絶望さんとの付き合い方
絶望さんと落ちていった記憶
落ちた。
黒い髪が揺れて、一瞬が一日にも一年にも思える程長く感じて、黒い髪が、揺れて、踊るように、スローモーションで、黒い髪が、なびいて、
落ちていく。
黒い髪が揺れて隠した表情が見えない。
僕は走った。
僕は…
僕は………
*****
落ちた女の子を助けに橋の下に来た。
とても寒いが上着を脱いで川の中へ入る。沁みるように冷たく水が刺さる。
流れの抵抗で思うように進めない。どこに落ちた?流されてしまったのか。
…何故落ちたのだろう。自殺…?
その時。むくりと何かが川の中から立ち上がった。
落ちた女の子だった。生きてたのか…!
「大丈夫ですか!?」
じゃぶじゃぶと流れを掻き分けそちらへ向かう。
「……。」
じっと女の子はこちらを見つめる。暗くてよくわからないが、奇跡的に怪我はなさそうだ。着ているセーラー服は破けていたが。
「大丈夫ですか?」
もう一度聞く。こくりと頷いた。えっと…。
「とりあえず岸まで行きましょう。流れが速く危ないですから、つかまって。」
腕を出す。女の子はおとなしくつかまってきた。
岸に着いたので、上着をかけてあげた。しかし…俺が寒いな…。苦笑い。見ると女の子は落ち着いているようだ。話を聞くべきか、警察に届けるべきか…。
…面倒なことは避けたい。それに寒い。最寄りの警察に届けよう。
「歩ける?」
またこくりと頷く。
「じゃあ、ついてきて。」
反応は無かったが歩き出したらついてきた。
警察署はどこにあったかな…踏切のところが一番近いか。
河原を上がって線路の方へ向かって歩く。深夜なので人通りが無い。足音が2つ、シャッターの閉まった商店街に響いた。やがて線路につきあたったので曲がって線路沿いに行く。もうすぐだ。
「…ん?」
ふと気づくと後ろの足音が消えている。
…警察署に行くと察して逃げたか…。
追う気力が無かった。何より寒かった。もういいや…帰ろう。
僕は来た道を戻って家に向かった。
次の日。
暗くてよく見えなかったが、あのセーラー服はうちの高校のセーラー服だったらしい。
廊下ですれちがったのは紛れもなく、昨日の女の子だ。肩より少し長い髪、一重まぶたの目、無表情。
びっくりして、思わず声をかける。
「おい!」
彼女はこっちなど見ず、階段を上がる。…無視しあがった。追いかけて俺も階段を上がる。
「おいってば!」
通り過ぎる生徒が不思議そうにこちらを見る。
「無視すんなよ!」
ここまできたら気づいてるはずだろうに彼女は黙ってもくもくと階段をのぼる。どこへ向かうのだろう。これより上は…
「屋上に行くのか?」
しかし屋上は鍵が……かかってなかった。彼女は当たり前のよつにドアを開けて屋上へ出る。空は群青から水色へのグラデーションをまとっていた。雲一つなく、太陽を遮るものが無いので暖かかった。
「そういえば、風邪ひかなかったか?」
無視。伸びをする。眠くなってきたな…。薄ら目で彼女を見る。屋上のフェンスを越えようとしていた。全く何をしてるんだ……
え………!?
眠さで鈍くなっていた脳が冴えた時には彼女は
翔んでいた。
黒い髪が青い空に映えて、綺麗だった。
絶望さんとの付き合い方