摩周湖に魅せられて 4
コンビニ本社の企画部 陽子の本領発揮
(ここから掟破りですが一人称から三人称に切り替えます)
陽子は友人を救った事で気持ちの整理もついた、さらに新しく三人の友情も深まって失恋同盟からとりあえず四人同盟と改めた。吉野統子は復帰出来たが私と他の二人は無職、新しい仕事を見つける事が先決だ。陽子はせっかく無理を言って二週間の休暇を貰ったし簡単に辞める訳には行かない。
ともあれ一生懸命働いた。コンビニの仕事は予想以上に面白く陽子自らもアイデァを出し売り上げに貢献した。そのアイデァとはこのコンビニの場合午後十時に賞味期限切れる弁当類が沢山出る、会社の規則で賞味期限が過ぎた物は廃棄処分しなければならない。
勿論コンビ二が割引なんて許されるのか、そこで陽子は店長に訴えた。
「では店長売れ残ったものは捨てるのですか」
「仕方が無いよ。規則なのだから」
「では割引も認められないのですね。廃棄処分料を払い馬鹿げた規則ですね」
店長も分かっていた。割引しても完売した方が儲かる事を。店長は本社に掛け合い特別に許可を得た。但し上手く行かない場合、従来通りにすると。
そこで午後九時三十分に二割引で売った。これが噂になり午後九時三十分には人が集まり十時には全て売り切れてしまった。勿論それを見込んで弁当を増やしたが、客は弁当だけ目あてて来ないから他の商品も売れるようなった。廃棄となれば廃棄処分料まで取られるが二割引の効果は絶大だった。
自然と売り上げが延びてこれまでの売り上げが一、三倍にまで伸びた。それから半年、更に売り上げが延びて行った。ここまでくれば恩義も返したし、そろそろ本職を見つけようとしていた。そんな時、店長に声を掛けられた。
「東野さんのおかげで売り上げが延びて本当に助かっているよ」
「そうですか、それは良かったです。でも私も余り若くないし、いつまでバイトしている訳にも行かず転職を考えている所なんですよ」
「それは困る、ここの店舗はフライチャズ店と違い本社直属の店舗で言わば模範となる店舗なんだよ」
「はぁそれは知りませんでした。まぁどちらにせよバイトと言う訳には行きません」
「それならどうかね、我が社の本社勤めは」
「ええ~~私がですか」
「そうだよ。君のアイデアは凄いよ。本社でも誰がこんな規格を思いついたのかと、問い合わせがあってね。出来れば本社に来て欲しいそうだ」
なんかおかしな方向に話が進んで行った。まぁ正社員になれるならと陽子は本社に赴いた。
本社に行くと総務部に案内された。
「やあ君が東野陽子さんか。店長から聞いているよ」
「いいえ、特に褒められる様なことはしていません」
「いやいや奇抜なアイデァを次々と生み出すているそうじゃないか」
「それは光栄です、それで私の仕事はなんでしょうか」
「そりゃあ営業部だよ。君の発想は面白い。是非力になって欲しい」
「お褒め頂き嬉しいのですが、私はバイトですかそれとも社員ですか」
「そりゃあ当然社員さ。それと営業部は歩合制でね。売り上げに貢献すれば給料は何倍にも膨れ上がり、但し功績を上げなければ基本給しか支払われない厳しい部所でもあるが」
陽子はパッと明るくなった。厳しい世界は当然のこと、意欲が湧いてきた。
ただこれまでの割引は特例で通用しない。そもそも割引はコンビニではタブーであった。だが本社でも廃棄処分も問題があると思ったが誰も文句を言えない。だが店長が勇気を出して規則よりも損得で考えて下さいと訴えたのだ。それを後押ししたのが陽子である。
コンビニエンスストア業界は商品を売るだけではなく、あらゆるサービスを提供して伸びて来た。チケット販売、役所の書類、支払い代行、運送業代行、銀行代行業務、おまけにはおでんの販売これをアルバイト従業員が担当するのだから業務は多忙である。そんな多忙な店舗に更なる仕事を増やすのも気が引ける。しかし売り上げを伸ばすには各店舗の売り上げが延びないと更なる成長がない。
張り切ってはいたが、いったい何があるかと考え込んだ。
数週間して陽子は色んなコンビ二を見て回った。共通しているのはたいがいの店舗は駐車場がある事だ。ただ都会のど真ん中は土地も高いし駐車場が無くても客はくるから問題はない。陽子が目を付けたのは駐車場のスペースだ。平均して少なくても五台は置ける。地方だと大型トラックも置けて三十台以上も置ける所もある。店舗の前に車一台ないし一台半あれば充分だ。ここに屋台小屋を置けばいい。つまり小規模な居酒屋だ。客は酒と最低限ツマミがあればいい。仕事帰りにちょっと飲みたい客には受けるだろう。それに、おでんを置くのも良いと思った。元々冬場はコンビニでも出すから、それを回せば済む。
これは奇抜なアイデァだ。企画書を書いても通るかどうか分からない。そこで四人同盟に意見を求めた。
統子は以前の会社に復帰してバリバリ働いているようだ。千絵と桃子も仕事を見つけたらしく久し振り会う事になった。
「へぇー陽子は大手コンビニの本社勤めとは凄いわね」
「たまたまよ。ちょっとしたアイデアが受けてね。店長が本社に推薦してくれたのよ。せっかく本社に入れたのだからと思いついた企画がこれよ」
陽子は思案中の企画書を見せた。
「なんだってコンビ二で居酒屋をやるって」
三人は企画書を見るなり笑った。だが少しすると統子が面白いかもと言ってくれた。
「良く考えると面白いかも。勿論本格的な居酒屋には及ばないけど。小さなスペースでやっている店は沢山あるじゃない」
「そうそう例えば新橋や有楽町のガード下など五-六人しか座れないけど繁盛しているじゃない」
最後にはみんなが賛同してくれた。
「流石ね、私がイメージした事を思い浮かべるなんて。何処でと言う訳じゃないけど以外とコンビ二の近くには飲み屋が少ないのよね。ちょっと飲みたいなと思うに人には受けるかも」
気を良くした陽子は、何回も練り直して企画書を提出した。
最初は居酒屋風と言ったがコンビニとしては似合わない。そこで洋風的な洒落た感じに変更を加えてある。
企画書を読んだ課長はニヤリとした。彼女のアイデアは突拍子もない事を考え出すと聞かされていたが今回も驚きの規格であった。勿論、人出を増やさなければならないが、せいぜい一人ないし二人でいけるだろう。採算が取れれば問題ない。おでんやツマミを出す酒を提供するだけなら誰にでも出来る。ツマミが足りなければ目の前のコンビ二で買えるし一石二鳥だ。
つづく
摩周湖に魅せられて 4