a girl

無作為の”a girl”は、ランドセルを背負った12歳の性的未熟児の一人で、そのa girlが下校途中のことである。途中まで同町内の子と帰っていて、その子と分かれてひとりで歩いていたときのことだ。進行方向とは逆側から自転車に乗った男が近づいてきた。その男は平常ではないように見えた。ふらふらした走行で、あやしげで、人間としての気配のない、なにか植物の茎みたいな細い男だった。中年という歳でもない青年くらいの。(でもそういう年齢とかの概念を感じさせない存在だった。)その男が私のすぐ側で自転車をおりた。そして私を壁に押しあてて顔を近づけ唇をかすかに接触させた。本日の平常の下校、が破綻した。
 あるいは無作為じゃなく、私がまだ女として生きていないのを悟ってそういう女児を狙ったのか。すでに開花している女児は狙わない気がする。こういうのはたまたま、ではないような気がする。あっちは「なにか」を見抜くのだ。
 私は環境と教育によって去勢されていたので(私はランドセルを背負った12歳で、それ以外の感情を抱くことを許されていなかった。そうやって律され、そうやって律した。)この男に対して屈辱も不快感も浮上しなかった。でも、散々大人が定型的に言うのは「あやしいヤツがいたら大声だして助けを求めるのよ」などである。
 私はその男に少し同情していた。(その男が完全な男になれないのと、おそらく社会に適応できないのを直感したから?)
 私は少し呆然として(たぶんしてたと思う。/これ誰かに見られてたらどうしよう、とも思ってた気がする。)自転車で去っていく男を見ていた。
 そのあと車がやってきて止まり、運転席の男に「何かされたの?」みたいなことを訊かれた。(同乗者もいたかもしれない。)なにかイカン目に遭った子どもを助けようとしている大人、そして私は当事者、みたいな客観視点になって、なんか気持ち悪さとか白々しさなんかで少し嫌悪感を覚えた。
 私が何も言わなかったので、その運転席の男が、埒があかないというかやや冷笑的な感じになってきて、「じゃあまあ大丈夫なんだね?」みたいなことを言って車は去った。私は事なきを得た、と思った。


a girl

a girl

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • 青年向け
更新日
登録日
2022-10-25

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