Outer Story~M.C.A.I.のクリスマス
レイランドの不調
「明日のことなんだが、僕は有給休暇をとる」
ローウェル・レイランドが、沈痛な面持ちでMCAIのメンバーに告げたのは、聖なる夜の前日のことだ。
「その日は、君たちも自由にしてくれて構わない。とにかく、僕のことに構わず、そっとしておいてくれないかな」
「どうしたんだよ、レイランド。あんたらしくもない」
「気分が優れないんだ。昨日辺りから、特に」
アーニー・ブレントンが言うまでもなく、見るとレイランドは何だか青い顔をしていた。
「風邪ですか?」
と、ロビン・フィニータが心配そうに訊ねる。
「まさか、レイランドは悪魔なんだぜ。風邪なんか惹くかよ」
確かに。ローウェル・レイランドは、史上最強の悪魔だった。かつてあるギャングを利用し、この砂漠の街、アル・ディメオラを一躍巨大都市にまでのし上げ、強大な魔力をほしいままにした彼が、風邪ごときでダウンするとは到底考えにくかった。
怪訝そうなメンバーが顔を見合わせる中、レイランドの傍らで、しばらく黙考していたキリウ監理官が、やがて何かに気づいたのか恐る恐る、と言った口調でこう尋ねた。
「レイランド、違ってたらごめんなさい。もしかして、悪魔だから?」
すると、レイランドは口にするのも気分が悪いと言うように肯いた。
「悪魔だとなんで調子悪くなるんだよ?」
「そうか。明日はクリスマスだからか!」
エルク・サマラは冗談のつもりで言ったのだが、いつまで経ってもレイランドはその冗談に応答しようとしなかった。どころか、クリスマス、と言う単語を聞くのも煩わしいと言うように首をすくめ、あまつさえ、えづきそうになったので全員がその事実に、ようやく気がついた。
「い、いや、あの冗談のつもりで言ったんですけど・・・・・」
「大丈夫、レイ? 去年はそんなこと、全然なかったのに」
ルナ・モーリングが心配そうに駆け寄ったが、レイランドの気分は一向に改善しなさそうだった。
「僕にも意外なことなんだが、どうも悪魔として再生した反動で、この時期、魔力の減退が身体にこたえるらしい。やっぱり聖なる夜だからだな」
レイランドが封印されていたその罪深い名前を思い出し、悪魔として復活出来たのは、新入りの少年兵、ユーナ・ジーンの罪詠む手、ギルティ・ロッダーの能力によってだ。それによって、彼はかつての恐ろしいばかりの魔力を取り戻したのだが、それがまさかこんなところで思わぬ副作用を生むとは、誰も想像だに出来ないことだった。
「と、言うわけだ。その日は僕は指揮を離れて部屋に閉じこもるから、後は好きにしてくれ。それとユーナ、君は、その日はシノブとルナに付き合っていてくれよ。何かあっても僕はたぶん、手助け出来ないだろうから」
そう告げると、レイランドは足早にオフィスを去って行く。
「まさか、あいつ、よりによってクリスマスが苦手とはな」
レイランドがいなくなると、メンバーたちは興味深げな顔を見合わせた。
「意外な展開ね」
「意外でもねえだろ」
「悪魔ですからね」
「悪魔だからな」
「でもまあ、とりあえず彼が大人しくしておいてくれるのは、助かるわ。年の瀬だから、わたしも、色々とやっておかなくちゃいけないことがあるし」
そこにレイランドの心配をするものは、どうやらいなさそうだ。
「おい、エルク、明日はおれたちも早く切り上げてクロスロードで飲み明かそうぜ。ユーナたちも、後で合流しろよ」
「何言ってんの。あんたらはちゃんと仕事するの。この時期、大事な仕事はちゃんとあるんだからね」
「へいへい」
少年のクリスマス
クリスマスか。と、少年は曇った空を眺めた。
あくる日、天気は生憎と、あまりよくなかった。空は湿ったネズミ色にかき曇り、砂漠の都市はこの時期には珍しい、冷たい雨に濡れていた。
「よーし、じゃあ、クリスマスと言えば、おでかけしなくちゃですね!」
それでも、タイラ・シノブは上機嫌のようだ。基本的に彼女は、三人で出かける任務が大のお気に入りだった。そしてそれがクリスマスとなれば、テンションはよけい高い。
「ユーナくん、今日はどこ行きます? やっぱり食べ放題?」
「だめだよ、シノブ。夕方からクロスロードでパーティだし、買いだしに行かなくちゃ」
シノブとルナは楽しそうにクリスマスの日程を相談している。
「あ、でも、うかれてたらだめですよ。これは任務、お仕事です。今日も、二人でガードだけはちゃんとしなくちゃですね?」
「分かってる。いつも通りだ」
ユーナ・ジーンは、淡々として言った。どうやら、少年にとってクリスマスは、あまり意味をなすイベントではないようだ。
朝のかなり早い時間から三人で、街に出た。車は使えないので(ユーナは軍用車を運転した経験があるが黙っていた)徒歩移動だ。官庁街のサブウェイから、歓楽街のグランドセントラル駅まで電車を使うことにした。
巨大なプラットフォームには、人があふれていた。
「ユーナくん、クリスマスはいつもどう過ごしてるんですか?」
「別に、いつも通り」
少年は昨年は、戦場にいた。一昨年もだし、その前も。クリスマスのお祝いは兵営に帰還してからしたかも知れないが、少年には記憶がなかった。
「ヴァルキュリアには、クリスマスってあるの?」
「一応ね。でも、その日はクリスマスって言わない。『休戦記念日』」
少年が来た、極北の国、ヴァルキュリアは戦闘民族の国だ。国民のほとんどは傭兵で一年中、どこかの戦争に駆り出されている。
「でもその日だけは原則として戦闘はしない。国外にいる人たちも出来る限り、帰国の手筈をとる。ばらばらになった家族が、唯一、連絡を取り合う日なんだ」
「そうなんだ。いいね、家族が集まる日なんだ」
ルナは嬉しそうに微笑んだ。このアルトナの少女も、血のつながった家族と言える存在は誰ひとりここにはいない。MCAIのメンバーが家族のようなものなのだ。
聖夜の日の出会い
雨模様でも、そこには人があふれている。ディメオラは休まない街なのだ。
「ユーナくんて、何か欲しいものはあるんですか?」
シノブが訊いた。それはいくつかショッピングモールを廻った後だ。
「プレゼントです。あとで三人で交換しようと思ってるんです」
「別にないよ」
少年は顔を背けた。実際は新しいタングステン加工のナイフが欲しかったのだが、クリスマスプレゼントで武器を口にするのはさすがにためらわれた。
「ルナは?」
「実はわたし、ちょっと欲しいものがあるの。出来たら後で付き合ってほしいな」
「いいけど」
と、少女の様子をユーナは怪訝そうにみた。でも、いったい何が欲しいんだろう。
そのとき、天蓋のついたショッピングモールを抜け、三人はカジノホテルが林立する通りを歩いていた。まずその異変に気づいたのは、ルナだった。人混みの中、路地裏から聞こえるくぐもったうめき声に、彼女が耳を留めたのだ。ついで、自動車事故のような不穏な金属音が道行く人たちを驚かせる。
「なにかありましたね」
浮かれ気味とは言え、シノブも一応、捜査官だ。
「シノブ、ルナをみていて」
少女をシノブに任せると、ユーナは路地裏へ踏み込んだ。
そこは、ホテルの裏口に面した小さな通用路だ。隣り合っている安いフラットの隙間で、古ぼけたファンが白い湯気を吐き出している。ひとつ曲がった角がゴミ捨て場のようだ。
二人の男が立ちすくんでいる。ホテルの従業員か、黒いスーツ姿だが、あまり品はよくなさそうだ。そして雨の中、そこにいるのはゴミを捨てるためでもなさそうだった。
その足もとに、赤い衣装を着た男が這いつくばっていた。
「なにしてるの?」
と、ユーナは話しかけた。道を聞くような何気なさだ。
「ガキが、どこから入ってきた」
うるさそうに、男たちが手を振った。
すたすたと、歩いてくる少年を追い払おうとしたのだ。ユーナは続けた。
「そこに、倒れているのは人間だ。あんたたちがやったんだろ?」
「だったらどうした?」
「悪いけど、暴力は見過ごせない」
むざんに頬を歪めた男が、背の低いユーナをとらえようと手を伸ばした。その腕を少年は受け崩し、腰を落とすと右にそらした。男がバランスを崩す。その瞬間、彼は狭い壁面を蹴ってジャンプした。男の視界には、彼が消えたようにみえただろう。
すれ違いざま、飛びあがったユーナの、的確な手刀が男の延髄をピンポイントで揺るがした。意識を失った男は、一瞬で崩れ落ちた。
もう一人の男は、凶器を取り出そうとしたのだろう。スーツの内ポケットに手をやっていたが、そのもくろみはまったく上手くいかなかった。影のようにその背後に落ちてきたユーナが、腰のシースからナイフを抜いてその首筋に冷たい刃を突きつけていた。コーラルブルーの濡れた輝きを放つシグルドのナイフだ。押しこめば、人間の首の骨くらい、軽く切断できる。暗殺者の殺気で少年はささやいた。
「死にたくなかったら、黙って消えるんだ」
無許可のサンタクロース
倒れていたのは、老人だった。幸い、意識はあるようだ。
「まさかあんたが、助けてくれたのか」
と、老人は目を剥いた。ユーナも不審そうに老人の風体を見返した。
どうも、老人はみるからにサンタクロースのようだ。
「大丈夫だった? ユーナくん」
シノブたちが駆けつけた。それは痛めつけられ、雨と泥にまみれたサンタをユーナが助け起こしているところだった。
「あ、サンタクロース。もしかして本物?」
「単にクリスマスのキャンペーンの人だと思うけど」
冷めた少年の物言いに、老人は首を振って言った。
「いや、私は本物のサンタクロースだよ」
まさか、と見返す三人に、老人は真顔で答えた。
「ただし、未登録のサンタクロースだがな」
「無許可サンタ。ディメオラにもこの時期、現れるんですよねー」
と、シノブは言った。それは三人が老人を近くの病院まで運んだ後だった。
「でも、その正体は違法の魔法技術者だそうです。アーニーが言ってました。非合法の禁断魔術で作りだした禁制品の魔法アイテムや錬金術で生成した魔獣を売りつける魔法犯罪者。ときには怪しげな魔法実験で、非道な人体改造にも手を染める」
「でもあのおじいさん、そんなに悪い人じゃなさそうだったよ」
ルナは心配そうに、老人を気遣う。怪我をした老人を、優しく励ましていたのは彼女だった。
「もちろん、そこまでいったらかなりの重大犯罪です。その大部分は、サンタに名を借りたささやかな詐欺師だそうです。あのおじいさんがそうだとは言いませんが」
ささやかな思い出だが、売り損ねてね。
と、老人は言っていた。どうも、このホテルの支配人になにがしかの品を渡そうとしたようだ。
「でも、無茶ですね。このホテルの支配人、ギャングだし」
シノブの言うとおりだ。軽犯罪を働くにも相手が悪すぎる。
「そんなことより、そろそろ、戻らなくちゃです。みんなも仕事早く終わるだろうし、実際、アーニーからは早く来いってメール入ってきてます」
「でも」
と、少年は躊躇を口にしかけた。
ルナが欲しがっていたものが、まだ見つかってないのだ。
「あ、わたしは大丈夫だよ! 本当に気にしないで。それより、早くみんなに会いに行こうよ」
すぐに表情を作ったとは言え、ルナが心残りなのは二人にも分かった。
「どうします?」
「ルナ、欲しいものってどんなもの?」
「え、それは・・・・・」
口ごもるルナに、不思議そうに二人は首を傾げた。
「言いなよ」
ルナはあわてて手を振った。
「いいんだ、本当に。あとで探すから! だって、よく考えたら、ここには売ってなさそうなものだし」
「?」
人混みから切り返して、三人が駅のターミナルに入ろうとしたときだった。
「あいつらだ! 見つけたぞ、クソガキども」
さっきの男たちだ。しかも仲間を連れて来ている。軽く十五人ほどいそうだ。
「しょうがないな」
腰のナイフを手にしかけた少年の手を、シノブがとめる。さすがにこの中で騒ぎはまずい。他の人の目もある。ユーナを促し、シノブは人混みを掻き分けた。
「どうやって撒く?」
「どうしよう」
逃げると決めたはいいが、シノブに考えはないようだった。
黒服の男たちが迫ってくる。
三人が困っていると。
「こっちだ!」
あらぬ方向から、声がした。
さっきのサンタクロースだ。老人はエレベーターの石柱の蔭から、手を振っていた。そしてなんと、そこにあるはずのないドアが開いていて、小さなエレベーターがついている。もしかして魔法で? 三人は目を見張った。
「早く。時間がない」
クリスマスの小さな奇蹟
エレベーターは、老人と三人をターミナルの最上階へ運んだ。そこは給水設備のある、無人の屋上だ。
「おじいさん、やっぱり魔法使いだったんだね」
「まあな。ごくささやかなものだが」
ルナの言葉に、サンタクロースは優しく微笑んだ。
「あ、雨やみましたね」
みると、暗く澄んだ空に雪が降りだしてきている。さやさやと柔らかい大人しい粉雪だ。
「もしかしてこれも魔法で?」
「まさか」
と、老人は首をすくめた。
「君たちには迷惑をかけたから、何かお礼をしたいと思ったんだ。だが何も思いつかなくてね。せめて安全にうちまで送り届けてあげたいんだ」
老人はポケットから何かを取り出すと、自分と三人の身体にふりかけた。それは透明な液体が入った、小さなガラス瓶だった。
「これでいい」
と、老人は言った。
「こうすればしばらく、君たちは誰の目にも留まらない。ただし、横断歩道を渡るときは、車に気を付けないといけないが」
「すごい。そんなことも出来るんですね。もしや結構、凄腕サンタ?」
「はは、そう褒めんでくれ」
シノブの言葉に、老人は気恥ずかしげに微笑んだ。
「凄腕だったら、無許可じゃなく、プレゼントもちゃんと届けられる。言ったろ、ごく、ささやかなもんさ」
「サンタに会っただ? 魔法犯罪者じゃないだろうな」
アーニー・ブレントンは怪訝そうな顔だ。彼は、二時間も早くエルクと店に来て飲んでいた。
「て言うか、お前ら何にやにやしてんだ」
「そんなことないよ。とっても楽しかったし」
ルナは満面の笑みだ。なんだかんだ言ってもみんなで楽しい思い出が増えたせいもある。少年も同感だった。
老人の魔法のお陰で、クリスマスの買い物に素敵なお土産がついたのだ。
そう言えば今、歌っても誰にも気づかれないよね。
と、ルナは、いたずらそうに言った。クロスロードへの、人混みの道すがらだった。
「いいんじゃない」
ユーナとシノブは顔を見合わせた。そう、今ならなにをしても誰にも気づかれない。
「じゃあ、クリスマスの歌だね」
楽しそうに言うと、ルナはささやくように歌い出した。
『サンタが街にやってくる』だ。
そのとき、どこかで鐘が鳴った気がした。
そんな錯覚を覚えるくらい、鮮明に、でもふんわりと包み込むように。
ルナの声は、雪がふりつのるクリスマスの夜空に優しく響いた。
少女の声には、地上最強の魔力が籠もっている。それはこの世のすべての人間を思い通りに操ってしまうほどに強力な能力であり、内外の多くの勢力が彼女を狙っている。
そのため普段、彼女は外で歌うことを禁じられているのだ。
その魔力が、今夜は、聖夜のために解放された。
(ルナには最高のプレゼントかもな)
ユーナは思った。
道行く人たちにも、それは、同じことのようだ。どこからともなく聞こえるルナの歌声に、誰かがひとり、またひとりと足を止めて茫然と空を見上げる。かすかなクリスマスの歌が湧きあがり、それが一気に大合唱になった。そこにいたすべての人たちが足を止めてクリスマスを祝う歌に酔いしれている。
クリスマスの、小さな奇蹟。
でも誰も、その理由に気づかない。
そんなことが、あってもいい。
理由など、本来、必要じゃない。
だって、今夜は希望の夜なのだから。
三人は、はしゃぎながら道を急いだ。
ルナが欲しがっていたもの
やがて、キリウとロビンが到着した。驚くことに、レイランドを連れている。
「ぼ、僕はプレゼントなんかいらないぞ。ただそっとしておいてほしいんだ・・・・」
悪魔の調子は戻らなそうだった。彼のためにはこの聖夜が早く過ぎてくれることを、祈るしかないようだ。
「よし、メンツも揃ったし、おっぱじめようぜ!」
そんな彼をしり目に、パーティが始まった。
早くからエンジンをふかしていたアーニーとエルクは、大騒ぎだ。仕事が一段落したキリウも、この日ばかりはロビンと楽しそうにシャンパンのグラスを傾けて話しこんでいる。シノブは特大のホールケーキに目を輝かせ、ユーナの傍らでルナも微笑んでいる。
今夜は長くなりそうだ。
「ルナ、手を出して」
「え?」
唐突に、ユーナが言ったので、ルナは、首を傾げた。
「いいから、手を出す」
恐る恐る出した少女の手に、少年は何かを握らせた。
「これ・・・・・」
それはチェーンのついた、小さな剣だった。少年は言った。
「こんなものが欲しかったの?」
ルナは肯いた。嬉しくてしばらくは言葉が出ないようだった。
「本当にありがとう」
「ただのヴァルキュリアのお守りなのに」
それはヴァルキュリア人が異国の地で果てたとき、墓標の代わりになるお守りだ。ユーナも同じものを、首から下げている。
「どうして分かったの?」
「あのサンタに頼んだんだ」
別れ際、こっそりユーナは、老人に頼んだのだ。
お安い御用さ。
と、言うと、老人はポケットからそれを取り出した。なんとルナがなにが欲しいか、まったく聞くこともせずにだ。
(本当のサンタクロースだったのかもしれない)
「サンタに会っただって? 吐きそうだ」
サンタに会ったと聞いて、レイランドはさらに調子を崩していた。
みかねたアーニーがカウンターで、マスターのヴィトに無茶なお願いをしている。
「なあ、マスター、なんか不吉な歌かけてくれよ。レイランドがやばい」
「そんなこと言われても、なにかけりゃいいんだよ」
「やっぱデスメタルとかですかね」
「とにかく、早めに帰らせてくれ・・・・・」
「ユーナくん、なにを考えてたんですか」
と、シノブがふいに訊いてくる。さっきから少年が無言でずっと天井を見ているからだ。
「うん」
戦場で過ごしたクリスマスの晩を、ユーナは思いだしていた。あのときも、綺麗な雪が降っていたのだ。アルトナの森に、しんしんと降る雪。
少年はそれをひとり、一晩中眺めていたことを思い出した。
(綺麗だったな)
今年も綺麗な雪が降った。世にも珍しい、ディメオラの雪。
そして、何より今年は一人じゃない。
今日ほど奇跡的でなくても、こんなクリスマスを、来年も迎えたいと、少年は思った。寂しい戦場でなく、こんな、風景の中で。ルナが隣にいて。
「変な奴だな。ひとりでにやにやしやがって」
ユーナは、ルナに言った。
「綺麗だったね、雪」
「うん」
ルナは、肯いた。とても幸せそうに。
(ずっとこんな時間が続けばいいな)
戦争は終わり《ウォー・イズ・オーバー》。
それは少年の人生の中で一番静かな、休戦記念日だ。
Outer Story~M.C.A.I.のクリスマス
「ディメオラにサンタクロースっているの?」「いると思うよ。たぶん、犯罪者だと思うけど・・・・・」そもそもの発想はそんな会話でした。吸血鬼はいいとしてサンタを犯罪者にするのはどうかと思ったのですが、クリスマスの夜、ささやかな奇蹟を演出する無名の魔法使いのおじいさん、と言うことで、ほっこり感を大事に描いてみました。結果として一応、心温まる話になってれば・・・・・いいのですが。いかがでしたでしょうか。毎度ですがここまでお読みいただいた方、ありがとうございました。そして皆様によいクリスマスでありますように。