秋の夜長

 血。あかいはずだった。
 いつも、ねむいと思っていた。おなかすいた、というきもちは、うすかった。唐突に秋が、その存在を主張しはじめたので、かけらほど残っていたはずの夏は、急速に息絶えた。駅前の、なんのとりえもない、ふつうのビジネスホテルで、新人類たちの交わりを観ていた。べつに、にんげんと、さしてかわりなく、そのあたりはやはり、おなじ成分で構築されているもの同士、昆虫や、魚類なんかとは区別されているのだろうと考えながら、ほんのすこし鉄くさい、ビジネスホテルの洗面所の水を沸かして淹れたコーヒーを啜った。いっしょにやろうよと、新人類のひとりが誘ってきたけれど、本能や欲求なんかは、凪いだ湖のように(しん…)としていたし、とくになにもしていないのにつかれていたので、丁重に断った。コーヒーをぐいっといっきに飲みほして、つぎは緑茶でも飲もうかと思いながら、開かない窓のカーテンをめくり、うつくしいもくそもない、さびれた金融会社の看板が白い蛍光灯に照らされて、ますますさびれてみえるような街を、一瞥した。

秋の夜長

秋の夜長

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-10-05

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