月を喰う

 りんごのケーキを切り分けているあいだに、星の肉がやわらかくなり、あしをとられて、沈む。同情が、すべて、偽善であるとしんじてうたがわない、あのこたちが、だれかに、無意識に傷つけられて自ら、息をとめてゆく。(まるでその術しか知らないかのように)氷河期がきたら、いっしょに氷漬けになろうと云われて、これは、あるひとつのプロポーズなのかもしれない、と思いながら、欠けていく月をみていた。あざやかな明滅をくりかえして、網膜が、一瞬、世界が真っ白になったとき、ゆるせなかったものをゆるせる気分になって、でも、いつまでもこべりついてはがれない、殺意めいたものは確かにあった。スマートフォンの電源をおとして。遮断して。だいじょうぶ、あなたは、あなたでいい、という、こころのなかの、やさしいだれかの言葉に救われて。二十一時。

月を喰う

月を喰う

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-11-08

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