独白
少しでも長く隣にいたかった。
「先輩。」
振り向くときに柔らかく揺れる髪を何度も見たくて、
「柴藤くん。」
呼び止めた。
「今から帰りですか。」
「そー。」
「一緒に帰ってもいいですか?」
いいよ、と笑う姿が眩しくて視界が狭まるのが勿体ない。
好きだ。好きだと繰り返す心臓が夏を駆け抜けていく。
「ゆっくり話すのは初めてだね。」
精一杯の勇気はいつも最初に使ってしまうから、気の利いた言葉一つ出てきやしない。
「ふふ、いつも柴藤くんは緊張してるね。」
「いや、そんなこと…はい。」
嫋やかな笑みを向けられて、嘘の一つもつけない。
言葉も仕草もひとつひとつが、心を捕えて離さないものだから。
「もっと、先輩のこと知りたいと思って。」
「それだと告白みたい。」
違う、そうじゃない。いや、多分、絶対好きなんだけれど、今のはそうじゃない。
何も言い返せず、変な間が指先まで冷たくさせる。
「ごめん、揶揄っちゃった。純粋に知りたいんだよね?私も私に興味を持ってくれる柴藤くんのこと知りたい。」
先ほどとは打って変わって、口を開けて笑い声を上げる先輩にまた目を奪われる。たった10分そこらでフィルムが無くなりそうだ。
見たことの無い色彩が、雫となってじんわり胸に染みていくのを感じてもう一度シャッターをきった。
独白
この二人の話をいつか公開したい。