a moment on tuesday
はく、はく、と呼吸する、水のなかのさかな。半地下の喫茶店で、ひっそりと生きている、あのひとが、わたしだけにつくってくれる、クロックムッシュ。雨が止んだので、ドライブに行こうと言った、こいびとは、瞬く間に朽ち果てた高層ビルのなかで、にんげんではないものと、ひとつになった。(同化、というときこえはいいけれど、実際には、吸収、されたのだった)
わたしはこの、火曜日の、ほんのわずかなあいだに、ドライブのやくそくと、こいびとを失い、高層ビルはにんげんではないものにのっとられ、混沌、とするかと思ったけれど、世間はあんがい、平然としていることを、街を歩いて知った。SNSはひどく、あれているというのに。かれのやさしさにならば埋もれて、窒息してもかまわない、というくらい、好きだったかというと、わからない、と思いながら、わたしは、あつあつのクロックムッシュにナイフをいれる。洗いものをすませた、あのひとが、ひたすらに、はく、はく、と口を開け閉めする、水槽のなかのさかなを、ながめている。
天窓には、月。
a moment on tuesday