兄さん お赦しにならないで

 兄さん
 わたしをお赦しにならないで
 わたしをお赦しにならないで
 兄さん
 あなたはわたしを責めたてることでしょう、
 ああ わたしにはそれが夢みるような音楽です、
 あなたがわたしを責め、打ち、憎悪の火をむけることは
 ああ わたしにはそれが魂を海と満たす光です。

 兄さん
 あなたはわたしをお嫌いでしょう、
 あなたはわたしになんか軽蔑の眸をむけることでしょう、
 せめて わたしが死したのち、
 はらはらと砂が毀れて往くように
 冷たい虚空を眺めるような視線を落としてくれればそれでいい、
 「自殺なんて」というあなたの軽蔑は、
 わたしには火のような官能をどっと投げ込まれるような心地、
 理不尽──わたしはそれに情欲がこみあがる、
 兄さんに打たれることで、魂の鎌首 肉食獣さながら踊り昇る、
 お赦しになんかならないで、兄さん 久遠に憎んでください、
 久遠の火を その暗みの籠る荒んだ眸に宿していて 美しいから。

 なぜ赦されたくないかって、わたし、
 兄さんに憎まれることで──戦えるから。ただ、それだけよ。
 兄さん
 あなたは、わたしを戦わせ、現実への発情を引き起こす
 ポルノです。

兄さん お赦しにならないで

兄さん お赦しにならないで

  • 自由詩
  • 掌編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-10-18

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