愛の亡骸
奪うくらいならいっそ目の前で毀してくれませんか、と媚びるような声がした。別れよりも悲痛なのは出逢うことでしたね。ええ、でも、それは独りのときでも同じことが言えるのではなくて?同じどころか、そちらの方が耐え難いことね。得たものを思う方が尠いのもまた業か、と自嘲した。人に生まれたことを悔いた。
生きることそのものが祈りだった。記憶をすべて失うまでは。偽りの過去も愛していた。それが生きるということだから。
絶望というのはね、あなたが思っているよりもっと清らかで、美しいものなのよ、とあなたは笑った。死に対峙してから私はその真意を悟った。自分を愛することを軽蔑したのではなく、自分を愛するために自分を軽蔑したのだ、ということを私は思い出した。私は誰にも理解されない歌を歌いつづける。
愚かだと蔑まれても愚かさを胸に秘めつつすべてを愛せ
愛の亡骸