魔法少女の恋と献身
「積雪詩集」収録。
契約、完了。あなたは、きょうから魔法少女。
街のひとびととわが信念に献身し、躰を瑕だらけにさせても戦いつづける、真白のアネモネさながらに可憐な魔法戦士として、厳密な審査の結果、あなたが撰びとられたのです。
診断基準? それはあなたに睡る少女性。魂の純潔を守護しようとする水晶の拒絶、純粋なる愛への憧れ、そして、まるで愛するように戦う態度へ踏みこむ勇気であります。年齢、性別、そんなの、とるにたらないのです。
*
メタモルフォーゼ。
そんな呪文を唱えると、きらきらとしたピアノ曲が空から降って、ほのかに陰影をうつろわせる白いヴェールにあなたは蔽われ、浮かんだままにくるくるとまわる。ヴェールに秘められ衣服はさっとかき消えて、みるみるうちにピンクとブラックでデザインされた、愛らしくガーリーなコスチュームに身をまとわせて、ふだん「もう子供じゃないんだから」と、あなたの趣味ではあるのだけれど外でつけることをはばかってしまう真紅のリボン、それが、黒髪にほうっと花咲くようにあらわれる。
そしてラストはどこからか飛んできた魔法のステッキ、なにかに憑かれたようにそれを手にとると、まるで朝顔が咲くように、白い光りのなかで、ふわりとスカートがひろがって、あなたは地上に降りたった。
「魔法少女になったら、」
とぼくがいいはじめる。
「願いごとがひとつ叶うんでしょう。あなたはなにを願ったの」
「わたしはね、」とあなたは、いまにもくずれ落ちてしまいそうな笑顔でこたえた。
「たとえ人間に純粋な献身の感情がなかったとしても、愛の美しさを信じていたいの。」
こたえになっていない、されど、あなたの人生の文脈が、きっとあるのだ。
あなたはいま戦っている、まるで愛するようなうごきをして。
きんと突きはなす硝子のような敵へ、撥ねかえすうごきを撥ねかえすように魔法攻撃、ときに物理攻撃、聖なる光りが破れ散る、踊るように無数の光りが曳き散らされて、あなたはついに撥ねとばされる。美しい敵。硬く冷たい、硝子盤のような敵。それは、あなたのセカイでもある。
すべてそれでいい。
そう呪文を唱え、不可能であるのにそれを抱きすくめようとする。すれば硝子の敵は燃えて往く。放たれた、虚無なる焔。されどそのうえでだって、あなたはあなたの善を構築することができる。反抗をすることができる。
あなたは、あなたの少女を、まだ、裏切ることができないのだ。それが、魔法少女になる条件。
魔法少女とは、世界にふくまれていないという、青春の孤独のことである。
*
戦闘、完了。明日もまた、あなたには、あなたの戦いがある。
あなたの姿はベッドにあり、そして睡ろうとしている。きみ、うとうとと、こんなことをぼくに話してくれた。
「わたしの正体、魔法少女。恋人達の幸福を守護する愛の番人、恋と革命のために闘う魔法戦士、けれどもわたし、かなしい片想いにしがみつく、一人の女でもあるのです。
わたしは睡る、水晶さながら。あなた、知ってはいなくって? わたし、まだみぬ王子様にキスをされると、まるで月のように青く燦くの」
魔法少女の恋と献身