舞踏る少女と六つの薔薇

  1
少女は (しずか)舞踏(ダンス)する、
まっしろな 華奢な喉元に、死際の
鶴のさけびを留め守護し、不断に通奏する断末魔、
青玻璃の神経に共苦とわななかせ、不可視の領域にて舞踏する、

  ──六つの薔薇の、一つ、炎ゆる真紅は掻き消えました。

少女は 閑に舞踏する、
其処に誰彼の姿はない、閃く不在と不在の閃き、
まっさらに剥かれた風景で、其が霧 星と光をしんと囁かせ、
視られるために舞踏るのではない、()を擲つため淋しいうごきで舞踏する、

  ──六つの薔薇の、二つ、炎ゆる真紅は掻き消えました。

少女は 閑に舞踏する、
霞と若葉と鉱石のみ くちにして、象牙色の肌、
硬質に締まり、ましろの花弁 月光の青み辷らす如く、
削がれた一身 一つの受皿と化し、月の涙享け身を花と捧げ祀り舞踏する、

  ──六つの薔薇の、三つ、炎ゆる真紅は掻き消えました。

  2
六つの薔薇の 炎ゆる眸は、
白銀花の白蛇の射す、どぎつい鏡の倫理の自意識です、
舞踏る少女 ゆら揺れる火焔に 波と陰翳として反映し、
真紅の乙女の御姿を、さながら焼身の翳を抛るがように空へ放つ、

紅い彗星の如く 投げ撃たれた、少女の真紅の翳、
rougeの色彩(いろ)した 火と明け渡された 痛みに磨かれたruby、
熱っぽい恋を剥ぎ落し剥ぎ落し、期待の欲心を削ぎ落し削ぎ落し、
ついに海さながら 蒼穹を一身に侍らされる crystalと明け渡されるか?

 *

少女は 閑に舞踏する、
されど心中火花散り 真鍮の切先に魂のたうち瑕を負う、
苦痛に流される鮮血と 原動力としての炎の意欲は逆流し結びつく、
苦痛と苦痛は結われ、少女のそれと閑な蒼穹の秘め事(ヴェール)の苦痛は結ばれる、

  ──六つの薔薇の、四つ、炎ゆる真紅は掻き消えました。

少女は閑に舞踏する、
心の不可視の領域で 人目の不可視の領域で、
少女みずから眼を閉ざし、抑制と理想に眸を神秘へ磨いて往く、
閑に、閑に舞踏する、なべてのうごき定められ、決断と同意に沈黙する、

  ──六つの薔薇の、五つ、炎ゆる真紅は掻き消えました。

 3
唯一に 残る薔薇の火を、ひたむきにみつめうる そが眸──
花の真紅を 花の真紅と澄みきって映す、則ち不純を剥がしたらしい、
その清む眼差 世界を不可解なものと映し、酷な程優しい笑みを刻む、
少女の魂 きづけば──肉の底へ転げ堕ちて、根源的な領域に在った。

ずたずたに摩耗した肉は はや舞踏るに向かない、必至のうごき、
唯一に 残る薔薇の火を、ひたむきにみつめうる そが眸──
薔薇の花弁を 一枚いちまい剝く如く、怜悧な夢想に眸で剥げば、
透徹す視線を火に射せば──彼れは蒼穹に睡る水晶、天の荘厳な瞼の向う側。

 *

少女は蒼穹の水晶に操作され、肉に睡る水晶をうごかしていたらしいのです、
かのひとを愛したが故、嫌悪家の少女、光の投影と自らを愛せもしたのです、
唯一に 残る薔薇の火を、ひたむきにみつめうる そが眸──
月のような滅びの盛に 炎え滾っております──はや、先永くはないでしょう。

   ──六つの薔薇の、最後の火、秘め事と眸に照らし、彼女は生きる。

舞踏る少女と六つの薔薇

舞踏る少女と六つの薔薇

  • 自由詩
  • 掌編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-10-01

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