舞桜

序章

「n個の自然数1,2,3, ・・・・・・,nを一列に並べて得られる順列について、次の問いに答えよ。
 但しn>=4(nは4以上)とする・・・」
数学担当の小林が何か話してる。

(あ~~暇だな~~~~)

四月の初旬。新学期の始まったばかりの校庭には桜が咲き茂っていた。
二年生が体育でグラウンドを走る。暖かい風が教室に入ってくる。今は四時限目、私はぼ?とその景色を眺めていた。
(のどかだな)
「・・・田、櫻田!」

「は・・・はいっ」

「はいじゃない!この問題の答えはなんだと聞いてる!」

1) 数字n―1より右側には、n―1より小さい数字は並ばないものはいくつあるか。

(・・・あれ、なんだっけ、ああっ先にすすんでる。)
黒板を見ると私が書いていたところはすでに消され、次の課題に移っていた。

私はしかたなく、
「・・・、わ、わかりません。」

と答えた。
なぜかくすくす笑いが起きる。

「なんだ聞いてなかったのか?。もう高3だぞ。ぼやぼやしてるんじゃない!来年は受験だぞ!」
相変わらず煩い。なんでこの先生はこんなに煩いんだろ。春なのにぼ?っとしてもいいじゃないか。

先生が‘高校3年生の大変さ;を語り始めた。受験が来るのはあっという間だということを話し出した
その時、

「先生、答えは123 132 の2種類です」

「正解!さすが柊だ」

彼は柊 和磨。学年トップの秀才だ。性格は到って冷淡。

しかし先生は切り替わるのが速い、話を柊が遮ると話をやめた。

「櫻田、お前は剣道は強くても、勉強は空っきしだな。もっと勉強に集中しろ」

そして嫌味が飛ぶ。しかし無視して私はノートを写し出した。小林の舌打ちが聞えた。

そんなこんなで最後の時限が終わった。掃除とホームルームはあっと言う間。

(今日の授業は短いし部活動中止で早く帰れるし、家でゆっくりしよう)

明日が一年生の入学式だからだろう。担任が急いで出て行った。

私は小林が言っていたことを考えた。私は高3。勉強ができない私にとって社会と部活だけがとりえだ。

剣道部の中では私は女子なのに強い。道場に小さい頃から通っていたからだろう。剣道は私の自慢できる3の一位だ。でも、もう高3。もう受験勉強を始めなければいけない。

(私も高3か。勉強からはもう、逃げられない。大学目指してるもんね・・・)

悩んでいても仕方ない。やっぱり考えないようにして帰りの仕度を始めた。

「朱里、いっしょに帰ろう?」

紗希が話しかけてきた。紗希は私の友達で小学校から一緒だ。

「うん」

階段を一緒に降り、下駄箱、校門を抜ける。

帰り道にも桜が満開だった。

「私達も、高3かぁ」

「実感無いないねー」

他愛もないことを色々と喋っていて私はふと何気に聞いてみた。

「ねえ紗希」

「何?」

「紗希は幕末に興味ない?」

「え?、私社会苦手だし、全然」

「あはは、そうだよね。社会は小学校の頃から苦手だもんね・・・」

「そうだよ。それに古臭いし、面倒だもん」

「・・・そうだね」

私はこの時はちょっと傷ついた。しかし紗希は鈍感なのか気づかずに幕末を罵り続ける。

「・・・・でさ、大体、馬鹿じゃん。山南何某って人は自分が可愛がっていた沖田何某に首を斬られたんでしょ。可哀想?。しかも・・・」

あまりにも罵りが酷い。しかも鈍感だった性格がさらに鈍感になってる。友達といっても私の気持ちも考えてほしい。私は幕末が大好きなのに・・・。

「・・・・・ごめん、先に帰るっ」

「あっうん、またね?」

紗希の声が後ろで慌てたように聞えた。

・・・私は家まで走り帰った。

第壱話


「ただいまー」

って言ってもシーンとしている。暗くなっていたので私は電気を点けた。

その時、携帯がなった。お母さんからだった。
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発信者:母

今日も遅くなります。

お父さんが帰ってくるのは、8時くらいかな?

いつもみたいに適当に作って食べてね。

じゃあよろしく!
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今日はチャーハンにしよう。

私は材料を切って炒めて調味料とご飯とチャーハンの元を加えてまた炒め始めた。

両親は共働きだった。いつも、こんな感じ。

二人ともサラリーだ。お母さんの方がお父さんより昇格している。

二人とも不況の人員削減にも負けず頑張っている。

感謝はしてる。でも共働きのせいで小学校の授業参観も学校の行事もほとんど来てもらってない。

仕事は三度の飯や家族より大好きなんだそうだ。

(お母さん達はともかく、紗希はいつからああなったのかな・・・)

ずっといっしょに居たのに知らなかった。紗希にあんな嫌味な一面があったなんて。

「じゅーーーーー」

「わっ」

考えている間に炒めていたチャーハンが焦げだしていた。危機一髪。

私は焦げたチャーハンを食べなくてはいけなかった。

(なんで私はこんなにドジなんだ)

こんなだから紗希の性格も見抜けなかったのかもしれない。お互い鈍感だったのか。

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私の部屋はごく普通の家具が置いてある。ただ違うのはトレーニング用品がたくさんあること。
あと、木刀。

これで体力や筋力を鍛えている。しないのとするのではまったく力量が違う。木刀はやや太めのもの。

木刀ふるっても二親は留守だし怒られない。でも女の子の部屋にしては殺風景かもしれない。

紗希いわく私の顔はちょっとボーイッシュらしい。・・・まあよく言われる。

何時ものとおりトレーニングをし、木刀を振るった。汗をかいたからシャワーを浴びた。

私は再び部屋に戻った。今気づいたのだけど耳鳴りが酷くなっていた。なぜかおとといから耳鳴りがしていて最初は微かで気にしてなかったのだけれど。今は蝉の声のように聞こえる。

そして僅かに浮遊感や熱っぽさ。

でも気にしないことにした、私は小さいことにこだわらないことにしている。(いや小さいことなのか?)

パソコンをつけて「YOU TUBU」を開いた。見ているのは幕末の新撰組のドラマ。

私は幕末ではどっちかというと討幕派もいいが佐幕派の特に新撰組が好きだった。

女子が?と男子に言われたことがあった。でも女子が好きでもいいじゃないかと言い返した。

何が好きなのかは個人の自由だと思っている。私のお気に入りツールは幕末関連の物が多い。

その当時の通貨や常識的なこと。時刻や食文化、年表などなど、言い出したら限がない。

ただ一つちょっとマニアックかなと思ったけどお母さんに頼んで買ってもらった物がある。
(一人っ子のため欲しい物には苦労しない。しかし、お母さんが私のために貯めてくれてた通帳のお金の五分の一が消えた)

それはそのお店いわく幕末の京都のガラス写し写真。私はパソコンを止め、写真を桐箱から出す、

桐箱は自分で買った。写真は桐箱がなくちょっと傷がついていたが幕末期の野外の写真なので貴重品。

黒い布が当ててあり、外すとネガ、当てるとポジの画像に変わる。

当時は写真館で撮るのが普通だった。しかしこれはまたその店の店長いわくカメラ・オブスクラ (つまり写真を写す機材)の持ち主の「きまぐれ」らしい。

その写真はいわゆる裏道を写したもの。桜の木を写したかったのだろう。通りに桜が写っている。

ちょうど五部咲きだった。そして誰かが通ったであろうかすこしぶれている。

奇跡的に薄っすら人の姿が薄く写っていた。追われているのか一人の浪士らしき影が4?5人の浪人らしき影に追われている感じになっていた。

私はそれを持ったままベットに寝っ転がった。寝っ転がると眠たくなって眠りへと引き込まれた。

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「・・・!・・・・里!朱里!!!!」

・・・・・あれなんだろう。誰かが叫んでいる。私は薄っすらと目を開けた。

もう8時27分か・・・。耳鳴り凄い・・・ライブ並みかもしれない

「朱里!!!・・・・ろ!・・・・・・だ」

あの声はお父さん?耳鳴りが凄いのと寝ぼけているのでよく聞き取れない。私は聞き返そうとした。

でも階段や部屋の外が騒がしいのはわかった。心なしか写真画像が動いたように見えた。

ドアが荒々しく開いた、目に入ってきたのは黒いさらしのような布で覆面をした眼光の強い男だった。

侍風の服装で二本差し。何より目を引いたのは、

その男羽織っていた物は・・・・・・浅葱色のダンダラ模様の羽織だった。

「ひっ」

耳鳴りはいっそう強くなり、浮遊感や熱っぽさも増す。私は驚いた挙句写真を取り落としてしまった。

写真が落ちていくのがスローモーションのように見える。

写真が床から跳ね返る。それに窓からの月光が当る。

すると写真の中の画像がはっきりと映り動く、強く輝いた。

その瞬間、強く何かに引っ張られる感覚に襲われ、身体が軽くなり、耳をキーンという音が支配する。


私は写真から発せられるその光に飲み込まれ、何も、わからなくなった―――――――――――――

第弐話

 ―――――――――――――――――光が薄れ、薄っすらと周りが見え始めた。

(・・・私は、私は一体・・・。)

「・・・・・・・・・・・・うっ」

呻き声が出た。

頭に鈍痛が走った。身体全体が軋む。日差しが暖かい。ぼんやりとしていた視界がだんだんはっきりしてきた。

私は土ぼこりの道に仰向けになっていた。ゆっくりと上体を起こす。見知らぬ風景が広がっていた。

(あれ?ここ、私の部屋じゃない・・・。それより、ここ、どこ?)

目の前には時代劇のような瓦の乗った塀が連ね、通りに桜が咲き誇り、土ぼこりの道が広がっていた。
地面にずっと座っているわけにもいかずとりあえず立ち上がる。

桜が咲いているということは季節は春なんだろう。でもこの塀や道は何なんだろう。

見慣れた電信柱や道路は何処に行ってしまったんだろう。空は怖いくらいに青かった。

まず自分の状況を確認する。着ていた服は男物の着物に変化していた。刀も下がっている。

何気なく懐に手を入れてみる。

「ん?・・・・え?・・・・・・・・いやあぁあああぁあぁあゃあ――――――――――――――――」

私が触ったところには女にあるべき胸の膨らみがなかった。

(ということは・・・・・・・・・あれもあんなのに変わってるのかな?いやっ、信じたくない!)

それはあまりにも高校生の私には刺激がありすぎる物だった。

「何故、どうしてなんだ?」

言葉遣いまで勝手に変わっていた。私はもう放心状態だった。

声も、低くなっていた。

(何でこんな目に遭わなければいけないの?なんで私ばっかり・・・・・・!」

不運な自分を呪った。

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あれから暫くもんもんと考えていた。

あきらかに見知らぬ土地だった。自分の部屋じゃない。さっきまでは自分の部屋に居たはずだった。

なのになんでこんなところに居るのだろう。さっきはベットに居たではないか。

やっぱり、部屋に現れたあの変な男が原因だったのか。

服、身体まで変わるなんて。私は瞠目した。

「おい!ここにいたぞ」

「何?」

「・・・・・??」

浪士のような格好をした男達が此方に走ってきた。4?5人位だ。

(この場面はどこかで見たことがあるような気がする)

考えてる場合じゃない。私は身体に鞭をうち必死に走る。自然に外股になっていた。

その時、道の脇で何かフラッシュした気がした。

「この青二才!我々を侮辱したことを忘れた挙句逃げるつもりかっ」

「尊皇攘夷を志す我等を愚弄するなど失礼千万!」

(青二才は女子に使う言葉じゃないんじゃ・・・?しかも尊皇攘夷って幕末の時代じゃあるまいし・・・。それに私がいつ侮辱したって言うの?それに・・・なんで着物なんてきてるの?)

どうやらさっき悲鳴を上げたのを聞きつけたらしい。

勝手に因縁をつけられてるとしか思えなかった。私は曲がり角を曲がり、またさらに抜け道を通る。

表通りに出てしまった。浪士のような者達がここまで追ってくる。・・・追いつかれてしまった。

「もう逃げられぬぞ」

思わず私は鼻を鳴らしてしまった。

それが癪に障ったようで額に青筋が立ったものもいた。

(なんかべたな時代劇的な展開・・・)

こんな芝居くさい時代劇もないのだが・・・。それはさて置き。


浪士の一人が抜刀し、斬りかかってきた。周りから悲鳴が上がる。

私は力任せに腰に下がっていた物を抜き、受け止める。

刀だった。白刃が光る。

(なんで刀なんか?・・・・・・・あ、そうか腰に下がってたんだ)

刀の刃がたっているものなんて握ったことなんてない。せいぜい剣道の顧問の桐田という先生が持っていた刃引きの刀しか握ったことがなかった。

でもそんなこと考えてる場合じゃなかった。浪士が上段に切りかかってきた。でも甘い。隙だらけだ。

私にはその浪士の刀がスローに見えた。剣道の技で素早く浪士の太刀を払い、峰で小手、引き胴打ちを繰り出す。意外にあっさりとその一人は倒れた。弱いと油断していたのだろう。
(*もちろん、気を失っただけ)

「「「 小癪な! 」」」

残りの浪士のような男達が抜刀した。目に殺気がこもっている。

しかし此方は多勢に無勢。誰から見ても此方のほうが不利だった。私は死を覚悟した。

構えを取った。私が行っていた道場は田宮流という居合術の流派を現代に伝えている道場。

私が得意としたのは「追立」という相手を追い立てる様に、連続して斬り付ける技。でも人を殺すのは

恐かった。でも、仕方あるまい。精神を集中させる。

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「何をして居るのだ!」

私は浪士のような男達が後もう少しで斬りかかってきて私が技をだそうとしてたという時だった。

後ろでいきなり声がした。浪士のような男達と私はその声のほうを振り返る。

「うそだべ?・・・」

私は思わず方言を出してしまった。

後ろで怒鳴ったのは浅葱色の羽織を羽織っていた一団だった。

「 会津藩お預かり、壬生浪士組である!」

(うそだ、新撰組が現代に居るはずがない!でも・・・・・・・・・わたしを追ってきた人たちも浪士風だったし私、刀持ってたし、着物になってたし、男になってたし、現に新撰組の格好をした人達も居るし、道 路も電柱も車もガラス戸もない。和風の家ばかり。・・・・・いや、これはなんかの夢だ。夢に違いない。私は夢を見てるんだ!)

 混乱した私はそれとなく自分をねずむ。

「・・・痛っ」

痛みを感じた。夢じゃないと解っていた、でも信じたくなかった。

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その後、私を襲った浪士と私は捕縛され、牢屋のようなところに入れられた。

牢は浪士たちと一緒に入れられた。手が後ろ手に縛られていて痛い。口には懐紙の丸められた物を入れられ、布を巻かれている。

声すら出せない状況だった。

(やっぱり、タイムスリップ、したのかな・・・)

まだ信じられない自分がいた。目の前の木の格子がなぜか恨めしかった。

もうこれだけ確証できるものがあるのに信じられなかった。

身体が男になっていたのが今になっても気が狂いそうになった。

タイムスリップしたこともだけど男になっていたことが一番ショックだった。

女子だったのに男になるなんて、タイムスリップするなんて、普通じゃ考えられない。でも普通じゃないことが自身に起こってる。


この後は浪士組から取り調べをされるらしい。

(拷問だったらどうしよう・・・。そうしたら私大丈夫かな)

それ以上の悪いことが浮かんでは消え、どんどん考えが悪いほうに転ぶ。

もんもんと考えていたその時格子の扉が開いた。

「まず、お前からだ」

呼びに来たのは二十代半ばの非常に冷徹無愛想な顔だちの男だった。

第参話


空は雲ひとつない快晴。その下を八木邸の門を浅葱の羽織の者達が行ったり来たりしていた。

京の治安を守り、幕府に忠誠を誓い誠の志持った武士集う。

・・・壬生浪士組屯所である。

今、牢から出され、どこかの部屋に連れて行かれる途中だった。長い廊下が続いている。隣には四季の彩る庭が広がっていた。端午の節句なのか何所の長屋か解らないが鯉のぼりが空を泳いでいた。
おそらく江戸出身の者が住んでいるのだろう。

私は悩んだ。尋問をするのは、平成のあの時代に似ているのだろうか。

いや拷問部屋だろうか。嫌な考えが頭の中で渦巻き、滅入ってきた。明日はちゃんと生きているだろうか。この時代に私なんかが生きていけるんだろうか。浪士組に捕縛されていては安全だといえない。幕末の時代は好きで浪士組にあえて嬉しかった。でも好きだからといっても、憧れるのと、実際に来てしまうのは違うと思った。

父さん、母さんは元気でいるのか。私がいなくなって心配してないだろうか。ちゃんと暮らしてるだろうか。家事は大丈夫だろうか。(いままで大半は私がしていた)紗希も元気でいるだろうか。道場も剣道部ももう少し居たかった。

(私はいつからこんなにネガティブになったんだろう。前は・・・ポジティブ過ぎたかもしれない)

タイムスリップして性別まで変わってこんなにも性格は変わるものなのか。でもこの身体は明らかに自分の物ではない。私は確かに女として、学生として現代の日本と言う国に存在していたのだから。

元のこの身体の主は何処に行ってしまったのだろう。私と入れ替わったとでも言うんだろうか。それとも持ち主の魂だけが抜けてどこかに行ってしまったのか。ただ私が男になっただけなのか。

――――――荒々しく開けられたドア。侍風の服装で二本差しの浅葱色のダンダラ模様の羽織を羽織った男。

浮遊感、熱っぽさ。落ちていく写真。写真が床から跳ね返って月光に光る。

写真の中の画像がはっきりと映り動く、強く輝く。

何かに引っ張られる感覚がし、耳をキーンという音が支配し光に包まれた。

あの瞬間に何があったんだろう。あの男が原因だったんじゃないだろうか。なんで浅葱の羽織を着ていた。なんであの男が来たのが私の部屋だったんだろうか。

私の頭にいろんな思いが過ぎり、ぼんやりとタイムスリップした瞬間のことを考えていた。

「広瀬、巧くやれよ」

「・・・・・・・・・・え、あ、・・・・はい」

私がぼんやり考えていると先ほどの男がさっきまでは黙っていたが唐突にいった。

私の曖昧な返事に一瞬顔を顰めると大丈夫かとでも言うような顔をし、ふいと前を向いてしまった。

突然そういわれても何なのか解らない。咄嗟に返事をしてしまった。

(私、広瀬って名前じゃないんだけども・・・)

私は櫻田 朱里というれっきとした名前があった。(現代では)

そもそも何をどう巧くやれというんだろう。

この身体の持ち主だった人の知り合いだったんだろうか。だとしたら私が知ってるはずもない。

(幹部の斉藤一の写真の斉藤に似ているような気がしたんだけど・・・・・・)

男は警察官時代の斎藤一の写真の斉藤に似ていた。だとしたら本当に斉藤一なんだろうか。定かではない。

悶々と考えているうちにどうやら着いたようだ。障子が開け放たれた。

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「あんたは錦小路で何をしていたんだ」

部屋に入ったとともに取り調べは始まったみたいだ。私に尋問した人はやっぱり不審人物に名のるほどお節介じゃない。全体から短気そうな雰囲気が漂っている。

「私は浪士たちに絡まれていただけです」

「だとしてもあんたも不逞浪士であるのには変わらないだろう」

からかう様な表情で言われた。私の中の新撰組の人のイメージにぜんぜん違う。
私と言えていたのは良かった。でもやっぱり声が低いのも慣れない。あんまり喋りたくなくなった。

しかし私の頭の中で何かが崩れようとした。それにしても開口二言目で不逞浪士と決め付けるのは何事だ。

「勝手に不逞の輩と決め付けるのは止めて頂こう」

「いやあんたは不逞浪士だ」

「何を根拠に・・・「お世辞にも藩士、藩士だった者、に見えない」

「何だと・・・・「絶対、あんた不逞浪士だろう」

私いつ切れ易くなったのだろう。無意識に刀もないのに掴もうとしていた。額がひくついているところからすると青筋が立っているに違いない。頭の中で確実に何かが音を立てて崩れ去った。
あまりにも短気な私に斉藤さんは呆れているようだ。

私は無言で睨みつけた。しかしそれほど動揺してる様子もない。むしろ挑戦的にこっちをみている。

「あ?あ左之さん、喧嘩売ってどうするんですか。取り調べが進みませんよ」
 
なにやら茶化すような声が横から割り込んだ。皆一斉にそっちを向く。(私にいたっては凄い顔で)

入ってきたのはいたって好青年で天真爛漫な風体の男だった。

男が問うた。

「あれ? なんでみんなそろってその人一人に尋問してるんですか?」

「「「左之(助)一人に任せられるか(わけないじゃないですか)」」」

「・・・・・・・俺は信用されてないのか?」

原田左之助は皆に言われ、拗ねたのかブツブツ何か呟いていた。

「そう左之さんを頭っから信用しないのはいけないじゃないですか?。否定しませんけど」

「総司、お前なあ・・・・・・・・」

現状を説明すると部屋にいるのは私と斉藤一と原田左之助と沖田総司と六人だった。

「いきなりすみませんでしたね」

私はそんな中、まだ怒ってたわけだが学者風の人に言われてやっと冷静になった。と、同時に冷静になれなかった自分を恥じた。

私は気づかなかったが斉藤一とさっきの失礼発言を原田左之助と沖田総司以外に六人は最初っからこの部屋にいたようだ。

「・・・・・・・・・・あ、いや、冷静になれなかった私も悪い。相すみません」


(何で最後だけ時代劇調?!)っと自分の発言に困惑した私がいたがさておき。

「単刀直入に聞く。名前、生国、身分はなんだ」

私は声のほうを振り向いた。

(・・・・・!?、土方歳三?と近藤勇??)

現代に残っている写真そのものだった。喋ったのは土方の方だったが。(私は尋問の最初から怒りに刈られていたためさっきの会話もその場にいた人物にも気づかなかった)

私は驚いた。浪士組の近藤派全員がこの部屋にいたのだから。

(・・・なんて答えたらいいんだろう。そのまま答えても調べられたところで家も私もそこにいた痕跡がないのは私がこの時代の人間じゃないから嘘だと知られてしまうし、実在の人物がいいんだけどこの身体が誰かわからないし・・・・・・・・)

私は内心戸惑った。答えようがなかった。適当に知っている平隊士の名前を名乗ったらいいんだろうか。

(ん?平隊士・・・・・・あー、広瀬時宏!)

私は思いだした。斉藤が私を広瀬といっていたのを。斉藤が広瀬と言ったのも合点がいく。

新撰組で広瀬苗字は一人。広瀬時宏。新選組伍長、もしくは平隊士で変名を伊藤源助、加藤愛之助。 斎藤一(山口二郎)と同じく会津の密偵だったと言われる男だ。

(この身体の元持ち主は広瀬時宏か)

「なんだ、答えられないじゃねえか。やはりお前は不逞か間者みてえな輩なんじゃねえのか?」

気づくと部屋にいた者の視線が皆私のほうに向いていた。土方さんは私のほうを睨んでいた。

整った顔(女性受けしそうな)だが、今にも一刀両断しそうな凄まじい形容しがたい威圧をその目ははらんでいた。

私は息をのんだ。やはり想像していたより本物のほうがずっと迫力がある。

すっかり気おされそうになって、開きかけたとした口をつぐんだ。

「なあ、歳。そんなに威圧的な物言いでは答えられるものも答えられないじゃないか」

「そんなこといってもな、近藤さん」

近藤さんが土方さんを咎め、土方さんは腑に落ちないという風だったが渋々引き下がった。近藤さんに感謝しよう。あのままじゃその場で切り殺されていたに違いない。
近藤さんは写真より骨ばった印象じゃなく優しそうな人だった。人は見かけによらない。
私は間者の類と疑われたことがショックだった。

「そうだよ土方さん。普段でも鬼みたいに怖いのに初対面の人にもそれじゃ答えられるわけないじゃん」

「「違いねえ!」」

原田左之助と同類?(でもこの男の方が頭がよさそう)の男と沖田総司と同じくらいの
男が三人でふざけていた。

沖田も一緒に笑っている。


「手前等・・・・・・・」

土方さんがキレていたのはいうまでもない。近藤さんといえば苦笑している。

でも場は和んだ。

「で、君の名前は?」

沖田が聞いてきた。今度はなんとか落ち着いて答えることができた。

「あ、はい。先ほどはすぐに答えず、すみません。私は・・・広瀬時宏と申す者です。訳あって藩を抜けましました。生国は白河藩です」

私が答えると起こっていた笑いは止まり、皆が驚いた顔をしていた。

一部帳面(この時代のノートのような物)に書き記している者もいた。

その場を沈黙が包み込んだ。

舞桜

?になってるところ訂正。

舞桜

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • ミステリー
  • 時代・歴史
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2011-04-26

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  1. 序章
  2. 第壱話
  3. 第弐話
  4. 第参話