摩周湖に魅せられて 2
自動車学校で友が出来る
家に帰ると父に、こっぴどく叱られ一ヶ月ほど監禁状態にさせられました。
父の説教は二時間にも及んだ。私は素直に反省した。父の怒りは愛情の裏返し、この時ばかりは父の叱咤も有難いと思った。それから二週間後のこと。
「陽子、今日はお父さんと二人で親戚の法要に行かなければならないの。もう子供じゃないてんだから馬鹿な事はしないでね」
「ハイ分かっています。私もそろそろ働かないとね。いつまでも親に甘えていられないもの」
「そういう自覚があるなら、そうしなさい」
そう言って両親は出かけて行った。勿論、自殺なんて考えても居ない。あの時だってそのつもりだった。いまでもあの時の自分の行動が分からない。今はもう元カレへの想いも断ち切りまったくない……はず。あれは魔性の湖かも知れない。湖が私を吸いこもうとした感じがする。監禁状態も解かれ自由の身になったとは大袈裟だが外へ出るのも久し振りだった。近くのコンビニに足を運んだ。すると店先にアルバイト募集と張り紙が出されていた。そうか家から近いし、とにかくバイトから初めて見よう。本格的な就職はそれからでも良い。
アルバイトの仕事はその日のうちに決まった。翌日から早速仕事を始めた。最初の一日は品物の補充、公共料金の入金等やレジの打ち方など教わった。三日ほどである程度のコンビの仕事をマスター出来た。始めてみると忙しいが仕事が面白い。以外と自分に向いている仕事だと思う。歌にもあるが ♪探す物はなんですかフッフッフ~ 自分の中で何かを見つけたような気がする。
それから一ヶ月が過ぎた頃。友人から誘いのメールが入った。車を買ったのでドライブに行こうという。その時は友人の誘いに乗りドライブに出かけた。そう言えば私はまだ車の免許もない。友人に何処で免許取ったのと聞いたら地方の自動車学校の合宿なら二週間程度で取れると聞いた。
このさい、車の免許を取るのも悪くないと思った。しかし入ったばかりで長期休暇を取れる訳もないし、しかし半年も待てない。そこでオーナーに相談を持ち掛けた。
「なに? 合宿で車の免許を取りたいから二週間休ませてくれって」
「ハイ、誠に勝手で申し訳ありませんが、無理なら仕方ありません。辞めさせて頂きます」
「ちょっと待ってよ。強引だな。分かったよ。その代わり一週間待ってくれないか。臨時に短期アルバイトを頼んで見るよ」
「有難う御座います。帰って来たら精いっぱい働きますので」
強引にお願いしてネットで調べたら二十万前後で二週間三食付きと格安の自動車学校を見つけた。一週間後、新潟の自動車学校に入る事になった。三食付きで六畳の部屋を二人で使う事になり中には二段ベッドがあり私は上の段を使う事になった。シングルで一人部屋もあるが一番安い部屋にした。翌日から講習が始まり四日目にして練習車で運転の基礎を学んだ。学校に入ってから一周間、初めての休みが取れた。その頃には三人の友人が出来て、新潟市内に遊びに出た。やはり海が目の前にあるだけに魚料理が豊富にあった。私達四人は地元の居酒屋に入り、酔った勢いで何故か身の上話に発展した。
一人は横浜から来たという吉野統子、そして埼玉の大宮から来た沢田千絵、最期に私の住んで居る近くから来たと云う青木桃子は二十七才、ほぼ同年齢の為か意気投合した。その為か四人とも悩み事を打ち明けた。統子は会社でパワハラに耐えきれず退職し、むしゃくしゃついでに車の免許を取る事にしたとか。千絵と桃子は私と同じく失恋らしい。共通している事は働く気力も失せ現在無職。私はバイトだが似たようなものだ。次は私、陽子の番よと迫られありのまま話した。すると千絵と桃子は笑った。
「なぁんだ一緒じゃん。分るその気持ち。でも陽子には悪いけど安心した。仲間が増えたってね」
「だけど自殺をしては駄目よ」
「私も自殺する為に摩周湖に向かった訳ではなく、あの霧が私をこちらへおいでと呼ぶような気がしたの」
「まさかぁ、でも神秘的だし行って見たいな」
「私、摩周湖で霧の缶詰を買って来たの。見る?」
「霧の缶詰? そんなのあるの、で中に霧が入っているの」
「いいえ霧なんか入っていないそうよ。強いて言えば摩周湖の空気だけ。缶詰だから開けたら終わりわよ」
「じゃあインチキじゃない」
「ううん、そうでもないの。ほら缶詰に霧の摩周湖の写真が飾れているでしょう」
「それがどうした」
陽子は千絵に缶詰を渡して、缶詰を握りしめてと伝えた。すると霧の摩周湖の霧が取れて晴れ渡った摩周湖が現れた。
「うわーいったいどうなっているの」
「なんでも缶に特別な細工してあるらしいの」
みんなは盛り上がった。それなら私も行って見たと皆が言った。
つづく
摩周湖に魅せられて 2