信じるためにわたしは争う
若い頃 わたしは何者かになりたかった、
わたしは人間に不信で、存在の権利をえるために争いたかった、
ある夜 わたしは何者かへの愛を絞め殺した、
底なしのどぶどぶとした暗闇に 脚をぞっとすべらせたのだった。
わたしはひとを信じたいと想ってはいるが、
信じてなんかいないと想われる、いわく 愛せないのだ、
しかし 最期の最期に信じるならばそれで佳く、
人間への信頼の論証の不合理な叫びが、わたしの歌であれば佳い。
わたしは何者かになるのではなく、
限りない無名のだれかとして、月の降る夜死んでみたい、
底辺の匿名の領域へ 罰当たりにも脚をすべらせてみたい──空へ。
わたしは果ての果ての領域で、人間を愛し切りたいから、
信じたいから、「愛する」と「信じる」は同じ意味だと信じたいから、
安心の裡で犬死に焦がれることができる。それ等の為に、わたしは争う。
信じるためにわたしは争う