escapism

 燃やして。嘔吐感とともに、寂寞。きみだけを壊したかった、そういう秋の日があって、どこかの遠い星に、やさしい海洋生物がいるかもしれない世界線で、黒い雪が降る。片目のない犬が、わたしをみていると訴える、ネオン・テトラ。

 くちびるをかみしめて、たえる。たえる。たえる。
 にんげんと、にんげんのまじわり。

 焦燥は、アイスクリームといっしょに舌の上でとかした。花が咲いたと思ったら、すぐに枯れた。街は澱み、海は腐り、雑居ビルの二階のダンススタジオだったところに棲んでいた幽霊は、そこらへんに滞留していた不特定多数のかなしみを吸いこんで、膨脹した。スマートフォンのなかだけが、とどこおりなく、過不足なく、憎しみを湛えても振り切ることなく、暗いんだか、明るいんだかわからない未来に進んでいる。
 もう、みんな、まぼろしだけをみていればいいよ。

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  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-10-28

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