ちょうど切れる時

　トレイで用を足す。ふう、と一息。トイレットペーパーを引き出す。残りが少なかったので全部使いきって芯だけが残る。必然的に新しいトイレットペーパーを探す。ここが自宅だった場合、残りのトイレットペーパーがあとどのくらい残っていたら、「あ、トイレットペーパー買わなきゃ」と思うだろうか。

　私は「買い溜め」というのがあまり好きじゃない。そこまで広くもない1LDKの部屋にストックを置いておくのが、どうも無駄なことのように思ってしまう。日常的に消耗するものは、無くなるタイミングで買えばいい。そのタイミングが、ちょうど使い切ったタイミングと近ければ近いほど、なんだか妙に気持ちがいい。ただそれは同時に、使い切ってしまうかもしれないという、一種の人によっては耐え難い心配事と隣り合わせでもある。この状況が分かりやすく起きるのが、トイレットペーパーである。
　だからと言って、ギリギリまで無理に買うのを耐えるとか、使う量を調節するとか、こちらからタイミングを合わせるようなことをしているわけではない。私は平日の仕事終わりに買い物に行くのが面倒なので、日用品や食材は週末にまとめて買いに行くのだが、まあ普通に一、二ロールとか、一週間持ちそうにない量しかなければそのタイミングで買う。それがたまたま切れるタイミングと同じだった時、何かと何かがかみ合ったような、そんな気持ちよさが生まれる気がしている。何でもない日頃の生活の中で、ギリギリのところを耐え抜いたという快感と、いろんな偶然が重なったひとつの結果を見届けられたという、ちょっとした日常の隙間に立ち会えたことが心地よいのだと思う。トイレットペーパーを買って帰ったその足でトイレに行き、そこで切らした時なんかは「おお」と思わず心の中で拍手をしてしまったくらいだ。
　こんなことをつらつらと言いつつも実際は、ギリギリでもあまり焦らない、まあまだ大丈夫だろう、なんとかなるだろうという楽観的な精神が居座っているだけな気もする。実のところ、シャンプーとリンスはしょっちゅう切らす。でも水で薄めて使っても、割と何とかなるのである。使っているシャンプーとリンスのパッケージがよく似ているから、シャンプーが切れたのに間違えてリンスの方を買ってしまった、なんてこともしばしばだ。それでも、間違えちゃったよ、なんてため息をつきながらもケタケタ笑ってしまえば、それもまた一興なのである。