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 てのひらから、花。
 あこがれていた、透明な日々に、だれかが、黒いインクをたらして。しみ。一瞬、呼吸をわすれた。学校のプールに浮かんでいた。星屑。あのこたちはみんな、鏡のむこうへ。わたしはひとり、みじかく切りすぎた指の爪を一本ずつ、その表面を撫でさすりながら、なまえのない感情とたたかってる。
 二十四時になったら、わたしのからだ、うでから、かじってくれるはずだった。バケモノ。踏切、という存在を理解しておらず、最終電車にはねられて、花びらとなって舞い散った。にんげんを、愛しいと、あのひとは云ったけれど、それはあのひとが、にんげんじゃないからで、にんげんであるわたしからすれば、にんげんほど、みにくいいきものはないと思う。ライオンの方が、愛らしいよ。くじらや、蝶の方が。うつくしいし、単純だし、複雑でないし、しがらみもきっと、ないはず。たとえば、他者を好きになるということ。それは、つまり、交わりたい、や、ひとつになりたい、への道のり。経過。これがときどき、つかれてしまうの。愉しんでいるひとも、いるけれど。

 真っ赤な花びらは、薔薇。血を吸った肉のように、しっとりしている。バケモノの残骸。

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  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-10-08

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