歴史よ バッハよ 喪失よ

 はや ぼくはバッハの音楽をしか聴きたくない、
 かの乱痴気な、躁がしいpsychedelicな音楽は聴きたくない、
 ベエトーヴェンは魂の躍動を急かすからイヤだ、イヤだ!
 はやぼく、バッハのしんと投身し侍るような曲だけが好ましい!

 歴史よ バッハはけっして芸術家ではありませんでした、
 歴史よ バッハは一教会オルガン弾きにすぎませんでした、
 はやぼくは バッハの音楽をしか聴きたくない、
 あとフォーレと、サティと、ビルエヴァンス諸々、後はイヤだ!

 ああ 平伏せよ、全我を委ね抛り侍るのだ──わが身を。
 バッハよ ぼくのうらがえしはぼくでありました、
 バッハよ ぼくは貴方と幾らかのほかは聴きたくもない、

 ぼくは全身で──ありとある光と音楽を散らかし、
 その乱雑と不潔と軽蔑との混沌でしずかに喪って往く、
 しずかに しずかに喪って往く、バッハと結ぶ魂のほかを。

歴史よ バッハよ 喪失よ

歴史よ バッハよ 喪失よ

  • 自由詩
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-10-03

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