つるべ落とし

(涼やかな季節、というものが年々、か細くなってゆくためか、秋の、秋らしい、秋めいたお洋服を買っても、すぐに冬になるの、と嘆いていたひとがいたっけ)
 夕暮れとき。攻撃するみたいな、車の鋭いクラクションが鳴り響く。
 ひとは、いつも、つねに、なにかに追われ、みえないものに怯え、おのれを守るために、無意識に、だれかを犠牲にして、それは、よくないことだとわかっていても、そうしてしまう。そういうふうにして、つくられているのが、わたしたちだった。夏の残骸を感じたはずの、午后は過ぎ去り、あっというまに落ちた太陽を刹那的に思って、でも、すぐに、きょうのばんごはんのことをかんがえている。だいたい混んでる、十七時半のドラッグストアを横目に。

つるべ落とし

つるべ落とし

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-09-30

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