透明な支配

 病んでる。たぶん、この街のひとびとの大半は、月からの新人類がやってきた十月のあの夜から、狂ってる。目に見えない電磁波のせいです。月からの新人類のからだから発せられています。テレビのなかでえらいひとたちが語った、仮説なのか、それとも、それは事実なのか、なんか、ときどき、判別しにくいメディアの情報に、わたしたちはふりまわされてる。(でも、みんな、おかしくなっているのは現実で、となりの部屋のひとがきのう、ゆうれいがみえるという理由で、近所のコンビニに火をつけた)
 エヌが云う。でも、旧人類はおわりませんよ、と。
 新人類が蔓延っても、あなたたちは生き残ります。アンドロイドのエヌが、何十年も前に出版された、だれかの自叙伝を読みながら、わたしを慰めるみたいに、云う。
 まだ、わたしは、だいじょうぶ。
 健康だし、正常な感覚をもちあわせているし、ゆうれいもみえていない。
 ただ、恋のしかたをわすれてしまっただけ。
 それだけ。

透明な支配

透明な支配

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-10-30

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