浮かべる陽子であった。
プロジェクトチームが発足されてから三週間が過ぎた。やっとゴーサインが出た。
リーダーの提案で今夜は成功を祝って飲み会が開かれた。飲み会と言うと思い出させるのが、あの日の事だった。酒に酔って箍(タガ)が外れてしまうのか、つい本音が出てしまうものだ。陽子取って屈辱的な出来事だった。そう以前付き合っていた元カレだ。なんとその飲み会で別な彼女が居る事が判明した。しかも目の前で一緒に飲んでいる。事もあろうに親しくしていた同僚と仲良くなり二股欠けて居た事が分かった。陽子はもう飲み会どころじゃなかった。いきなり席を立ちと元カレに側に合ったビールを取り上げ頭から浴びせてやった。そのまま家に帰り翌日に退職届を出した苦い経験がある。それがトラウマとなって蘇った。

それでも今日は陽子の企画が通った目出度い飲み会である。気を取り直して水を差してはいけないと明るく振舞った。でも坂本だけは何かあると見抜いていた。
それから二次会という事になったが限界だった。今日はちょっとお酒が効き過ぎてと言って陽子は帰る事にした。そのまま駅に向かうと後ろから声を掛けられた。
「東野さん、大丈夫ですか」
「ああ坂本さん……いやリーダー気を使わせてありがとうございます」
「本当の事を言うとあんまり酔っていないでしょう。何かあったのですか」
「流石はリーダー見抜かれていましたか」
酔って居ないとは言え、やはりタガが緩んでいのだろう。近くの居酒屋に一緒に入り、つい本当の事を打ち明かした。そう摩周湖の出来事まで話してしまった。だが坂本は親身になって訊いてくれた。嬉しかった。吹っ切れたつもりでいたがモヤモヤが残っていた。
「摩周湖だって! 驚いなぁ僕の故郷だよ。確かに摩周湖は美しいが、何故か地元では摩周湖をひっかけて魔性湖と言われている。勿論地元民が勝手に付けたのだから誰も知らないけど。これまでも何人か飛び込もうとした観光客があったそうだ。」
「坂本さん北海道の方なのですか。驚いたなぁ」
「道産子だけど、ただ君が自殺する場所として摩周湖を選んだのは感心しないがね。地元の人間として、機会があったら北海道の魅力を教えてあげたいね」
「すみません。ハイ機会が御座いましたら、ぜひ北海道の魅力を教えて下さい」
その出来事がきっかけで時々会うようになっていた。

それから陽子の企画通りプロジェクトは動き出した。勿論、駐車場スペースが無い所は外す全国一斉に洋風居酒屋が展開して行った。とは言っても和風と洋風が入り混じったような感じだが、念入りに練った企画は大成功した。まだ入社して一年が絶たないのに陽子は重要なポストが与えられた。同時に給料は歩合制と言っていたが五倍にも膨れ上がった。
更に一カ月後、陽子と坂本は親密な仲になっていた。
陽子は嬉しくて両親に報告した。会社で大きな仕事をやってのけた事。ただ坂本の事は内緒にしたままだ。報告する時は本当の恋人と呼ぶるようになってからでも良いと思っている。
「お父さん、お母さん聞いてくれる」
「なんだい陽子、今日はいつになくご機嫌じゃないか」
いつもは厳格な父だが陽子が真面目に勤めるようになって安心していた。母も知っていた。大きな仕事をやってのけた事を。コンビ二が居酒屋を始めたと。営業部とは聞いていたが、まさか陽子が企画したとはまで知らなかった。
「今回の企画が大成功して給料が凄く上がったのよ。それと入社して一年未満なのに主任になったのよ」
「本当? 凄いわね。流石は私の娘」
すると父がゴホンと咳払いをする」
「ハッハハ私達の娘よ」
「これもお父さんとお母さんのおかげ。それで親孝行しようと思って」
「おいおい親孝行という言葉を知っていたのかハッハハ」
「二人でたまには旅行したら、そうそう北海道はどう。旅費とお小遣いも出すから」
父と母は北海道で自殺未遂の出来事を知っていた。それを自分から言い出すのだから失恋の傷が吹っ切れたのだろうか思った。

つづく

摩周湖に魅せられて 5

摩周湖に魅せられて 5

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-11-13

CC BY-SA
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