恋慕
部屋で、だれかの歌を聴いていた。紅茶を淹れて、もらいものだから、種類もわからないけれど、いい香りだねって、あのひとが言った。バニラアイスクリームに、りんごのコンポートをそえているあいだに、窓をあけて、ときどき、星があげる悲鳴に、胸が、きゅっと絞まるような気がした。このまえ、動物園でみた、白いライオンのことを、わたしはいつのまにか、好きになっていて、あのひとに、好きになるのはいいけれど、好きになりすぎないようにしなさいと忠告めいたことをいわれて、わかった、と頷いたけれど、ほんとうはもう、かなり、好きになりすぎている自覚が、あった。スマートフォンをみながら、街を歩いているひとたちに、わたしは、すごいなぁと感心していて、でも、まねしたくはないなぁというのが、正直なところだった。このあいだ、潔くテレビを処分したのだけれど、にんげん、テレビがなくても生きていけることを知って、わたしは、まんぞくしていた。やや濃いめの紅茶と、甘いコンポートと、さっぱりしたバニラアイスの調和に、感動しながら、雑多な音がいりまじる街をながめて、あの白いライオンに逢いたいと思った。
恋慕